カーナビゲーションや車両制御機器などを手がけるデンソーテン(神戸市)は、2021年10月から11月末にかけて、大規模イベントの混雑緩和を目的としたユニークなMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実証実験を行った。その名も、「困ってMaaS」。舞台はサッカーJリーグのヴィッセル神戸が拠点とするノエビアスタジアム神戸だ。その効果とは?

デンソーテンが実証実験を行うアプリ「困ってMaaS」
デンソーテンが実証実験を行うアプリ「困ってMaaS」

 デンソーテンは、自動車部品メーカー大手であるデンソーの子会社。無線機などの通信機器にルーツを持ち、現在は自動車に使われる電子制御機器や通信機器、カーナビ、ドライブレコーダーなど、カーエレクトロニクス製品を手がけている。このため、自動車メーカーからタクシー、バス、トラックの事業者まで、幅広い顧客を抱えている。

 そんな顧客の声を聞いてみると、現場ではさまざまな困りごとが発生していることが見えてきた。例えば、高齢化による人手不足や、免許返納後の移動手段の確保、バスの赤字路線への対応などだ。そこでデンソーテンは、利用者や事業者の課題解決を目指してMaaSへの取り組みを始めた。

 現在、手がけているMaaSの切り口は3種類。1つ目は旅行者の移動需要を喚起し、効率的な移動手段を提供する「ツーリズムMaaS」。2つ目は、移動困難地域において交通弱者の方々の利便性を向上する「地域活性化MaaS」。そして3つ目が、「困ってMaaS」だ。

 一体何に困っているのかというと、サッカーJリーグの試合のような大規模イベント終了時、観客が一斉に帰路へつくことで発生する道路や最寄り駅の混雑だ。同社が実証実験を行うノエビアスタジアム神戸は、Jリーグチームのヴィッセル神戸がホームスタジアムとして使う。収容人数は約3万人で、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手が来てからは、より多くのファンを引き寄せている。

 試合終了とともに観客が一斉に最寄りの地下鉄駅(神戸市営地下鉄海岸線の御崎公園駅)を目指せば、当然ながらホームに入りきらず、多くの人が待たされることになる。実際、「5000人以上が1時間くらい電車を待たされるような状況になることもあった」と、デンソーテンのイノベーション創出センタープロジェクトリーダー、田中真一氏は話す。これは新型コロナウイルス禍前の数字だが、密を避けるという観点から今後も混雑緩和が大きな課題となる。そんな困りごとの解決を目指すのが、困ってMaaSである。

 もともとデンソーテンが単独で、神戸大学と楽天モバイルが「大学発アーバンイノベーション神戸」の取り組みの一環で、それぞれがノエビアスタジアム神戸を舞台に類似する混雑緩和に向けた取り組みを行っていた。知見や開発資産を共有し合うことで、地域課題の解決や混雑緩和に一層取り組めること、ユーザーに提供するソリューションの付加価値を高められることから、3者で連携して進めることになった。3者での実証実験は、21年10月から11月に開催されたヴィッセル神戸のホームゲーム5試合で実施された。

困ってMaaSで帰宅者が集中することを防ぎ、スタジアム周辺での消費を促す
困ってMaaSで帰宅者が集中することを防ぎ、スタジアム周辺での消費を促す
デンソーテンのイノベーション創出センタープロジェクトリーダー、田中真一氏
デンソーテンのイノベーション創出センタープロジェクトリーダー、田中真一氏

その場に待機すればポイントがたまる

 困ってMaaSは、スマートフォン向けアプリとして利用者に提供している。アプリには移動需要の平準化を目的として、「(1)交通状況の可視化」「(2)クーポンによる施設内や周辺店舗への誘導」「(3)効率的な交通提供」の3つの機能を用意する。

困ってMaaSのアプリ画面。帰宅時間を遅らせるとポイントが付与される
困ってMaaSのアプリ画面。帰宅時間を遅らせるとポイントが付与される

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