安価なパック酒をメインに製造していた酒蔵が、自社ブランドの日本酒造りを手がけ、2020年には世界的品評会で最優秀賞を獲得した。和歌山県海南市の平和酒造だ。50年間で出荷量が3割以下に縮小している日本酒業界において、この15年間で売り上げを3倍にしている。パック酒販売当時の値引き勝負の世界から、どうやって売り上げを伸ばしたのか。

日本酒「紀土」シリーズ。「紀土 無量山 純米吟醸」(左から3本目)は「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2020」のSAKE部門で、「チャンピオン・サケ」に選出された(写真提供/平和酒造)
日本酒「紀土」シリーズ。「紀土 無量山 純米吟醸」(左から3本目)は「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2020」のSAKE部門で、「チャンピオン・サケ」に選出された(写真提供/平和酒造)

 「いい酒を造る。そして商品価値、企業価値を伝えることに注力してきた」と語るのは、平和酒造4代目の山本典正社長だ。人材系ベンチャー企業を経て2004年に家業に戻ると、経営改革、組織改革に努めた。安価で値引き勝負のパック酒の大量生産から、値引きと無縁の高品質な酒造りへとかじを切った。売上高を4億円(2004年9月期)から12億円(2019年9月期)へと15年間で3倍にした。縮小傾向に歯止めがかからない日本酒業界で、どのように自社の価値を高め、「値引き不要」の酒造りに変えたのか。「日本酒業界の常識を破った」ともいわれる3点について解説しよう。

(1)世界で選ばれた酒は「マニュアル作り」から

 20年12月、平和酒造の「紀土 無量山 純米吟醸」が、世界最大級の酒類品評会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2020」のSAKE部門で、最優秀賞「チャンピオン・サケ」に選ばれた。1401銘柄のエントリーの中から、ブラインドテイスティングによる審査を経ての優勝だ。また、同品評会で同社の複数の銘柄が高評価を得たことを受け、「サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤー」を同時受賞した。

 国際的に高い評価を獲得した日本酒はなぜ生まれたのか。理由の1つは、杜氏(とうじ)1人に依存していた酒造りの技術を開示、共有したことにある。「職人の世界では『見て学べ』が基本とされてきた。酒蔵のトップである杜氏は自分の技術を向上させることだけに注力し、部下である蔵人は、杜氏の指示通りに動くことで酒造りを学んできた」(山本社長)。しかし、平和酒造の財産である技術を若い蔵人にしっかり継承していかなければならない、と山本社長は考えた。そこで杜氏を説得し、麹(こうじ)造りの水分量や発酵管理など、すべての課程を詳細にマニュアル化した。マニュアル作りを担当したのは、若い蔵人たちだ。

酒造りのプロセスをまとめたマニュアル(写真提供/平和酒造)
酒造りのプロセスをまとめたマニュアル(写真提供/平和酒造)

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