トヨタやレクサスの新車のサブスクリプション(定額課金)サービスを手掛けるKINTO(名古屋市)。2020年の施策が奏功し、コロナ禍でも好調を維持している。同社が次に見据えるのは中古車を用いたサービスと、車を生かしたコト消費サービスだ。その中身と狙いについて、KINTO副社長執行役員の本條聡氏に聞いた。

KINTO副社長執行役員 CSO 総合企画部部長の本條聡氏
KINTO副社長執行役員 CSO 総合企画部部長の本條聡氏

 20年に車種を拡充し、長期契約プランを追加。乗り換えに対応したサービスなども導入し、20年下期の契約者数は前年同期比で6倍以上に伸長した(参考記事:トヨタ車サブスク「KINTO」の申込数が6倍超。その理由と次の一手)。コロナ禍にあって好調に転じ、現在もそれを維持している。20年6月以降、毎月の申込数が1000件を超えているが、21年に入ってからも1~3月は1500件前後で推移。1月には前年同月比で約2.7倍となり、過去最高を更新した。

21年に入っても好調が続き、1月は過去最高の申込数に
21年に入っても好調が続き、1月は過去最高の申込数に

 好調を維持している背景には、一つの大きな変化がある。「KINTOが若年層を取り込めている点や、コロナ禍でも顧客ニーズを捉えられていることを理解してもらい、積極的に取り組んでくれる販売店が増えてきている」(本條氏)という。新車を売ってきた個々の販売店の理解や協力を得ることは、事業開始当初からの念願だった。現状、KINTOの販売チャネルはウェブ申し込みが約6割で、販売店が約4割。月間1500件の申し込みといっても、トヨタグループの国内販売の1%程度にすぎない。トヨタグループ全国約5000店の取り組みが増えれば、ユーザー獲得の追い風になることは間違いない。

 一方、本條氏は、「もう一歩飛躍させたいが、それには起点となる施策の打ち出しが必要」だと考えている。

21年度内に中古車版の導入を目指す

 その一つと言えそうなのが、中古車版のサブスクだ。19年3月に主力プランである「KINTO ONE」の3年契約で事業をスタートしたため、22年早々から返却される車両が出てくる。この“中古車”を使ったサービスの21年度内導入を計画しているのだ。既に、海外転勤や免許返納で返却された車両を用い、中古車版サブスクのトライアルを実施している。ただ、その特徴を打ち出すのは容易ではないという。

 中古車であれば、と真っ先に思い付くのは割安なプランの提供だろう。しかしKINTOの場合、車両本体価格以外、任意保険や自動車税、メンテナンス料を“込み込み”にした月額料金なのが売り。その諸経費は中古車だからといって安くなるものではなく、例えば月額4万円前後の新車のアクアでは、半分以上の2万円強を占めるという。中古で車両本体価格が抑えられたとしても、月額料金に与えるインパクトは小さくなってしまう。

 本條氏は、「新車で訴求できていない新たなユーザーを獲得したい」と言う。価格でメリットを打ち出しにくいため、「期間や条件などプランでの差異化を図る」(同氏)考えだ。例えば新車と異なる特徴が納期だ。新車の場合は、サブスクであっても納期は購入と同様で、なかには納期が遅れている車種もある。しかし、中古車であれば現物があり、納期を一気に短縮できる。

 「まだ具体的な内容は検討中だが、より“利用”タイプのユーザーを獲得したい。カーシェアやレンタカーを利用している方が、使う頻度が増えたり、借りたいときに借りられなかったり、誰が乗ったのか分からない車に抵抗感を持ったりするケースもあると聞く。こうしたニーズに応えたい」(本條氏)。サービス導入時、どういった内容になるか注目だ。

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コト消費サービス「モビマ」を開始

 コロナ禍に好調に転じたKINTOだが、ワクチン接種などの拡大で新型コロナウイルスの感染が収まり、車へのニーズが変わることに対する懸念はないのか。「逆に、移動の楽しさを訴求したいと考えている。コロナ禍で旅行やレジャーなどを我慢している方がたくさんいるので、そういう方々に新たな機会を提供したいと思っている」と本條氏は話す。

 その答えとして、21年4月にスタートしたのが「モビリティマーケット(モビマ)」だ。「『新しい移動のよろこび』を発見できる場所」とうたったECサイトで、車での移動前、移動中、移動先でのサービスを販売する。利用者はKINTOユーザーに限らない一方、「KINTO ONE」のトヨタ車契約者には3万円相当、レクサス車契約者は5万円相当、「KINTO FLEX」(レクサス車の3車種乗り継ぎプラン。新規受付は終了)の契約者には6万円相当のポイントが付与され、モビマ内で使用できる。

21年4月8日にオープンした“モビリティー×コト消費”のECサイト「モビリティマーケット」
21年4月8日にオープンした“モビリティー×コト消費”のECサイト「モビリティマーケット」

 特徴はラインアップだ。出張型ドライブレッスンのサブスク、キャンピングカーを使ったグランピングの提案、SUVでのオフロード体験などのモビリティーにまつわるものから、移動先での地元食材を用いた料理体験まで、個性的な商品が並ぶ。

 「ここでしか体験できないものを開拓したいと思っており、各パートナーと話をさせてもらっている」(本條氏)と言い、その例として挙げたのが「新感覚!シュノーケリング&真鯛クッキング」(大人1人・税込み5500円)。三重県・英虞(あご)湾で漁船に乗って漁師体験をした後、養殖場でシュノーケリングして5000匹以上のマダイと一緒に泳ぎ、最後はマダイを使った料理体験と食事が待っている。極めてユニークなサービスだ。また、旅行関連で一番人気は「伊勢の玄関口から釜戸まで スローライフ体験」(大人1人・税込み1万5400円)という商品で、こちらは三重県大紀町の農家で1泊2日の自給自足生活を体験するというもの。人気の理由は、地元のおばあちゃんと一緒に松阪牛のすき焼きを作ったり、お手製の朝食が味わえたりする点だという。この2商品は、いずれもインバウンド向けの企画を行うテーブルクロス(東京・中央)が提供している。

マダイを釣って、マダイと泳ぎ、マダイを食べるという「新感覚!シュノーケリング&真鯛クッキング」。大人1人の料金は税込み5500円で、15歳以下は同3850円。3人から申し込み可能
マダイを釣って、マダイと泳ぎ、マダイを食べるという「新感覚!シュノーケリング&真鯛クッキング」。大人1人の料金は税込み5500円で、15歳以下は同3850円。3人から申し込み可能

 車での移動が前提のため、旅行会社のツアーなどと異なり、交通手段の料金が含まれない商品がそろうのも特徴だろう。とはいえ、まだまだ商品の数は限られ、発展途上の段階だ。20商品からスタートし、現在は2倍以上になったものの、それでも42商品。毎週商品を追加し、ラインアップの拡充を図る。

 モビマの企画を担当した総合企画部の北村聡氏は、「“モビリティー×コト消費”のためのプラットフォームがこの世に存在せず、事業としての勝機を感じた」と言う。加えて、「他社がゼロから始めるのと決定的に違うのは、KINTOユーザーという一定数のパイがあること。ポイントを付与しているので、何かしら使ってもらえるはず。そこで楽しさを実感してもらったり、口コミなどで広まったりすることも期待している」(北村氏)。

KINTO総合企画部の北村聡氏
KINTO総合企画部の北村聡氏

 提携企業は、JTBや近畿日本ツーリストなどスタート時点で20社、現在は22社となっている。さらに約20社と交渉中で、将来的には「提携先を200社まで増やすのが目標」(北村氏)だという。提携先が増えれば、商品数も当然増える。

楽しさも“込み込み”でファンを増やす

 トヨタグループであるKINTOが、コト消費サービスであるモビマを手掛ける意味はどこにあるのか。本條氏は次のように話す。

 「まずは、車を使ってもらう機会を増やしたい。KINTOを利用して楽しかった、人生が豊かになったと思ってほしい。トヨタ自動車も『幸せの量産』ということを日々言っているが、KINTOもその努力をしていかなくてはならない。結果、次もトヨタの新車にしようと思ってもらえると考える」

 もう一つ、KINTOやトヨタグループと、消費者の接点を創出する目的もある。オフロード体験はトヨタ車を用いた同グループの施設で、今後は一般の人がまだ購入できないトヨタの小型電気自動車「C+pod(シーポッド)」の乗車体験なども検討中だ。また、グループ内でMaaSに取り組む「my route(マイルート)」も提携先となっており、「行き先はモビマで、行き方はmy routeでといった組み合わせも実現できると考えている」(北村氏)。さらに、同グループが海外16の国と地域で展開するカーシェアサービス「KINTO Share」についても、コロナ禍後には日本からモビマで予約・決済できるよう準備中だという。

 「車のサブスクであるKINTO自体が、トヨタグループとしてのコト消費への取り組み。さらに車両代や諸経費以外、楽しさも“込み込み”にしたい。トヨタグループはKINTOを通じて消費者との接点を増やし、新しい顧客を開拓したい、ファンを増やしたいと思っている。KINTOとしては、トヨタができるコト消費につながることを、先んじて行う役割を果たしたい」(本條氏)

 まだまだ発展途上のモビマだが、展開の仕方によっては化ける可能性もあり、トヨタグループでのコト消費サービスの試金石という役割を担っている。

(写真/古立康三)


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