コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)が激減し、苦境に立たされている宿泊・観光業界。とりわけインバウンド比率の高い東京では、倒産したり事業継続を断念したりするホテルが相次いでいる。そんな中、FIKA(フィーカ、東京・新宿)が手がけるホステル「UNPLAN Kagurazaka」は新たな切り口を模索し、tune(チューン、東京・新宿)が運営する「ソロサウナtune」を誘致。2020年12月にオープンして以降、“神楽坂の予約の取れないサウナ店”として人気を博している。

これまでインバウンド(訪日外国人客)を対象にしていたホテルが「ソロサウナ」を併設した
これまでインバウンド(訪日外国人客)を対象にしていたホテルが「ソロサウナ」を併設した

稼働率減をそのまま見過ごすことはできなかった

 ソロサウナtune(以下、tune)は、FIKAが手がけるホステルUNPLAN Kagurazakaとカフェ「Gather by UNPLAN」が入るビル内にオープンした。読んで字のごとく、サウナは個室になっているため密を避けることができ、サウナの利用をためらっていた人でも使いやすい。昨今のサウナブームも後押しとなり、予約を受け付け始めるとすぐに埋まる状態が続いている。

 サウナは、宿泊スペースの2割に当たるドミトリールームを改築して作られた。FIKAはこれまでインバウンドをターゲットにした経営方針を取っており、UNPLANグループ全体の宿泊客の8~9割が訪日外国人客、稼働率は9割超と順調そのものだったが、20年の新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、宿泊利用者は7~8割減と大打撃を受けた。FIKA代表の福山大樹氏は「コロナ禍がすぐに収束するとも思えなかった。何か新しいことを始めないと、このまま宿泊事業を展開しているだけでは厳しいと危機感を抱いていた」と振り返る。

 何か新しいことをと考えていたとしても、宿泊スペースを削ってまで行うというこの判断は大きなものだろう。その決断をした理由として福山氏は「(tuneの)これまでに例のない新しいことにチャレンジしようとしている姿勢に共感した」と話す。

 従来のサウナ施設は見知らぬ人たちが集団で利用するのが一般的だが、tuneが目指していたスタイルは完全個室でソロで本格的なフィンランド式サウナを楽しめるというまったく新しい事業だった。同社がソロサウナ事業を始める場所を探しているという情報を、共通の知人から聞いた福山氏は、スペースを貸し出すことを決めたという。

 ソロサウナを運営するtuneは、コロナ禍に産声を上げた企業だ。運営統括責任者でソロサウナtuneの女将を務める遠藤香氏は、会社を設立した経緯について「ステイホームをする中で、いろいろ考える時間があった。サウナが好きでよく行っていたが、家族から『コロナ禍では温浴施設に行かないでほしい』と言われて辛かった。そんな思いから“個室で楽しめるサウナがあってもいいのでは?”というアイデアが生まれ、この事業をスタートさせた」という。創業メンバーは皆別々の仕事をしていたというが、「うんざりするくらいサウナの話をするのが好きなメンバーが集まった」(遠藤氏)。

 「コロナが拡大し始めた頃、UNPLANの従業員は今まで通りのサービスができなくなり、会社全体にも不安感が漂っていた。経営者として稼働率が下がっているのをそのまま見過ごすことはできなかったし、何かしらチャレンジしている姿勢を社内外に見せたいという思いもあった。tuneの目指す事業は“面白いこと・新しいことをやりたい”という弊社のカルチャーとも合致した」(福山氏)

周りの目を気にせず寝転がれる贅沢な空間

 20年12月のオープン後、予想以上の反響があった。4部屋しかなく、予約の取れない個室サウナというプレミア感も手伝って、プロモーションを一切行っていないにもかかわらず、利用者の口コミで認知が広がった。

 東京都内の銭湯の入浴料金は470円で、サウナの追加料金を払っても1000円以内のところが多い。サウナ付きのスーパー銭湯も2000円前後が目立つ。一方でtuneの利用料金はシングルルーム(1人利用)60分で3800円、80分で4800円と強気の価格設定だ。福山氏は「実を言うと、ここまで攻めた価格設定で予約が取れない状況になるとは、予想していなかった」と明かす。

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