クラフトビールやスキンケア商品などを手掛けるMOON-X(東京・目黒)が事業モデルを拡張する。一連の事業を「MOON-X BRAND STUDIO」と名付け、独自ブランドの立ち上げ、運営で培ったノウハウを他社ブランドにも転用。他社からのEC(電子商取引)部門の譲渡やM&Aも視野に入れた支援や協業に踏み出す。その狙いを同社の長谷川晋代表に聞いた。
MOON-Xは、P&G、楽天(現・楽天グループ)でキャリアを積み、フェイスブックジャパン代表を務めた長谷川晋氏らが2019年に設立した企業。クラフトビールの「CRAFTX」、男性用スキンケアの「SKIN X」、女性用スキンケアの「BITOKA」という3つのブランドを展開している。
創業以来、掲げるコンセプトは「共創を通じてJAPAN BRANDSの発射台となる」。それゆえ、前述の自社ブランドの立ち上げにおいても、技術力のある日本の生産者・企業と連携し、顧客の声を商品に反映する“共創”によって、商品を開発、生産、販売してきた。
今回の事業モデルの拡張は、これまでのそうした経験を生かそうとするものだ。長谷川氏は「創業から丸2年、自分たちのブランドを複数立ち上げ、運営する中で培ってきたノウハウは、他社のブランドの育成にも生かせるのではないかという気づきがあった」と新事業の発端を振り返る。
M&Aを視野に入れた協業も
拡張後の事業モデルは「MOON-X BRAND STUDIO」と名付けた。「ハリウッドなどの映画スタジオからすてきな作品が次々生まれるように、MOON-X BRAND STUDIOからも次々とブランドを生み出していきたい」という思いを込める。
柱となるのは、3つの事業だ。1つは「自社ブランドのローンチ&スケール」。これは同社が創業以来手掛けてきた既存事業の領域だ。生産パートナーとなる企業と組み、市場のニーズにフィットした商品を自社ブランドから発信していく。
2つ目が、21年から始めた他社ブランドのEC支援だ。ユニークな商品を持っていても売り方が分からないという企業に対し、ブランディングや拡販、広告などでサポートする。
「デジタルの世界になって、小さなスマートフォンの画面でどれだけ商品の魅力やブランドの世界観を伝えるかがより重要になっている。そこには自分たちのノウハウが生かせる」と長谷川氏。例えば、ネイト(東京・千代田)が手掛けるペットフード・ペットケア商品ブランド「メゾン・ド・ジビエ」のケースでは、ブランドの世界観を表現するクリエイティブの制作や広告、アマゾンでの販売促進戦略などで支援した結果、約2カ月で既存商品の売り上げは184%増、新製品のコンバージョン率は345%増を達成したという。
「メゾン・ド・ジビエの場合はEC支援のみだったが、今後はその企業のEC事業自体を譲り受けることまで視野に入れて他社ブランドと組んでいきたい」(長谷川氏)
そして最後の3つ目が「共創型M&A」だ。EC支援からさらに踏み込み、ブランドごとMOON-Xの事業ポートフォリオに迎えることを前提に、他社ブランドへの出資や資本業務提携を進める。対象として想定しているのは、事業継承者の不在や人材面、資金面の限界から事業を譲渡したいと考えている企業、海外進出を目指したいが自社だけでは難しい企業などだ。
「日本の企業の大半は中小で、ビジネスを大きくしたくてもリソースが足りない、あるいは大きく成長した結果、自分たちでは運営できなくなるといったケースは珍しくない。そうした企業をエンパワーしていくことは日本の社会や経済にも重要だと考えている」(長谷川氏)
21年8月にクラウドファンディングのCAMPFIREと業務提携したのもその一環だ。「クラウドファンディングで資金を調達し、商品を開発しても、そこで途切れる企業もある」(長谷川氏)。継続的な事業として展開するにはブランディングやマーケティングといったノウハウも必要になるからだ。「そうした企業の受け皿にもなりたい」とその狙いを語る。
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