東レグループのアパレル事業会社の東レ・ディプロモード(東京・中央)が、クラウドファンディングなどを活用し、消費者に直接販売するD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の試みを次々と成功させている。最先端素材を最速で商品化し、消費者の声に基づいて商品をブラッシュアップするのが狙いだ。在庫リスクの問題を抱える従来のアパレルビジネスとは異なる新たなビジネスの形を模索している。

東レ・ディプロモードがMakuakeで実施している「WEARABLE COOLER “水纏” (ウェアラブル クーラー “ミズマト”)」プロジェクト
東レ・ディプロモードがMakuakeで実施している「WEARABLE COOLER “水纏” (ウェアラブル クーラー “ミズマト”)」プロジェクト

 全国で夏日が予想された2021年6月25日。クラウドファンディングサイトの「Makuake」に、真夏の酷暑対策ウエアの応援購入を呼びかける新たなプロジェクトが登場した。実行者は、東レグループでアパレル商品の製造販売を行う東レ・ディプロモードだ。

 これは、東レグループの先端素材を使用し、すべての生産工程を日本国内で行う東レ・ディプレモード発のプロジェクト「MOONRAKERS(ムーンレーカーズ)」の第3弾である。第1弾は20年9月、Makuakeにて初めて「水を纏うTシャツ」を発表。続いて21年2月には、ビーガンレザー素材「キマイラ スキン」を使用したコートを投入した。

 第3弾の「WEARABLE COOLER “水纏” (ウェアラブル クーラー “ミズマト”)」は、高い冷却効果を発揮するだけでなく、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同開発した宇宙飛行士向けの消臭素材をさらにバージョンアップして搭載。他にも東レが誇る先端技術をフル装備し、夏の不快な要素を大幅に軽減するというハイスペックな機能ウエアだ。

 Tシャツが6545円(税込み)からという手ごろな価格も好評で、スタートからわずか3日目で目標金額の6倍となる180万円を達成。7月29日現在で、応援購入額は350万円を突破、サポーター数も380人を超えている(プロジェクト期間は8月30日まで)。

 ムーンレーカーズの責任者で東レ・ディプロモード主幹の西田誠氏は、本プロジェクトについてこう語る。「最先端素材を使った衣料品のカスタマーボイスを直接取っていく動きの1つで、マーケティング活動の一環と考えている。我々の思いを消費者に直接伝えることについてはまだ経験値が少なく、試行錯誤している。ただ、どう受け止められているか、客層やリアクションを把握していなければ、アパレルに対しても有意義な提案はできなくなってきている」

 同プロジェクトでは、従来にない商品をかつてないスピードで開発し、市場に投入することを重視する。今回のウェアラブル クーラー “ミズマト”も、21年6月15日に技術面を確立できたばかり。最新の消臭技術の搭載は、クラウドファンディング開始のタイミングにギリギリ間に合ったという。

 「クラウドファンディングの利点は、商品に対する評価をすぐに消費者に問えるところ。これまでは生地サンプルを商品化してアパレルに納品するまで1年以上かかっていたが、スピードアップできるのが一番大きい」と、西田氏は話す。

 ベースとなる原糸は東レが数年かけて開発したものだが、織りや染め、加工を変えることで新たなテキスタイルを生み出せる。わずか1年足らずで新商品を立て続けに発表できたのも、スピード重視のものづくりに取り組んできたたまものだ。

光学効果で汗ジミが見えにくく、臭くないTシャツ

ウェアラブル クーラー “ミズマト”では豊富なカラー、サイズを用意し、女性のニーズにも応えた
ウェアラブル クーラー “ミズマト”では豊富なカラー、サイズを用意し、女性のニーズにも応えた

 例えば、ウェアラブル クーラー “ミズマト”は、20年9月にMakuake上で発表された第1弾商品「水を纏うTシャツ」がベースになっている。第1弾では、XS・S・M・L・XLの5サイズ、3色展開だったが、今回は消費者ニーズを反映し、サイズは2XS〜3XLに、カラーは12色に増やした。「あえて男性女性という区分けをせず、男女どちらでも使える幅広いカラー・サイズ展開で、ジェンダーフリーな展開を行っていく」という。

 機能面でも新機能が追加されている。高い速乾性、汗が蒸発したときの気化熱による冷却効果に加え、新たに消臭と汗ジミ防止、ベタつき防止、生地の透け感対策などの機能が搭載された。中でも汗ジミ防止機能は、カーキやイエローなど要望の多かった中間色で目立つ汗ジミを、光学効果で見えにくくしたものだ。

 光線を分散させることでぬれているのが見えにくい「魔法のような糸」を、脇部分だけでなくすべてのパーツに採用した。「汗ジミ防止商品は数年前から市場に出回っているが、表面にはっ水加工をしたものが多く、裏面に汗がたまる傾向があった。当社の商品は汗を肌面から表面に瞬時に移動させつつ、表面の汗を見えにくくする点で大きく異なる」(西田氏)

 さらに、上記により夏の不快要因として気になる肌面のべたつきも抑えられる。1枚の生地の中で表面を高密度に裏面を低密度に編むことで、汗を瞬時に肌面から外面に移動させて拡散させる。肌が生地に触れる面積や水分量を少なくすれば、ぬれているのを感じにくくなるという。

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