ワコールの靴ブランド「サクセスウォーク」は、足長、足幅、足囲を自動で測る「REAL FOOT special customized for WACOAL(ワコールオリジナル足型自動計測機)」を2021年春に導入した。きっかけは若い世代の足型の変化への気付き。百貨店などでの販売会に導入したところ、購買率を68%まで高める効果を発揮している。
「最近の若いお客様は、サイズを正確に測った上で靴を選んでも、足に合わないケースがある」。ワコールオリジナル足型自動計測機を開発するきっかけになったのは、ワコールウエルネス事業部 営業部フット営業課長の細川清里氏が全国の靴販売員から聞いたこんな話がきっかけだった。
女性向け下着メーカーとして広く知られるワコールが、靴の製造・販売事業を始めたのは1989年。女性下着同様、靴でも快適性の高い商品を、と考えたのが発端だ。2004年には、靴ブランドの「サクセスウォーク」を立ち上げ、働く女性向けのパンプスに事業を転換。長時間、店頭に立つ自社の下着の販売員が足の痛みや疲れに悩んでいたことから研究を始め、主に立ち仕事をする女性が快適に履ける靴の製造、販売にかじを切った。
サクセスウォークの特徴は、ヒールの位置、ヒールの向き、インソールを重視した設計だ。かかとの真下にヒールを置くことで足の前部分にかかりがちな負担を軽減、ヒールの向きを足を蹴り出す方向に合わせることで歩行時の動きをサポート、インソールで足の前滑りを抑えるといった狙いがある。
こうした持ち味を生かすには、利用者の足と靴を適切に合わせることが必須条件だ。そのため、ブランド立ち上げ以来、百貨店などで定期的に「足型計測相談会」と名付けた催事を開催、商品を販売してきた。相談会では、シューフィッターが来店客一人ひとりの足長(かかとから最も長い足指までの長さ、いわゆるサイズ)、足幅(親指と小指の付け根を結んだ長さ)、足囲(親指と小指の付け根を1周囲んだ長さ、いわゆるワイズ)を計測。足長と足囲の組み合わせが異なる品番の中から、来店客に最適な一足を提案する。
若い世代はかかとが小さい
サクセスウォークの主な顧客は、販売員や営業職、キャビンアテンダントなど、立ち時間、歩き時間が長い職業の人たちだ。一方で、近年は若年層も増えているという。「若い世代には就職活動で初めてパンプスを履くという人が多く、母親に勧められて一緒に来店するケースや、企業回りをする中で足の痛みに悩み、自分でネットなどで調べて来店するケースがある」(細川氏)
そうした中で、販売の現場から上がってきたのが冒頭の話だ。2017年のことで、細川氏はこう振り返る。「インナー部門から靴部門へ異動したものの、私は靴のことをほとんど知らなかった。だから2カ月かけて、全国の靴売り場を回り、販売員全員に話を聞いた。すると、『以前は足長、足幅、足囲を測れば、ピタリと合った靴が選べた。でも、最近の若いお客様は、正確に測っても靴が合わないことがある』という声がちらほらと聞こえてきた」
商品開発などで協力を得ている大学関係者などに相談したところ、指摘されたのがかかとの大きさだ。幼少期の遊びや過ごし方が変化したことで、10~20代は40~50代に比べてかかとのサイズや丸み、後ろ側への出っ張り具合が小さい傾向にあり、従来の靴の形では靴擦れしたり、歩行時にかかとがぱかぱかと浮いたりするという。
この変化に対応すべく、細川氏は2つのプロジェクトに乗り出した。1つが靴型バリエーションの拡充だ。大学関係者に加え、靴職人、製造工場も巻き込んで、かかとの小さい人にも対応できる靴型の検証をスタート。「研究データなどを基に試作を繰り返した。社員の足を観察し、『ちょっと靴を脱いでみて』と実際に足を見せてもらってサンプルを集めたこともある」(細川氏)。結果、足のかかとを3タイプに分類することに成功。従来の足長、足囲にかかとのタイプも組み合わせることで、現在の商品は42品番、712SKU(商品管理の最小単位、品目)にまで広がった(2021年秋冬シーズン)。
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