電動車いす開発スタートアップのWHILL(ウィル、東京・品川)は、2021年11月1日、折りたたみ式の新モデル「WHILL Model F」の販売を開始した。新モデルは、コンパクトに折りたためる軽量モデル。従来型に比べて車両価格はほぼ半額に抑えられている。シニアの移動を活発化させる有力なツールとなるか。
WHILL(ウィル)の新モデル「WHILL Model F(以下Model F)」は、コンパクトに折りたためて軽量なのが特徴で、手軽にクルマのトランクに乗せることができ、新幹線や飛行機などの公共交通機関も利用しやすい。従来モデルの「WHILL Model C2(以下Model C2)」とは別の、新たな製品ラインとなる。
新モデルの開発にあたり「これまでの電動車いすにあった3つの課題解決を目指した」と、同社事業開発・戦略室の赤間礼氏は説明する。
1つ目は「置き場所」の問題。日本では、電動車いすを置ける広さの玄関は少なく、保管場所に困るユーザーが多かった。Model C2も3つに分解することは可能だが、使うたびに組み立てと分解を繰り返すのは現実的ではない。
2つ目は「重さ」だ。従来モデルのModel C2の重さは約52キログラムで、人によっては持ち運びや取り回しに不安を覚える重量だ。そして3つ目は「価格」。20万~40万円程度で買える電動車いすも多い中、Model C2の50万円近い価格は、気軽に手を出せる金額ではない。介護保険を利用すれば安価にレンタルすることも可能だが、利用するには要介護認定などの条件がある。
赤間氏によると、WHILLを使ってみたいと思いながらも、これら3つの課題のために購入をためらっていたケースも多かったという。そこでModel Fは、「いかに簡単に折りたためるか」(赤間氏)をテーマに開発。車体を大幅に軽量化し、Model C2と比べて半分の約27キログラムに抑えた。さらに価格は、C2のほぼ半額に近い26万8000円(Model C2は47万3000円)だ。
そのぶん、省かれた部分もある。同社製品の特徴であったオムニホイール(前後だけでなく左右にも回転する構造のタイヤ)は搭載せず、段差乗り越え性能は約3.5センチメートルと、Model C2より約1.5センチメートル低くなった。Model C2が搭載するサスペンションも、Model Fには非搭載。代わりに後輪をエアタイヤとすることでショックを吸収するが、舗装状態が悪い歩道や芝生といった悪路での走破性や快適性はModel C2に軍配が上がる。だがModel Fには、コンパクトで気軽に持ち出しやすいというModel C2にない優位点がある。
1日3800円から利用できる「日額レンタル」
WHILLによると、日本の65歳以上の人口約3600万人のうち、実に3人に1人となる約1000万人が「500メートル以上歩くのはつらい」と感じているという。一方で、同社が50~64歳までの男女を対象に実施した調査によると「65歳以降にしたいことがある」と回答した人は8割を超え、「したいこと」のトップは旅行だった。Model Fは、そんな心持ちがアクティブなシニア層の開拓を狙った製品だ。
より手軽にModel Fを利用してもらうため、WHILLは購入以外に、「日額レンタル」サービスを用意している。3日間から30日間まで、8種類の日数からレンタル期間を選択でき、1日3800円(非課税、送料別)で利用できるというもの。例えば、実家の親が来ている間だけ借りる、あるいは旅行先や出張先で使うために借りるといった用途を想定している。このため日額レンタルは自宅だけでなく、旅先のホテルで受け取ることも可能だという。なお、Model Fは介護保険の対象となる福祉用具ではないため、介護保険レンタルには非対応だ。
折りたたみは、慣れれば数秒で完了
実際に発表会場でModel Fに試乗してみた。Model Fの操作部は、Model C2と共通。ジョイスティックを行きたい方向に倒すことで前後左右に進むことができ、倒す量で速度を細かくコントロール可能だ。操作は直感的なので、1分もあれば慣れて自由自在に動けるようになる。
最高時速は6キロメートルで、感覚としては、大人が早歩きするくらいのスピード。歩行者として歩道を走行できる。コンパクトなので、コンビニやスーパーなどにもそのまま入ることができそうだ。Model C2と共通のリチウムイオンバッテリーは後輪の上に設置されており、取り外して充電できる。充電時間は5時間で、航続距離は20キロメートルだ。
車体の折りたたみは、拍子抜けするほど簡単だ。背もたれを倒したら、右手でアーム部分を、左手で座面を持って引き上げるだけ。このとき足でステップを踏み込むことで体重を使って操作できるので、ほとんど力は必要ない。慣れれば、折りたたみも展開も、ほんの数秒でできる。たたんだ状態で自立するので、例えば、レストランで食事中はテーブルの横に立てておくといった使い方もできる。また、タクシーの後部座席やトランクに乗せて移動することも可能だ。
Model C2が日常生活で必要な移動をサポートし、自立した生活を送れるようにすることに重点を置くモデルであるのに対し、Model Fは行動範囲を広げ、よりアクティブな生活を楽しむためのモデルになっている。
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