「2050年カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)」という意欲的な目標を掲げた日本政府。だが、「環境と経済の両立」は本当に可能なのか。今、改めて学びたいのが、競争戦略論で知られる経済学者のマイケル・ポーターらが提唱した「イノベーションオフセット(技術革新による相殺)」という概念だ。

CVCCエンジン(低排ガスエンジン)を搭載したホンダ「アコード」(1979年型)。70年代に自動車メーカーが対応を迫られた米国の厳しい環境規制「マスキー法」に対し、ホンダは多大な労力をかけてCVCCエンジンを開発。ポーターらはイノベーションオフセットの好例として挙げる(写真/Shutterstock)
CVCCエンジン(低排ガスエンジン)を搭載したホンダ「アコード」(1979年型)。70年代に自動車メーカーが対応を迫られた米国の厳しい環境規制「マスキー法」に対し、ホンダは多大な労力をかけてCVCCエンジンを開発。ポーターらはイノベーションオフセットの好例として挙げる(写真/Shutterstock)

 菅義偉首相の突然の退任表明は、環境ビジネスに逆風だ――。

 そんな臆測がささやかれるようになった。というのも、菅首相は2020年秋、温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロとする所信表明演説をし、21年春、その中間目標として2030年度の排出量を「13年度比46%減」(安倍政権による15年決定は「13年度比26%減」)にすると意欲的に掲げていたからだ。菅首相の退任を機に「2050年カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)」という目標そのものに暗雲が垂れ込めているとの報道も見られる。

 もっとも、国際社会を見据えた日本の新たな目標値は、特にEU(欧州連合)諸国から歓迎され、米国のバイデン政権も足並みをそろえている。いったん掲げた目標を日本が取りやめるとあれば、欧米からの強い圧力は必至だろう。

 いずれにせよ、日本の成長戦略の柱として菅首相が掲げた「環境と経済の好循環」に筆者は同感なのだが、その好循環はどのように可能となるのだろうか。競争戦略論で知られる経済学者のマイケル・ポーターらによる、環境と経済のバランスを考えるうえでの原点ともいえる仮説を、ここで改めて紹介する。

改めて学ぶ「ポーター仮説」

 菅政権による「環境と経済の好循環」という政策を耳にし、多くのビジネスパーソンの脳裏をかすめたのは、「環境保全は大企業がやること、中小企業には縁がない」「環境規制が厳しくなると利益を失うことになる」という考えではないだろうか。果たして本当に両者はトレードオフの関係なのだろうか。

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