企業がこぞって参入を表明し、過熱しているNFT(非代替性トークン)。だが、価格高騰といった派手なニュースばかりが目立ち、どうビジネスに活用できるのか、ぴんと来ていない人も少なくないはずだ。そんな中、投機的な目的ではなく「ファンとの接点づくり」を掲げて参入してきたのが、プロ野球パ・リーグ6球団の共同出資会社パシフィックリーグマーケティング(東京・中央)とメルカリだ。新しいファンマーケティングの動きに迫った。
大手企業が続々と活用を始めており、バズワードとなっているNFT。同技術を活用したデジタルアートなどが高額で取引されたという報道も相次いでいる。まさに“NFTバブル”ともいえる様相だ。
そもそもNFTとは、「Non-Fungible Token」の略であり、非代替性トークンと訳される。代替や交換ができないデータのことで、固有のものであることを証明でき、デジタル上での鑑定書や証明書としての役割を持つ。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)と同じくブロックチェーン(分散型台帳)技術をベースとしており、取引データをネットワークにつながった多数のコンピューターで共有するため、改ざんが非常に困難なのが特徴だ。
このようなNFTの定義や説明は、もはや耳にタコかもしれない。さらに、自社や自身のビジネスでも何か取り組んでおいたほうがいいかもしれないと、感じる人は多いだろう。とはいえ、どうビジネスに活用すればいいのか分からないというのも、多くの人が抱える本音ではないだろうか。
美術品や芸術作品、デジタルアートの売買など、投機的なイメージが先行するNFTだが、実は企業と消費者、さらには個人と個人をつなぐ、エンゲージメントを高めるツールとして大きな可能性を秘める。企業活用を考えるのであれば、コミュニケーションツールの一つとして検討してみてもいいかもしれない。
エンゲージメントを高めるための活用事例として先行するのが、スポーツビジネスだ。米プロバスケットボールNBAが展開するプレー映像をデジタルカードとして売買できる「Top Shot」は、日本では高額取引の話題が目立っているが、ユーザーコミュニティーが形成され、ファンのエンゲージメントを高める役割を担っている。
実は日本でもスポーツ×NFTの領域は急速に立ち上がっている。例えば、ディー・エヌ・エー(DeNA)は、NFTを組み合わせて横浜DeNAベイスターズの試合の名シーンをデジタルムービーとしてコレクションできるサービスを開始。楽天グループも、スポーツを含めたエンタメ領域でNFTの発行・販売が可能なプラットフォームの開発を進めている。スポーツチームの運営に多数のIT企業が参画しており、テクノロジーとコンテンツを組み合わせた新ビジネスの構築が加速しているのだ。
パ・リーグがNFT参入を急ぐわけ
中でも注目すべきは、パ・リーグの取り組みだ。2021年12月に、プロ野球パ・リーグ6球団の共同出資会社パシフィックリーグマーケティング(東京・中央、以下PLM)がメルカリと組んで、NFT事業に参入すると発表した。
新サービス「パ・リーグ Exciting Moments β(エキサイティング・モーメンツ・ベータ)」は、パ・リーグ6球団の試合映像から、名場面などの動画コンテンツを数量限定で販売する。通常の試合の公式映像はダウンロードや配信が禁止されているが、同サービスならダウンロードしてコレクションすることが可能。さらに、サービス内の機能を利用すればSNS(交流サイト)などで共有することもできる。
▼関連記事 メルカリとパ・リーグがNFT事業 名場面動画を数量限定販売現時点では、NFTの仕組みは利用しておらず、映像の購入のみ可能。22年以降に、ブロックチェーン技術を利用したコンテンツ管理機能を追加(オンチェーン化)し、コンテンツの2次流通に対応していく計画だ。
なぜ今、パ・リーグがNFT参入を急ぐのか。それは前述の通り、ファンとのエンゲージメントを高めることが急務だからだ。「投機的な盛り上がりは期待していない」と、PLMのCEO(最高経営責任者)である根岸友喜氏が語るように、ファンとのコミュニケーション重視の姿勢であることが分かる。
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