SNSの巨人フェイスブックが次の市場として狙う「メタバース」。様々な大手IT企業も言及し、巨大なうねりとなりつつある。仮想世界で多くの人が過ごす未来は現実になるのか、メタバースは生活やビジネスをどのように変えるのか――。元gumi会長で、VRゲームを手掛けるThirdverse(サードバース、東京・千代田)のCEO(最高経営責任者)に就任した國光宏尚氏に未来を聞いた。

VRゲームを手掛けるThirdverse(東京・品川)のCEO(最高経営責任者)、國光宏尚氏。2007年にgumiを創業し、SNSなどのモバイルインターネット事業を展開。さらに、VR(仮想現実)やブロックチェーン関連ビジネスも次々と手掛けた。21年7月にgumi会長を退任し、同年8月から現職
VRゲームを手掛けるThirdverse(サードバース、東京・千代田)のCEO(最高経営責任者)、國光宏尚氏。2007年にgumiを創業し、SNSなどのモバイルインターネット事業を展開。さらに、VR(仮想現実)やブロックチェーン関連ビジネスも次々と手掛けた。21年7月にgumi会長を退任し、同年8月から現職

 自分の分身、アバター「As(アズ)」となり、50億人以上が集まるインターネット上の仮想世界<U(ユー)>でリアル世界とは全く異なる人生を生きる――。21年夏公開の細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』で描かれている世界は、遠い未来の話ではない。この世界を実現すべく、多数の企業が動き出している。

 「メタバース企業」を目指して、巨額の投資を行うのが米フェイスブックだ。同社のマーク・ザッカーバーグCEOは、2021年7月の決算説明会に加え、インタビューなどでもメタバースについて熱を込めて語っており、ソーシャルネットワーク企業からメタバース企業への変革を加速させている。マイクロソフトやNVIDIAといったIT関連業界の巨人のトップらも、メタバースについて公の場で言及しており、一躍、トレンドワードとなっている。

フェイスブックは、メタバース関連サービスの開発を加速。21年8月には、VR用のワークスペース「Horizon Workrooms(ホライズン・ワークルーム)」を発表
フェイスブックは、メタバース関連サービスの開発を加速。21年8月には、VR用のワークスペース「Horizon Workrooms(ホライズン・ワークルーム)」を発表

 メタバースとは、メタ(超越した)とユニバース(世界)を融合させた造語で、ネット上に構成された仮想の3次元空間を指す。仮想空間というと、VR(仮想現実)ゴーグルをかぶって入るイメージを持つ人も多いだろうが、その空間内で多数の人間がアバターなどを通じて自由に行動し、交流する状態を含めて、メタバースと呼ぶ場合が多い。まさに、冒頭の『竜とそばかすの姫』で描かれた世界だ。

 メタバースという概念自体は、古くからある。06~07年にブームとなった「セカンドライフ」はこのメタバースの先駆事例。また、マイクロソフトの傘下企業が手掛ける「マインクラフト」も、仮想空間内で自在に建造物などをつくり、複数の人が活動するという点ではそうだ。「フォートナイト」(Epic Games)や「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)もまた、メタバース世界の一つということができる。

セカンドライフは、大きなブームが去った後も着実に進化。今なお根強いファンを抱える

インターネットを置き換える“新たな場”が生まれる

 ではなぜ今、再びこの言葉が脚光を浴び、そして多くの企業がこの世界を目指し始めたのか。それは、インターネットを大幅に“更新する”可能性が高いからだ。

 インターネットは物理的世界に加え、サイバー空間という全く新しい世界を生み出した。人々はインターネット上に集い、その上に多数のサービスが誕生。今や、数十億人がSNSで情報を共有し、交流するのが当たり前になっている。メタバースはこの“場”を再定義するものであり、新たな経済圏が生まれる可能性がある。

 世界の巨人企業たちに加え、日本にもこのメタバースに賭ける起業家がいる。gumi創業者の國光宏尚氏だ。

 國光氏は21年8月、VRゲーム開発を手掛けるベンチャー企業、Thirdverse(旧よむネコ、東京・千代田)のCEO(最高経営責任者)に就任。07年に自ら創業したgumiの代表の座を惜しげもなく“返上”し、新たな世界へ挑んでいる。

 「メタバースに全力投球する理由は2つある」と、國光氏は語る。一つは、VR市場の盛り上がりだ。

 市場立ち上がりの証拠として國光氏が注目するのが、20年10月にフェイスブックが発売したVRヘッドセット「Oculus Quest 2」(OQ2)。解像度などのスペックが実用水準にありながら、パソコンに接続しなくても使えるスタンドアローン型で、299ドル~という破格のモデルだ。

フェイスブックが20年10月に発売した「OculusQuest2」
フェイスブックが20年10月に発売した「Oculus Quest 2」

 「ゲームチェンジャー的な存在であり、スマホでいうと『iPhone 4S』の発売と同じようなインパクトを持つ」と國光氏は語る。iPhone 4S といえば、iPhoneひいてはスマホの存在を一般層にまで浸透させた象徴的なモデル。OQ2は発売から1年たたずに、500万台以上を販売しているといわれ、「21年内にはQuestシリーズだけで1000万台という“マジックナンバー”に届く」と、國光氏はみる。「ゲームコンソールや家庭用ゲーム機として1000万台規模になると、100万本以上売れるミリオンセラーゲームが複数誕生する可能性が高く、20万~30万本のヒット作も増えてくる」(國光氏)。そうなれば、ゲーム開発会社やパブリッシャーが積極的に参入するようになり、さらに面白いゲームが増え、ユーザーも増えていく好循環が生まれる。その閾値(いきち)を今まさに、超えようとしているのだ。

 フェイスブックがハードとサービスの両面でさらにブーストをかけていくのは間違いない。日本勢では、ソニーもPlayStation VRの後継機として「PS5向け次世代VRシステム」の開発を進めている。中国でも、TikTokを運営するByteDanceがVRヘッドセットメーカーのPico Technologyを買収するなど、本格的に立ち上がるのも秒読みだ。

シリコンバレーで進む、SNSの“Next Big Thing”探し

 もう一つ、メタバースに賭ける理由として國光氏が上げるのが、「ソーシャルネットワークの次」となる可能性が高いことだ。

 「インターネットで今まで一番はやってきたコンテンツは、突き詰めればコミュニティーに収束する」と國光氏。チャットや掲示板、2ちゃんねるに始まり、ミクシィやツイッター、フェイスブック、そしてLINEなどのテキストベースのサービスに人々が集い、さらに画像ベースのインスタグラム、動画ベースのスナップチャットやTikTokへと続いてきた。時代の変化に合わせて、常に新しいSNSが生まれてきた中で、「次世代の人の集まる場所、人のつながりに由来するサービスの延長線上、“Next Big Thing”としてメタバースが存在する」(國光氏)。

 当然、メタバースを実現するための様々な技術の進化も後押しとなっている。大容量データのやり取りができ、リアルタイムに交流が可能な5Gといった次世代通信技術の一般化に加え、國光氏は技術面でもう一つ重要なものがあると言う。

 それが、「ブロックチェーン」だ。

 ブロックチェーンは「分散型公開台帳」といわれる技術で、ネットワークに接続した複数の端末でデータを共有することにより、透明性を高め、改ざんが極めて困難になるというもの。最近、話題を集めているデジタルデータに電子的な証明書を付与できるNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)も、このブロックチェーン技術を活用したものだ。

 「従来、インターネットは情報をやり取りする空間だった。だが、ブロックチェーン、NFTを活用すれば、インターネット上のデータに金銭的価値が宿り、自由にやり取りできるようになる」(國光氏)

 通常、インターネット上のデータは、どれだけガードをしても改ざんやコピーの存在を無視できなかった。対してNFTなら、そのデータの唯一無二性を証明することができ、限定商品がつくれる。希少性が担保されることで、「データに金銭的価値が生まれる」(國光氏)というのだ。

 価値が生まれると何が起きるのか、國光氏はゲーム、マインクラフトを例に説明する。

 マインクラフト内では、自由に建造物やオブジェクトをつくることができる。ただ、もしそれを「お金を払ってでも欲しい」という人がいたとしても、現状ではゲーム内で販売することはできない(ゲーム内のストアでコンテンツを販売することは現時点でも可能)。だが、NFTを組み合わせられれば、つくったもの(データ)にも唯一無二性を付加し、流通させる仕組みが構築できる。その結果、バーチャルの世界に経済圏が生まれるのだ。

集う目的、話の媒介になる「ゲーム」から一般化を目指す

 では、國光氏率いるThirdverseは、どうやってメタバース世界を一般化していくのか。國光氏が注目するのが、ゲームによる開拓だ。

 「今、ゲームとソーシャルネットワークがどんどん混ざってきている」(國光氏)。それを端的に示すのが、フォートナイトの利用の変化だ。

 フォートナイトは元来、バトルロワイヤルゲームとして多くの人が参戦し、戦うのが基本だった。だが最近では、ゲーム内でバーチャルライブが行われるなど、コミュニティーとしての存在感が高まっている。20年4月に開催されたラッパーのトラヴィス・スコットのバーチャルイベントでは、同時接続数1230万人という驚異的な記録を打ち立てた。20年5月には、戦闘要素がなく仲間と自由に過ごすモード「パーティーロイヤル」まで実装され、いよいよSNSの要素が強くなっている。また、米国発のオンラインゲームプラットフォーム、「Roblox(ロブロックス)」なども、ゲームとソーシャル要素を組み合わせたことで、人気を集めている。

 「フェイスブックなどのSNSは、基本的にリアルな知人や仲間とつながるのがベースであり、自然にコミュニケーションが起きやすい。だが、つながりはどうしても限定的になる。だからといって、リアルでつながりのない人同士が同じ空間に集まっても、集う目的や媒介となるネタがなければ交流は長続きしない。ゲームという同じ目的を持つ人同士であれば、話すネタが尽きることはなく、リアルなつながりに頼らないメタバースを生むには、ゲームが突破口になる」(國光氏)

 Thirdverseではその攻略の第1弾として、19年6月に前身であるよむネコからリリースしたVRアクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の展開を強化。リアルな剣戟を追求し、4人でマルチプレーができるのが特徴で、メタバース市場へのチャレンジに名のりを上げる。その次には、より進化したゲームを投入し、規模を順次拡大していく計画だ。VRヘッドセットなどのハードの進化、そして5Gをはじめとした通信スペックの向上に合わせ、本格的なバーチャルMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)の開発を目指す。

「ソード・オブ・ガルガンチュア」は、最大4人でオンラインマルチプレーが楽しめるアクションゲーム
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リアル世界のコントローラーの振り方が仮想世界にそのまま反映されるのが醍醐味
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オキュラスクエストシリーズやPlayStation VRなど多様なハードにも対応する
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 さらにその先では、「(前述の)ブロックチェーン、NFTを組み合わせた、デジタルデータが資産化していく世界観を、10年以内に実現する」と國光氏は語る。これが、同社が考えるThirdverse構想だ。

子供や若者にとっての巨大なフロンティアが誕生

 では、メタバース化していく中で、社会にはどのような変化が起きるのか。

 まず生活の変化として國光氏が予想するのが、「新しい稼ぎ方が生まれる」ことだ。

 前述のように、メタバースにNFTが組み合わされることで、ゲーム内やサービス内でつくったデジタルデータが価値を持つようになり、流通するようになる。そうすると、「バーチャルの家が10万円で売れる」「アバターが5万円で売れる」「仮想の服が1万円で売れる」。そんなことが当たり前に起きるようになるという。既に、今の子供世代はマインクラフトやフォートナイトなどに慣れ、ゲーム内で様々なものをつくる行動を自然にこなしている。「数年以内には、ゲーム内で親より稼ぐ子供が続々と出てくる」と國光氏は予想する。年齢を問わず、また特殊な技能を持たずとも、思い思いにつくったものを販売できる、クリエーターエコノミーが加速度的に広がる。「従来、ゲームは親世代から重要視されるどころか、むしろ『時間の無駄』と思われてきた。だが、新たな経済圏が生まれ、そこで収益が上げられる仕組みができれば、視点は大きく変わる」(國光氏)。

 もう一つの変化は、1人が複数の生き方を選べるようになることだ。

 「通常、このリアルな社会では、基本は一つの外見、一つの性格、一つのコミュニティーに縛られて生きている。対して、リアルと地続きではないメタバースの世界では、複数の外見、複数の性格、複数のコミュニティーを自分で選べるようになる」と國光氏は話す。自宅や職場・学校とはまた別の心地の良い場所、バーチャル空間におけるサードプレイスをつくることで、人々がより自由に生きられるようになるというのだ。國光氏が率いるThirdverseの名前は、この「サードプレイス」と「メタバース」を組み合わせたもの。生き方の解放こそが、同社の真の目的といってもいいだろう。

 実は國光氏が描く未来にはまだ先がある。キーワードは「DAO(ダオ)」だ。

 DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの頭文字を取ったもので、自律分散型組織と訳す。ブロックチェーンの応用技術の一つであり、管理主体がない状態で、参加者が合議に基づいて自律的に物事を決定していく組織のこと。ビットコインやイーサリアムといった暗号資産(仮想通貨)が、組織内で意見がまとまらず「フォーク(分裂)」し、それぞれが独自の進化を遂げているように、DAOをメタバースに適応することで社会も「フォーク」していくことが可能になる。

 「現実世界では、社会体制や制度を変えていくことは極めて難しい。民主主義国家でも時間がかかるし、独裁国家などでは革命を起こすしかない」(國光氏)。対して、メタバースならフォークすることで、複数の平行世界を容易につくっていける。「それぞれがいいと思うことを試し、より良い社会になったところへ自然と人が集まり“主流”になっていく。その結果を、リアル世界に“インポート”していけば、変革は加速する」(國光氏)。

 メタバースは、仮説検証の場としても大きな役割を果たす。企業にとっても、新たなチャレンジの場、フロンティアとして、活用をしていくことが必要になりそうだ。

メタバースでは、新たな社会、生活、ビジネスの種が生まれる可能性も(写真/Shutterstock)
メタバースでは、新たな社会、生活、ビジネスの種が生まれる可能性も
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