帝国ホテルが帝国ホテル東京(本館・タワー)の建て替え計画を発表。新タワー館が2024年度から30年度、新本館が31年度から36年度の実施を予定している。なぜこれほど長期にわたるのか。定保英弥社長は「営業を継続しながらの改装にこだわった。帝国ホテルとしてのサービスを絶やさず、今まで培ってきたお客様からの信用を財産にしていく」という。

「田根剛氏による帝国ホテル 東京 新本館イメージパース」(検討段階のものであり、今後行政協議などにより変更となる可能性あり。画像/Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
「田根剛氏による帝国ホテル東京 新本館イメージパース」(検討段階のものであり、今後行政協議などにより変更となる可能性あり。画像/Atelier Tsuyoshi Tane Architects)

 新型コロナウイルス禍の前後を問わず、ホテルを取り巻く環境は変化し続けてきた。大手外資ホテルはもちろんのこと、日本の老舗ホテルの大規模な改装、新しいライフスタイルを提案するホテルの登場など、まさに群雄割拠と言っても過言ではない。

 そんな中、老舗中の老舗である帝国ホテルが2036年に向け、東京本館を建て替える計画を発表した。抜てきされたのは、フランスを拠点に活躍している建築家の田根剛氏。日本を代表する老舗ホテルだけに保守的な方向に舵(かじ)を切るのではという予想は、良い意味で裏切られた。21年に行われた記者会見の場では、帝国ホテルの社長を務める定保英弥氏と田根氏の対話が強く印象に残った。そこで直に二人の話を聞きたいと、単独インタビューの機会を得た。

帝国ホテルの定保英弥社長(左)と建築家の田根剛氏(右)
帝国ホテルの定保英弥社長(左)と建築家の田根剛氏(右)

次世代にバトンタッチしていくプロジェクト

――今回のプロジェクトは、他には例を見ない長期にわたるものであること、日本人若手建築家の登用など、さまざまな面で斬新な決断であり、時代の流れにフィットしていると感じました。どのような思いを込められたのでしょうか。

定保英弥社長(以下、定保) 2020年、帝国ホテルはおかげさまで開業130周年を迎えることができました。これから先の100年、200年に及ぶであろう未来の歴史を築いていくことにあたり、今何をすることが肝要か、考えながら進めました。どういうコンセプトを目指すのか、ゼロからプランを練っていったのです。そして「品格・継承・挑戦」という3つのキーワードを柱にリサーチを重ね、国内外の多数の建築家の方々から候補者を絞り、コンペティションを行いました。

――外部の会社に丸投げするのではなく、社内で丁寧に進められたのですね。

定保 プロジェクトが進んでいく過程で、次世代にバトンタッチすることになります。帝国ホテルというブランドの価値を、社員一人ひとりが理解した上で、良いところを継承しながら、新しい形をつくっていかなければならない。30代後半のメンバーを中心とした20人くらいのプロジェクトチームを組み、彼らが中心となって進めていくことが、未来をつくるために肝要と考えたのです。

田根剛氏(以下、田根) 今回は慎重かつ大胆な決断をいただいたと光栄に思っています。コンペに参加するにあたり、帝国ホテルの方々とやりとりさせていただいたのですが、じっくり考え、自分の意見を持って前に進めていくのを目の当たりにし、これは良いプロジェクトになるという確信のようなものを抱きました。お付き合いすればするほど、帝国ホテルは経営の中心に人がいる、素晴らしいブランドということが分かってきて、これからを楽しみにしています。

定保 ありがとうございます。「じっくり考える」というところが、いかにもうちらしい!(笑)。速いことだけが良いのではなく、一人ひとりが本質に根差した判断ができることを大事にしてきたのでうれしいお話でもあります。人と人がぶつかり合いながら進めていくことが、良い成果を導き出すととらえてきたのです。最終的に田根さんにお願いすることにしたのは、卓越した才を携えて世界で活躍されていること、良い意味で頑固でブレるところがないこと、そしてこれからさらにという未来への大きな可能性を感じてのことでした。

――これほど長期の計画というのも、あまり聞いたことがありません。

定保 月日をかけるのは、営業を継続しながら改装することにこだわったからです。帝国ホテルとしてのサービスを絶やさず、今まで培ってきたお客様からの信用を財産にしていく。そうすることがベストと判断した結果です。

――コンセプトは「東洋の宝石」ということですが、田根さんは今までのお仕事がそうであったように、帝国ホテルのルーツに遡って考えられたのだと推察しました。

田根 今回はホテルという存在そのものについての根源的な意味を考察し、コンセプトを立てました。本質を大事にしながら、誰もが気にしている漠然とした未来について、希望を感じるような場をつくること、そこに重点を置いて進めました。

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