全米小売業協会(NRF)が主催する小売り分野の大型イベント「NRF 2022:Retail's Big Show」。2年ぶりにリアル開催となった同イベントに、ヤプリのExecutive Specialist 伴大二郎氏が参加。現地リポートとともに、22年の小売りトレンドを2つのキーワードから読み解く。
リテールの進化は止まらない
全米小売業協会(NRF)が毎年1月、米ニューヨークで開催する世界最大規模の小売り展示会「NRF 2022:Retail's Big Show」。2年ぶりにリアルイベントとなって帰ってきた。筆者はコロナ禍前にリアルで開催されたNRF2020にも参加した。イベントテーマの「Vision」に象徴される通り、会場全体が小売りの未来を予感させ、希望に満ちあふれていた。多くのD2CやDNVB(Digitally Native Vertical Brand、D2Cと同義)が小売りの勢力を大きく変え、議論の中心は、「店舗の役割における体験の再定義」となっていた。各トークセッションでは、そのためのデジタル活用手法が多く語られた。
その直後に発生したパンデミックにより、翌年のNRF2021はオンライン開催となり、そこで語られる内容も大きく変化した。
NRF2021はコロナ禍で倒産する小売業も増える中、急速なデジタル投資でコロナ禍を勝ち抜いた大手企業の話題で持ちきりだった。オンライン購入商品の店頭受け取り「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」や、オンライン購入商品の店頭返品「BORIS(Buy Online Return In Store)」、客が商品を駐車場で受け取れる「カーブサイドピックアップ」など、変化を余儀なくされた消費者の生活に対して、各社がどのようにデジタルを活用して対応してきたか――。そうした生の情報が共有され、オンラインながら業界一丸となってこの危機を乗り越えようという一体感があった。
NRF2022は、「ACCELERATE(加速)」がイベントテーマとして掲げられた。その意図は基調講演から伝わってきた。小売業はコロナ禍で止まることなく変革を続けたが、それは客から必要とされ続けた結果、“止まることが許されなかった”からだと言ってもいいだろう。
この2年でオムニチャネルショッピングは当たり前となった。BOPIS/BORIS、カーブサイド、セルフチェックアウトなど多くのテクノロジーが導入され、組織や働き方にも大きな変化を起こした。くしくもコロナ禍という状況が、小売業を「ACCELERATE」させたのである。
コロナ禍を乗り越えた企業のほとんどは、「ハイスピードの変革」という経験を手に入れ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している企業である。
この先ポストコロナ時代になったとしても、この変革のスピードを止めることはもはや許されない。次に「ACCELERATE」の要素となるのは、「サステナブル」や「メタバース」だ。NRF2022では、そのための新たな変革が始まっていると強く感じさせられた。
顧客中心×変革の企業文化
パンデミックがDXを加速させたことは間違いない。従来であれば2~3年かかるとされてきたDX推進プロジェクトは、3~6カ月で行われている。それほど変化に対するスピードが重要となっており、迅速な対応を行うため、企業の判断基準やプロセスなどを変えていかなければならない。コロナ禍で変革できた企業の根幹には、以前から顧客中心の文化が染みついており、それに基づき変革に対応できる文化があったといえる。
基調講演「Reshaping retail with technology(テクノロジーで小売りを改革する)」に登壇した、米IBMのアーヴィンド・クリシュナCEO(最高経営責任者)は、IBM独自の調査リポートの結果、「顧客はオムニチャネルを受け入れ、望んでいる」と明かした。
調査対象となった消費者のうち73%が、「実店舗やデジタル、モバイルなど、特定のチャネルで購買行動を始めても、(そのチャネルにこだわることはなく)別のチャネルに移っても満足をする」という。また38%は実店舗で最初に商品情報に触れたとしても、そのままその場で購買行動を終了するわけではなく、モバイルサイトなどのオンラインストアでの購入に移るという。
サステナブルも買い物における、「当たり前」の域に達しつつある。筆者もよく引用している米IBMの購買志向に関する調査は、NRFで22年版が公開された。
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