印章関連や文房具を手がけるシヤチハタ(名古屋市)からヒット商品が続々誕生している。唐沢寿明氏がCM出演する電子決裁サービスだけではない。手に押した印影を消して手洗いを練習できる商品や複数の色を交ぜた朱肉など、既存商品の可能性を拡大、ニッチ分野での需要開拓を続けている。ユニークなヒットの数々について舟橋正剛社長に話を聞いた。

20年の発売後、即日完売が続く朱肉「わたしのいろ」(写真提供/シヤチハタ)
20年の発売後、即日完売が続く朱肉「わたしのいろ」(写真提供/シヤチハタ)

 「ペーパーレス化やデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、2019年からの1年間でハンコの出荷数が1割減った」と語るシヤチハタの舟橋正剛社長。しかしその一方で、シヤチハタは開発力、製造力を武器にした商品で新たな需要をつかんでいる。

電子印鑑はWindows95と同時に販売

 コロナ禍の下で売り上げを急拡大したのが、デジタル事業だ。シヤチハタは、コロナ禍で「ハンコを押すために出社するのはおかしい」という話が出る25年も前から、電子印鑑の開発、販売を手がけてきた。

 「1995年、Windows95の発売を受け、いずれ紙ではなくパソコン上での承認が進むと考え、電子印鑑のソフトウエアを開発、販売した。以降、最新のOSやデバイスが出るたびに対応させてきた」(舟橋社長)

シヤチハタの舟橋正剛社長(写真/森田直希)
シヤチハタの舟橋正剛社長(写真/森田直希)

 2017年にスタートしたクラウドサービス「パソコン決裁Cloud」を、20年11月にリニューアルしてサービス提供を始めたのが、電子印鑑システム「Shachihata Cloud(シヤチハタクラウド)」だ。社外で利用する際のセキュリティー機能を強化した。

 コロナ禍で電子決裁サービスの企業ニーズが高まり、認知拡大を目的に21年3~6月にわたり無料キャンペーン期間を設けると、コロナ禍以前には月2000件ほどだった申し込みが、4カ月で27万件に急増した。無料期間を過ぎても継続するユーザーが9割だという。舟橋社長は「『ビジネスプロセスそのままに(BPS)』を合言葉に、押印と回覧をそのままデジタル化した点に加え、初期費用なしで1印影で月額110円(税込み、以下同)からという価格設定が利用を後押ししたのではないか」と語る。

 電子決裁サービスを提供するIT企業が増えたが、「IT企業と同じ土俵で戦えるとは思っていない」と舟橋社長。シヤチハタは、商品の金型からインクやゴムまで自社開発するメーカーだ。15年前には、8種類のシヤチハタフォントをつくった。95年間のノウハウの中で一番美しいと思う独自のフォントによる印影だ。電子印鑑にも使っているが、丸の中に入れる文字を美しくデザインすることは非常に難しく、他社が容易にまねできる技術ではないという。電子決裁サービスの大手、米ドキュサイン社とは6年前に業務提携し、シヤチハタフォントの電子印鑑が既に世界で使用されている。今後も他社との協業で自社のノウハウを積極的に提供していく考えがある。

 今後は、進化するIT技術に対応しつつ、電子決裁を導入した企業のニーズに細かく応えていきたいと舟橋社長は語る。例えば、電子決裁と同時に紙でも届けてほしい、といったアナログのサービスを求められるかもしれない。「企業ごとにカスタマイズするなど、シヤチハタにしかできないことを進化させたい」(舟橋社長)。シヤチハタの商品コンセプトの1つが「ロングユース」だ。シヤチハタ印はすべて20~30年使うことができるという。デジタル事業もユーザーと垣根なくものが言える関係性を構築しつつサービスを向上させ、いかに長い付き合いができるか。「シヤチハタのサービスこそ必要」という存在を目指す。

 長く使ってもらうためにも、と舟橋社長の口から頻繁に出た言葉が「差別化」だ。コロナ禍以降は、ハンコ以外に「子育て・キッズ」「アート&クラフト」のジャンルで大いに「差別化」したヒット商品が誕生した。

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