“食べるバター”のブームをけん引し、VR(仮想現実)や3Dプリンターを活用した新機軸のスイーツを生み出すなど、話題を集めるブランドがある。バター専門ブランド「カノーブル」だ。展開するのは、岡山発のナショナルデパート。商品も“異端”なら、販促方法も独特。SNS全盛の今、あえてSNSを“捨て”、プレスリリースに全振りする。その理由と戦略に迫った。

STORESで異彩を放つ、ナショナルデパートのバター専門ブランド「カノーブル」。代表の秀島康右氏は、Webデザイナーという異色の経歴を持つ。SNSが苦手と語る秀島氏の販促戦略とは
STORESで異彩を放つ、ナショナルデパートのバター専門ブランド「カノーブル」。代表の秀島康右氏は、Webデザイナーという異色の経歴を持つ。SNSが苦手と語る秀島氏の販促戦略とは
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 コロナ禍の影響により、EC市場が拡大を続けている。富士経済が2021年5月に発表した国内市場調査によると、20年は前年比17%増、21年はさらに10%増となる見込みだ。そんな中、誰でも簡単にECサイトを構築できるプラットフォームサービスが存在感を増している。例えば、ベースが運営する「BASE」やヘイ(東京・渋谷)の「STORES」などの日本勢に加え、カナダShopify(ショッピファイ)がグローバルで提供する「Shopify」も勢力を拡大している。

 これらのオンラインストアのプラットフォームを使えば、自社でゼロからECの仕組みを構築する必要がなく、低コストで展開が可能。そのため、スモールビジネスでも活用しやすく、知る人ぞ知る“無名”ブランドがその後にファンを少しずつ集めながら大きくブレークする事例も増えている。

 例えば、チーズケーキ専門店の「Mr.CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」。シェフである田村浩二氏が納得できたチーズケーキが完成したとInstagramに投稿したことがきっかけとなり、直接販売をスタート。その後、BASEでブランドを本格的に立ち上げ、現在はShopifyに移行している。口コミでファン層を徐々に拡大し、今や入手困難な状態に。セブンイレブンとコラボ商品を展開するなど、急成長を遂げている。

 Mr.CHEESECAKEのような、企業や作り手が消費者と直接接することでファン層を広げていくD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドは、若者を中心に人気だ。スイーツに限らず、アパレルや化粧品など、様々な領域で勃興している。SNSなどで直接情報を発信・交流をしながら、オンラインストアプラットフォームを組み合わせ、ミニマルにビジネスを構築するのが定石。そんな中、SNSをあえて押し出さず、プレスリリースによる発信で人気を集める驚きのブランドがある。

 岡山市に本社工場を置くナショナルデパートだ。

STORESでECサイト「NATIONAL DEPARTMENT STORE(ナショナルデパートメントストア)」を展開中
STORESでECサイト「NATIONAL DEPARTMENT STORE(ナショナルデパートメントストア)」を展開中
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数カ月待ちは当たり前 食べるバターがブレーク

 同社はSTORESでバター専門ブランド「カノーブル」を展開。代名詞といえるのが、“食べるバター”「ブール アロマティゼ」だ。バターといえば、パンなどに塗って食べるのが当たり前だが、同店の食べるバターは、その名の通りそのまま食べる。国産バターをベースに、ナッツやドライフルーツを練り込んでいるのが特徴で、欧州では親しまれているフレーバーバターの日本版だ。

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18年11月に投入した“食べるバター”「ブール アロマティゼ」
18年11月に投入した“食べるバター”「ブール アロマティゼ」
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 食べるバターは、18年11月に販売をスタートし、その後も新フレーバーを続々と投入。ネット販売で少しずつファンを増やし、雑誌やテレビなど多数のメディアに取り上げられ、売り上げを拡大した。手づくりのため大量生産ができず、生産量を上回る注文が集まり、最大で数カ月待ちという状況になるヒット商品になった。

 また、20年7月発表のバター加工技術をつぎ込んだ「THE BUTTER SAND(ザ・バターサンド)」は、300個程度の販売を想定していたところ、発売直後に3000個のオーダーが殺到して販売を一時停止。今なお3~6カ月待ちの状況だ。

THE BUTTER SANDは想定以上の売れ行きで一時販売停止に
THE BUTTER SANDは想定以上の売れ行きで一時販売停止に
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21年6月には、アイスクリームのように凍ったまま楽しむバター「THE BUTTER ICE」を展開。バターを軸に、斬新な商品を続々と展開する
21年6月には、アイスクリームのように凍ったまま楽しむバター「THE BUTTER ICE」を展開。バターを軸に、斬新な商品を続々と展開する
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 同店の商品は、パッケージ、中身共にカラフルで、写真映えする。ビジュアルでSNSでの拡散を狙う手もありそうだ。だが実は、インフルエンサーなどを活用したSNSマーケティングは行っていない。また、公式SNSや社長のSNSなどを活用した“きらきらした発信”にも頼っていない。SNS全盛時代、まさにトレンドと逆行しているように思える。

 では、どのように情報を発信しているのか。その疑問に、ナショナルデパート代表の秀島康右氏は「プレスリリースに全力を投入している」と話す。

プレスリリースに活路を見いだしたワケ

 秀島氏は、若い頃にWeb関連の仕事をしており、その後実家の岡山に戻って食品に関わる仕事に就き、8年ほど前に現在のナショナルデパートを創業した。

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