
「あなたはこのサービスをご友人やご家族にお薦めしたいと思いますか?」――。顧客満足度ではなく、推奨意欲を問う「ネット・プロモーター・スコア」(NPS)を導入する企業が近年増えている。業績との相関の強さが魅力だが、特有の扱いづらさもある。活用時にぶち当たる壁や盲点について解説する。
2021年6月初旬、筆者宅の最寄り駅近くにいつの間にか時間料金制のシェアオフィスがオープンしていたため、「ものは試し」と利用してみた。入り口で受け付けを済ませ、「お帰りの際にぜひご協力を」と手渡されたのが1枚のアンケート用紙(写真下)。最初の設問は以下の内容だった。
「本シェアオフィスをご友人、知人に勧めたいと思われますか。【 点】」
(「ぜひ勧めたい」が10点、「絶対に勧めない」を0点として、10~0点の点数をつけてください)
アンケートに回答して帰宅後、出前を頼もうとスマートフォンからデリバリーを注文すると、「お客さまアンケートにご協力ください」と題したメールが届いた。指定時刻に届いたデリバリーランチを食べ終えてアクセスすると、そのアンケートは先ほどのシェアオフィスと同様のスタイルだった。
この手のアンケートを近年、よく見かけるようになった。日経クロストレンド読者であればご存じの方が多いであろう、「ネット・プロモーター・スコア」(NPS:Net Promoter Score)と呼ばれる調査形式だ。
改めて説明するまでもないかもしれないが、一応説明しておこう。NPSは、友人、知人にその商品をお薦めしたいと思うかどうか、すなわち推奨意向を尋ねることで顧客ロイヤルティーを測る指標だ。0から10までの11段階で対象商品・サービスの推奨意欲を回答してもらい、回答者のうち9~10点を付けた人(推奨者)の割合から、0~6点を付けた人(批判者)の割合を引き算した値を算出する。
顧客アンケートでよくあるのは、商品・サービスに満足したかどうかを聞く、顧客満足度調査だ。もちろん今もよく利用されている設問だが、「満足している」と回答した顧客が他社商品・サービスに乗り換えてしまうことも珍しくはない。その点、NPSで高い点を付ける、すなわち身近な人に自信を持って薦めたいと思うほど気に入っている場合、当人は末永くリピーターとなり、リアルで信頼できる友人からの好意的なクチコミは新たな顧客を引き連れてくることにつながる。したがって、NPSがハイスコアであればおのずと業績が伸びるという理屈で、経営指標として導入が進んできた。
購入の意思決定に友人からのクチコミが大きく影響し、また売り上げ全体の8割をもたらす2割の優良顧客を大事にする必要性を説く「ファンベース」的思考が支持される現在、NPSは時代にマッチした指標であることは確かだ。
ただ一方で、NPS特有の扱いづらさもある。本稿ではNPS活用の盲点と題して、NPSの難点を挙げつつ、有効活用するための方策を探っていきたい。
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