1972年刊行の『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中央公論新社)がまさかのブレーク中だ。もともとロングセラーではあったが、2021年だけで9万部の重版をするなど、刊行からおよそ50年目にして驚きの展開を見せている。“堅い”新書がなぜ今、話題を集めるのか。背景を探ると、新入社員たちの奮闘があった。
『ルワンダ中央銀行総裁日記』は、1965年に日本からアフリカ中央の一小国ルワンダの中央銀行総裁として着任した著者、服部正也氏の6年間の記録だ。ネットやメールもない時代にルワンダの地に単身で乗り込み、物理的条件の不利に屈せず、銀行を立て直していく奮闘記である。
この本が2021年になって計9万部の重版を遂げた理由は何なのか。
出版社である中央公論新社に話を聞くと、ヒット誕生のきっかけをつくったのは、入社したばかりの新入社員を含めた若手社員たちだという。
ブームの発端は、新入社員を中心にした「社内サークル」
同社では20年7月ごろから、新入社員などを中心に、毎回テーマを決めて話し合う“若手会”なるものが立ち上がった。
「もともとはコロナ禍の影響で、若手のフォローアップのために設けられた会でした」。当時、新入社員で、現在は入社2年目となる営業局販売推進部の荒井俊氏はこう話す。
入社後に行うはずの書店研修や流通現場の見学など、新入社員研修がコロナ禍で十分にできない状況。“若手会”はそれらをフォローする会でもあったという。メンバーは荒井氏に加え、もう1人の新入社員、入社2~4年目の2人、そしてメンターとなる中堅社員1人を合わせた5人。全員、営業局の社員だ。
当初は「最近読んだ本」「“ジャケ買い”した本」など交代でテーマを決め、週1日、雑談を交えて話し合い、業界や市場動向について理解を深めていた。普段の業務だけではなかなか伝わることのない自社の歴史や、業界についての“暗黙知”が伝承される場として機能していたという。
その中で同社が過去に行った「仕掛け販売」に話は及んだ。出版社の仕掛け販売とは、書店で一つの本を多量に展開し重点販売すること。平積みだけでなく、ワゴンを活用することもある。次第に若手会でも「何かやってみたい」と触発され、突き動かされるようになった。自社の書籍の仕掛け販売にチャレンジできないか? こうして何もないところから手探りで、過去の作品の仕掛け販売にトライすることになった。
前代未聞の“なろう系”販促戦略にたどり着いたワケ
創業135年の歴史を持つ中央公論新社。22年で創刊60周年を迎える中公新書は、21年9月1日現在で総計2658タイトルに及ぶ。その中で、候補の一つとして上がったのが『ルワンダ中央銀行総裁日記』だった。
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