東京海上ホールディングス傘下のイーデザイン損害保険は、2024年度末までに既存の自動車保険を新保険商品「&e(アンディー)」に一本化する。日経クロストレンドの取材で明らかになった。&eは、イーデザイン損保がパーパス(存在意義)として掲げる「交通事故のない世界の実現」に向けて、21年11月18日に販売を開始した新たな保険商品。一本化によって、従来型の保険から事業モデルを大きく変革させる。

イーデザイン損害保険は2021年11月18日、IoTセンサーとスマートフォンを組み合わせた新自動車保険「&e(アンディー)」の販売を始めた。24年末を目途に、自動車保険を&eに一本化する
イーデザイン損害保険は2021年11月18日、IoTセンサーとスマートフォンを組み合わせた新自動車保険「&e(アンディー)」の販売を始めた。24年末を目途に、自動車保険を&eに一本化する

 イーデザイン損保の&eは、さまざまなテクノロジーと保険を組み合わせた「インシュアテック」と呼ばれる新たなサービスだ。契約者には手のひらに乗るサイズのIoTセンサーを提供し、それをクルマに積載してもらう。そのセンサーとスマートフォン向けアプリを連係して利用する。

 事故の場合には、IoTセンサーが自動で衝撃を検知し、スマホから1タップで事故の連絡が可能。さらに、IoTセンサーが検知した衝撃やスマホのGPS(全地球測位システム)のデータを基に事故状況を動画で再現し、事故前後のクルマの速度、衝撃、損傷などのデータを担当者が把握する。契約者の不安を軽減できるようにサポートし、事故後の保障などの早期解決に役立てる。

 単に保険の利便性をテクノロジーで高めただけではない。IoTセンサーが検知したデータを基に判定した急ブレーキ、急ハンドル、急加速などの情報から、運転の安全性を評価する「運転スコア」が算出され、自身の運転傾向がアプリ上で分かる。運転傾向をアプリで振り返ることで、危険行動の有無などが分かり、運転を改善するための自己学習ができる。

IoTセンサーが検知したデータを基に判定した急ブレーキ、急ハンドル、急加速などの情報から、運転の安全性を評価する「運転スコア」が算出される
IoTセンサーが検知したデータを基に判定した急ブレーキ、急ハンドル、急加速などの情報から、運転の安全性を評価する「運転スコア」が算出される

 また、過去の事故の傾向から作成した安全運転を手助けする「運転テーマ」を定期的にアプリで配信し、顧客の運転行動をサポートする。桑原社長はこれを「安全運転のコーチング付きサブスクリプション型サービス」と表現する。

 そうした安全運転を続けることで、優れたドライバーであることが評価されて、ポイントがたまる。たまったポイントはコーヒーなどの商品と交換でき、使うほど得になる。また、IoTセンサーで収集したデータは利用者の同意を得た上で、自治体や企業と連携した事故削減の取り組み「Safe Drive With」で活用される。

 例えば、米アップルの腕時計型デバイス「Apple Watch」経由で、運転中とその前後の心拍数や前日の睡眠時間などのヘルスケアデータを取得し、安全運転との相関関係を調べるといった具合だ。事故のない社会を顧客と共創するスタンスで、&eは今までの保険商品とはまったく異なるサービスとなっている。

 損害保険会社が、複数の自動車保険サービスを展開することはまれなケース。ただ併売を続けるわけではなく、24年度末を目標に既存の保険商品を&eに一本化させる方針だ。サービス開発の背景や販売戦略をイーデザイン損保の桑原茂雄社長に聞いた。

イーデザイン損害保険の桑原茂雄社長
イーデザイン損害保険の桑原茂雄社長
桑原 茂雄氏
イーデザイン損害保険 取締役社長
1989年 東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。2015年よりビジネスプロセス改革部長として、同社の業務改革を主導。17年、東京海上日動火災保険の理事に就任。18年よりイーデザイン損害保険の取締役社長に就任

――「&e(アンディー)」開発の経緯は。

 そもそも「保険」というサービスは面白くないと思っていた。例えば、消費者を集めて、マーケティング調査を目的としたインタビューをする際、緊張をほぐすために「どのようなクルマに乗っているか」「週末はどこに出かけるか」という話題を持ち出すと、マイカーの自慢のポイントなどを生き生きと話してくれる。ところが、いざ保険の話になると、顔が曇ってしまう。保険は分かりにくい、難しい、考えたくない、そんな感情が表情に表れている。

 保険料を払っても、それに対する見返りは事故が起きたときだけ。もちろん役に立つサービスだが、そもそも事故が起こらないことが、消費者にとっては最良に決まっている。そこで、保険という事業にメスを入れるべく&eを開発した。保険から、世の中から事故をなくす事業へとドメインを転換する宣言のような位置付けだ。

 開発する上では、特にインセンティブ設計に力を入れた。クルマに設置したセンサーは急ブレーキや急加速などの運転行動を感知する。その運転の安全性に応じて、&eのアプリ上でポイントを取得できる仕組みだ。日々の安全運転の積み重ねで、よりお得に利用できる。

 クルマの運転には細々としたルールがある。運転者の頭の中には入っていても、なあなあになっていることは多い。そこで、2週間に1回、運転テーマを発信して、そのテーマを意識して運転してもらう。それができるとポイントがたまって、コーヒーなどの商品と交換できる。&eを通じて運転のマナーを知って、運転の改善につなげていくのは他社にはない機能だ。

2週間に1回、アプリに運転テーマを発信して、そのテーマを意識して運転してもらうことで安全運転につなげる
2週間に1回、アプリに運転テーマを発信して、そのテーマを意識して運転してもらうことで安全運転につなげる

 ポイントは意外とたまる。私自身は(先行で社内向けに提供を開始した)21年5月に利用を開始して、既に500ポイントがたまっている。普通の運転者でもその程度はたまる。そうした中で、自分自身の運転行動にも変化が表れている。例えば、急ブレーキを避けるために、歩行者信号が点滅しているかどうかを意識的に見るなど、より安全に気を配った運転をするようになった。運転データはスマホにたまり、後で確認できる。

事故がなくなった世界での保険の存在意義は

――事故をなくすことをパーパスに掲げているが、そうなると損保は不要になる。

 「事故が飯の種」というのもおかしな話ではあるが、サービスを開発する上で葛藤はあった。ただ、保険を買いたくて買っている人はいない。顧客ニーズを深掘りすると、事故に遭わない、世の中から事故がない世界を望んでいる。そこに本当の顧客インサイトがある。

 クルマが進化することで、事故は減っているが、それでもなお悲しい事故はある。最近は事故が起こった場合、ドライブレコーダーに記録されたデータを契約者から送ってもらい、映像を見て検証している。「この悲しい状況を皆さんはこれからも見たいのか」と社員に問うと、誰もが見たくないと答える。それなら、事故をなくすサービスへと事業ドメインを広げて、真正面から我々は取り組むべきではないかと伝えてきた。そこにデジタルという使えるツールが出てきて、&eのような事業モデルを実現できた。

 ただし、保険が不要になり、それで事業が終わってしまうのかというと、そうではない。世の中からリスクがなくなるということはない。技術進化の過程でも、新たなリスクは出てくる。それに対して、我々は色々な領域でリスクを減らすサービスへとビジネスの領域を広げていけばいい。自動車保険以外のサービスも開発する可能性はある。他の企業や自治体も巻き込み、真正面から勝負していきたいと思っている。

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