認知症の当事者の目から見た世界を、異世界への旅行記のスタイルでまとめた書籍『認知症世界の歩き方』が21年9月に発売され、22年2月で累計発行部数12万部突破と異例の大ヒットに。著者の筧裕介氏に聞いた、デザインで社会課題の解決を図る手法の現状とは?
認知症を扱った本は数多いが、この本の最大の特色はそのユニークな設定とデザインだ。本を開くと最初のページに、宝島のような島の地図のイラストがある。その島こそ「認知症世界」。読者は認知症とともに生きる世界で多くの人が経験するハプニングを、まるで実際に異世界を旅しているように体験できる。
島に着いた旅人がまず乗り込むのが、乗るとだんだん記憶をなくしていく「ミステリーバス」。旅の最初に訪れるのは、目に焼き付けたはずの記憶を跡形もなく消し去る幻の渓谷「ホワイトアウト渓谷」。続いて誰もがタイムスリップしてしまう住宅街「アルキタイヒルズ」に迷い込み、小腹がすいてレストランに入れば、そこは料理を表す言葉が存在しない創作ダイニング「やばゐ亭」。見るたびに村人の顔が変化するため絶対に覚えられない「顔無し族の村」、周囲がだまし絵のようになる「サッカク砂漠」などが次々と旅人を待ち受ける……。
各章にはそのスポットで起こる不思議な現象の原因となる心身機能障害が、認知症の人の体験談とともに語られる。例えば、誰もがタイムスリップして、自分が若かった頃に戻ってしまう住宅街「アルキタイヒルズ」では、認知症の人があてもなく街を歩き回ってしまう理由を解説。「顔無し族の村」では、認知症の人がよく知っているはずの人の顔が分からなくなる理由が明かされる。
最後に「この障害が原因と考えられる生活の困りごと」がイラストで具体的に紹介されている。こうした13のスポットを巡ることで、認知症世界の歩き方が分かる仕組みだ。
著者の筧裕介氏は、デザインで社会課題の解決を目指す特定非営利活動法人issue+design(イシュープラスデザイン)代表。自身が大学院の特任教授を務める慶応義塾大学などと産学官連携で「認知症未来共創ハブ」も運営している。これまで社会課題解決のためのデザイン領域の各種プロジェクトに取り組んできた著者が、こうしたスタイルの書籍を出した理由は何か。
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