ノンアルコール飲料の新商品の投入が相次ぐなど、ノンアル市場の勢いが増している。そうした中、2006年から飲食店を中心に“高級なお茶”の販売をしていた会社がある。高いものだと1本30万円にも上り、ワインを選ぶような感覚でお茶を楽しめる。15年たちノンアルブームを迎えた今、この高級茶にも影響が及んでいるという。

2021年7月24日から受注予約を開始した1本33万円(税込み)の「King of Green YAME GYOKURO Super Premium(キング オブ グリーン 八女玉露 スーパープレミアム)」(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)
2021年7月24日から受注予約を開始した1本33万円(税込み)の「King of Green YAME GYOKURO Super Premium(キング オブ グリーン 八女玉露 スーパープレミアム)」(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)

お茶でもできる、食事とのマリアージュ

 飲料メーカー各社が、ノンアルコール飲料の新製品を次々に発売している。その背景に、消費者のアルコールとの付き合い方が変わってきていることがあるだろう。

 「アルコール離れ」が進んでいるともいわれるが、実際にどれほどの人がお酒を飲まなくなっているのだろうか。厚生労働省が実施した2019年の「国民健康・栄養調査」によると、飲酒頻度について「飲まない(飲めない)」「やめた」「ほとんど飲まない(月に1回以下)」の人の合計は、55.1%にもなる。半数以上が月に1回もお酒を飲まないというのは驚きだ。

 そんな現在の状況を、15年前から予測していた人物がいる。茶飲料の製造販売を手がけるロイヤルブルーティージャパン(神奈川県茅ケ崎市)の吉本桂子社長だ。同社はボトル入り高級茶のトップブランドで、商品の税込み価格(以下同)は安いもので4000円台、高いものだと33万円にも達する。お酒を飲めない人の選択肢は、大抵ウーロン茶かジンジャーエールなどのソフトドリンクだ。しかし、ロイヤルブルーティーを置いているお店なら、高級なワインを選ぶようにノンアルコール飲料を選ぶことができる。

 吉本社長は15年前から「ノンアルコールの市場がある」と言い続けていた。しかし、「当時は誰も聞く耳を持たなかった」と振り返る。なぜ当時からノンアルに対するニーズがあると分かっていたのか。

 「日本人の多くはお酒をたくさん飲めない体質。さらに飲めるけど飲みたくない人、年を重ねてお酒をやめた人、お酒を控えている人がいる。このファジーな層がいるのは明らかで、マーケットが広いことは分かっていた」(吉本社長)

 アルコール健康医学協会の資料によると、アセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の活性が弱い、または働きが全くない日本人の合計は44%に上る。ノンアルコール市場について書かれた『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(藤野英人著・日経BP)によると、お酒を飲まない人の市場は3000億円以上の潜在力があるという。

 巨大な市場があるとはいえ、数あるノンアル飲料の中から高級茶に狙いを定めた理由はどこにあったのだろうか。

 「事業を起こす前、駅構内の物販やホテルの宴会、住宅展示場などの様々な場所でお茶を淹(い)れ、約1万人に提供した。その一環でレストランに提供した際、料理と組み合わせてマリアージュする機会をつくった。そこでおいしく召し上がっていただければ、高くてもお金を払ってくれる人がいることが分かった」(吉本社長)

 美食家たちはお酒と料理の組み合わせを楽しんでいる。魚に合うのは軽めの白ワイン、肉料理にはフルボディーの赤ワインなどだ。それがお茶でもできると吉本社長は考えたのだ。

お茶をおいしく淹れる時間とコストを考えればお得

 お茶はワインと違って鮮度が大事なため、賞味期限は出荷日から約1~6カ月。吉本社長はロイヤルブルーティーの新しさについて「完璧な状態で、いつでも、どこでも、誰でも高級茶を楽しめるようにしたこと」と話す。

 吉本社長が目指した料理とのマリアージュは、飲み物も料理に負けないくらいおいしくなければ不完全燃焼に終わる。これまでお茶と料理のマリアージュが広がらなかった理由は、おいしいお茶を淹れることが難しかったからだと吉本氏は見ている。「高級茶を淹れるのにふさわしい道具をそろえて、お茶をおいしく淹れる。それには時間もコストもかかる。このコストとロイヤルブルーティーのボトルを比べたら、お得だと考えている」と吉本社長は自信たっぷりに話す。

 そこで今回、同社のオンラインショップで購入した「京都宇治碾茶(てんちゃ) The Uji」を飲んでみた。なじみのあるペットボトルのお茶とは全く味が異なり、本来の緑茶とはこういう味なのかと驚いた。味が濃く、香ばしさを感じる。

実際に味を確認するため、ラインアップの中では手ごろな「京都宇治碾茶 The Uji」(5940円・税込み)を購入
実際に味を確認するため、ラインアップの中では手ごろな「京都宇治碾茶 The Uji」(5940円・税込み)を購入
商品の発送が2021年7月1日で、賞味期限はその後2カ月間。ワイングラスで飲むことを推奨している。要冷蔵(10℃以下)のためクール宅配便で届いた
商品の発送が2021年7月1日で、賞味期限はその後2カ月間。ワイングラスで飲むことを推奨している。要冷蔵(10℃以下)のためクール宅配便で届いた
色はまるで白ワインのようだ
色はまるで白ワインのようだ

1本33万円でも赤字、採算度外視で販売

 ロイヤルブルーティーの緑茶は、業務用と個人の両方に向けて販売している。現在、業務用と個人への直販の売り上げは半々だ。業務用はホテル、レストラン、旅館などが購入している。個人購入は事業で成功している30~40代の男性が多いそうだが、大学生などの若者も購入しているという。また9割が、贈り物や接待、食事会などの、人に振る舞う場面で使われているとのこと。

 売れ筋商品の価格帯は業務用・個人用共に1本5000~6000円(売上本数は非公開)。ただ、1本数万~33万円にもなる高級品は、個人購入のほうが動きが良いそうだ。ちなみに33万円の商品は受注生産で、これまで販売した5シリーズは全て完売している。

 21年8月時点で販売されている最も高価なお茶は、7月24日から受注予約を開始した「King of Green YAME GYOKURO Super Premium(キング オブ グリーン 八女玉露 スーパープレミアム)」の33万円。実はこの価格で売っても「赤字」なのだという。

 また現在は売り切れだが、同じく33万円の「King of Green MASA Super Premium(キング オブ グリーン マーサ スーパー プレミアム)」も創業当時から赤字で製造販売しているそうだ。使っているのは、全国茶品評会「普通煎茶(手摘み煎茶)の部(4キログラム)」で農林水産大臣賞を受賞した茶葉。自然仕立て(自然のままに育てること)の茶畑で、1つの芯から新芽と二葉だけを手摘みする。手摘みをすることで新芽だけを集めることができ、葉を傷つけることもない。そこから手作業で3日間かけ、非加熱抽出、非加熱ろ過、除菌無菌充填という工程を経て作られる。高いのには、それだけの理由があった。

 採算度外視の商品だが、お客さんに買ってもらえる金額として33万円に設定しているそうだ。そこには「高級なノンアルコールはお茶だと伝えたい」という吉本社長の情熱が込められている。

1本33万円(税込み)の「King of Green MASA Super Premium」(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)
1本33万円(税込み)の「King of Green MASA Super Premium」(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)

緊急事態宣言で注文が増加

 ロイヤルブルーティーの業績は創業以来、右肩上がりで、平均すると前年比25%の成長を続けている。成功の理由は、口コミによる効果が大きい。

 「個人の方は、ホテル、レストラン、旅館などでロイヤルブルーティーを飲んだお客さんがおいしさに感動して、オンラインショップへ買いに来る。業務用は、例えばAというレストランでロイヤルブルーティーを入れていたソムリエが、Bという店に移ったときに、またロイヤルブルーティーを仕入れることで広まる。お客さんを満足させられるし、ソムリエ自身が店での存在感を発揮することもできる」(吉本社長)

 ホテルやレストランには同業者の口コミで自然と広まるそうだ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店の営業が制限されている。ロイヤルブルーティーとて、コロナ禍の影響とは無縁ではいられない。吉本社長も「新型コロナの影響はダイレクトに受けた、潰れるかと思った」と振り返る。

 20年の飲食店が休業した期間は、当然のごとく業務用の売り上げが鈍化した。しかし、ロイヤルブルーティーの個人への認知が広がってきていたので、オンラインの注文が前年比120%まで伸びたそうだ。その後、Go Toキャンペーンで業務用の売り上げが回復。さらに3度目の緊急事態宣言でも、酒類の提供が禁止されたことにより注文が増えたという。その結果「20年度はコロナの影響を受けたが、19年度と同じくらいの売り上げに着地できた」と吉本社長。

 そして、酒類の提供が禁止された期間でも、以前からロイヤルブルーティーを提供していたお店の売り上げは打撃が少なかったそうだ。吉本社長の読み通り、おいしい料理と合わせて高級茶をワインのようにたしなむ層が存在し、下支えしたと言えそうだ。

「お酒を飲まない文化」をつくる

 吉本社長にブランド戦略を尋ねると、「ブランドとは品質管理」と言い切る。

 「商品を提供するブティックやティーバーでロイヤルブルーティーを体験していただき、購入し、家で飲んでいただく。どこで飲んでも同じ感動をつくる。つまり品質を守ることが、ブランドをつくることにつながっている」(吉本社長)

オンラインショップで販売されている緑茶のリスト。この他、青茶や紅茶などがある(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)
オンラインショップで販売されている緑茶のリスト。この他、青茶や紅茶などがある(画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)

 ラグジュアリーな環境でも自宅でも、同じ感動を呼び起こすために同じクオリティーを維持することにこだわっている。「消費者は商品が本物かどうか、値段にふさわしいものかどうかがすぐ分かる」と吉本社長は言う。

 ロイヤルブルーティーの今後については「清涼飲料市場の0.03%のシェアを目指す」という。規模を広げるよりも、超高級市場で長く続けていきたいというのが吉本社長の展望だ。現在、0.03%のうち3分の1程度まで達成できているとのこと。目標達成に向け社内で議論している真っ最中で、まずは直営店の展開を考えているという。

 「オンリーワンで続けていきたい。清涼飲料における頂点の商品を作って、売り上げを維持することが、私たちの立ち位置だと思っている」(吉本社長)

 さらに吉本社長は、「お酒を飲まない文化」もつくっていきたいと意気込む。

 「お酒を飲む人も飲まない人も共存できるのが適正な飲食文化。かつては、お酒を飲めるかどうかで社内の付き合いが変わったし、出世に影響することもあった。だから、お酒が弱い人や飲みたくない人までも、無理して飲んでいた。しかしそれでは身がもたない。ロイヤルブルーティーは、お酒が飲めるかどうかに関係なく楽しめる飲み物なので、普及させて、文化をつくっていきたい」(吉本社長)

 吉本社長は適正な飲食文化をつくるための財団を立ち上げる予定だという。現在はノンアル市場の盛況という後押しもある他、あえてお酒を飲まない欧米の「ソーバーキュリアス」という言葉の認知も高まってきた。ノンアル商品の選択肢は増えているが、ロイヤルブルーティーが高級茶で存在感を示せれば、料理との相性を武器に、おいしいお茶が「ノンアル文化」のけん引役となる可能性はありそうだ。

(写真/梶塚美帆、画像提供/ロイヤルブルーティージャパン)

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