2021年4月にフルモデルチェンジし、発売1カ月で売れ行きが計画の6倍と絶好調のホンダ「ヴェゼル」。発売3カ月前から開始したプロモーションでは、公式Instagramを開設し、車の良さよりもブランドコンセプトを訴求し続けてきた。「ホンダ初の試み」となったInstagram戦略について聞いた。

 2021年4月にフルモデルチェンジしたホンダのコンパクトSUV(多目的スポーツ車)、「ヴェゼル」。発売から1カ月の受注台数は3万2000台と月販計画5000台の6倍を超え、以降も売れ行きは絶好調だ。ホンダの商品ブランド部宣伝企画課チーフの野口拓真氏によると「新型ヴェゼルの車種サイトへのアクセス数も、サイト内で『セルフ見積り』を取った人数もホンダ史上最高の数字」だという。

ホンダ「ヴェゼル」のInstagram
ホンダ「ヴェゼル」のInstagram

 フルモデルチェンジにあたり、ヴェゼルブランドの根幹に据えたのが「ファンファーストブランド」というコンセプトだ。発売3カ月前の21年1月18日より、ウェブサイト、公式Twitter、公式Instagramをローンチし、中でもInstagramはユーザー一人ひとりに「ファンファーストブランド」の世界観を伝えていく役割と位置付けた。「ユーザーも巻き込んで一緒にブランドをつくっていきたい。そのスタンスを伝えるために車種サイト立ち上げと同時にInstagramのアカウントをつくった」(野口氏)

 Instagramの公式アカウント名は「goodgroove_vezel」。「ヴェゼルに乗ることで良い体験──乗っている皆との良い(good)一体感(groove)が生まれる」がキーワードだ。

Instagramに車が登場しない理由

 ホンダは過去にも別の車種でInstagramを使った宣伝を手がけている。「これまでは商品訴求とブランド訴求とを同時にInstagramで行っていたが、今回はブランドや体験の訴求のみに徹底した」(野口氏)。だから機能紹介などの商品訴求はほとんど登場しない。

 1月のローンチ時点でウェブサイトやSNSに登場したのは、ヴェゼルのアンバサダー13人とスタンダードプードル2匹。俳優の井浦新や玉城ティナ、モデルのロイ、タレントの布川敏和、モーリー・ロバートソン、お笑い芸人のアントニーなどと、Instagramで57万人以上のフォロワーを持つ犬のRIKUとGAKUだ。彼ら彼女らはCMなどにも登場するが「皆でブランドをつくり上げることを示すため、Instagramの初投稿ではアンバサダーたちを紹介する24もの画像を一気に並べた」(野口氏)。

ヴェゼルのアンバサダーたち
ヴェゼルのアンバサダーたち

 面白いのは、ティザームービーやCMの撮影中、アンバサダー一人ひとりにスマホやトイカメラ、8ミリフィルムカメラなど多種のカメラを渡し、それぞれが自由に撮影した映像を宣伝に使ったことだ。国籍や年齢など多様なバックボーンを持ち、様々なコミュニティーで活躍する人たちと共にヴェゼルの世界観を伝えるのが狙いだ。そこにはヴェゼルの車体の画像は1つも含まれていない。

 ようやくネット上、Instagramに車が登場するのは2月半ば。オンラインで行ったワールドプレミアイベントでのお披露目直後だ。とはいえ「車体デザインや機能の訴求よりは、ヴェゼルに乗ることで生まれる体験を推したかったので、投稿画像は車主体の画像ではなく、アンバサダーの方々の視点を大事に『この人が見るヴェゼルの良さ』を表現することを意識した」(野口氏)。フォロワーからは「もっと車をしっかり見たい」と厳しい反響もあったという。

 一方で13人+2匹のアンバサダーを起用したメリットは大きかった。例えばお笑い芸人のアントニーは、スニーカーやTシャツのマニアでありYouTubeのインフルエンサーだ。「アンバサダーの方々にも、自身のInstagramなどSNSでそれぞれが所属するコミュニティーの方向けに情報発信をしてもらった。連携したことで、車を軸とした訴求だけでは届きにくかった方々にも認知してもらうことができた」(野口氏)

台本一切なしの動画をリール投稿

 短尺動画のリールでは、ヴェゼルに乗ったユーザーの目線やリアルな現場の空気感をしっかり伝えることに注力した。

再生回数が99万回超えとなったリール
再生回数が99万回超えとなったリール

 ヴェゼルのInstagram活用の支援をするテテマーチ(東京・品川)ブランドプロデュース事業部ブランドプロデューサーの石渡将利氏は、「車を見てほしいという一方的な投稿ではなく、ファンファーストブランドになる上でどんな投稿をすればユーザーが喜んでもらえるかを考えた」と説明する。

 台本も決まったセリフも一切なし。CMでは良い部分をつなげて15秒をつくり上げるが、リールは最長60秒を使って「車と乗っている人が生み出す自然な一体感を表現する」ことのみに集中した。再生回数が99万回超となったのが、井浦新と玉城ティナが何するでもなくCM撮影の合間に楽しそうにしているスマホ動画だ。また、タレントの布川敏和とモデルのミチという親子ほど年の差のある2人の会話も再生回数62万回を超えた。もともと先代のヴェゼルに乗っていた布川がミチにヴェゼルの良さを伝える様子が映し出されている。

 リールはフォロワー以外にもリーチできる機能だ。再生回数が100万回近くに上った理由の1つが、「新規のファンを獲得するために、“見つかりやすい”ハッシュタグの検証を続けながら投稿したこと」(テテマーチの石渡氏)だという。

 当初はブランド訴求のために「#日本車」「#e:HEV(ホンダのハイブリッドシステム)」など自動車関連のハッシュタグを主に付けていたが、「リールを投稿していくうちに、動画の内容とハッシュタグの親和性が重要なのではないかという仮説が浮上した」(ホンダの野口氏)。そこで、例えばモデルのロイが映っていれば「#ロイ」と入れたり、CM撮影の動画では「#CM撮影オフショット」を新たに付けたりすることで、少しずつ再生数が伸長したという。

 こうした考えは、Instagram活用において野口氏が「ストレスなく発見できる」「ストレスなく見られる」を強く意識したことに基づく施策だ。

グリッド投稿とにおわせ投稿

 現在、Instagramのホーム画面に表示されるフィード投稿では、6枚の画像を1つの絵として見せるグリッド投稿を続けている。開始したのは新型発売の直前から。「人(アンバサダー)とクルマの一体感」を伝え、ファンファーストブランドであることを感じてもらうのが目的だ。「新商品のローンチ時に最初だけグリッド投稿しているビジネスアカウントは多いが、ここまで意志を持って継続されたアカウントは正直ないと思う」(テテマーチの石渡氏)

 ヴェゼルのInstagramではグリッド投稿を開始して5カ月目となる。「ユーザーがいつ見てもヴェゼルの世界観やムードに浸れるようにする」と野口氏。新規のユーザーにはリールでヴェゼルを知ってもらった後、ビジネスアカウントに流入してもらう。そこで複数のグリッド投稿を見て「新しいことをやっている」と思ってもらえ、その結果フォロワーが増えたと説明する。

 もう1つ仕掛けがある。ユーザーの期待値を上げる「におわせ」投稿だ。従来、ヴェゼルのCMではネクストスタンダードになるであろうアーティストに楽曲提供を依頼してきた。そのため、今回の新CMでは誰の曲なのかという期待感があったという。

 「今回は藤井 風さんにお願いした関係で、CMのオンエア5日前にはInstagramに『221(ふじい)』のナンバープレートを掲載。藤井さんではないかというザワつきを起こした。その2日後には藤井さんのInstagramで『何らかの車に乗っている画像』を投稿。CMオンエアの前日に、実は乗っていたのはヴェゼルでした、ナンバーも221でした、と解禁した」(野口氏)。話題がピークに達した翌日にCMがオンエアされるという流れをうまくつくることができたと語る。

 このようにInstagramを通じ、車種を訴求しないながらも、「乗る楽しみ」「一体感」を徹底的に伝え続けた結果が今の数字につながっている理由の1つだと野口氏は考えている。

(写真提供/ホンダ)

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