新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2店舗の閉店に追い込まれたチョコレート販売のβace(ベース、東京・渋谷)。ECやSNS戦略の強化に軸足を置き、現在の本店売り上げはコロナ禍前の1.4倍までV字回復した。デジタル戦略の成功の鍵は店舗と同様の「シズル感」をいかに伝えるかにあった。
「店舗がガラガラになってしまう。恐怖を感じた」。物理的に人が来られないというのは初めてのこと。どれだけいいものを作っても届けられる顧客が目の前にいない。2020年4月、緊急事態宣言が発出された当時の心境をβace代表の山下貴嗣氏は打ち明ける。
同社のチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」は20年10月に池袋店を、11月に銀座店を閉店した。池袋店はテナント契約の終了が同時期に重なったという事情もあったが、銀座店は外出自粛による打撃をまともに受けた。
ミニマルは、リアル店舗での顧客とのコミュニケーションに重きを置いた「店舗で育ってきたブランド」(山下氏)。「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」というスタイルで、カカオ豆の選別や仕入れ、加工、製造、販売、つまりカカオ豆がチョコレートバーになるまでのすべてを一貫して手掛ける。
ニカラグアなどカカオ豆の生産農家を、山下氏が現地まで訪れる。生産者を支援する意味も込め、フェアトレードの価格以上で取引し、高品質の材料を仕入れている。そうしたチョコレートの背景にあるストーリーを、店舗での接客はもちろん、顧客を集めたワークショップを通じて伝えていた。
本格的なデジタル活用を決意
店舗を開くことができなければ、そうした顧客との接点も失われる。「コロナ禍という環境変化があっても、それを所与のものとしてきちんと商売を続けて顧客に価値を提供する」。そう考えた山下氏は、デジタル活用に大きく舵(かじ)を切ることを決意する。まず着手したのがECの強化だ。
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