アパレルなどリアル店舗の販売スタッフが自社のECサイトやSNSへコーディネート写真を投稿し、販売につなげられる「STAFF START(スタッフスタート)」。同サービスを展開するバニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)は、2021年5月14日にLINEと業務提携し、9月をめどに新サービス「LINE STAFF START」の提供を始める。LINEを活用したオンライン接客の強化だけではなく、リアル店舗の購買体験も変える可能性を秘める。その構想に迫った。
バニッシュ・スタンダードが展開する「STAFF START(スタッフスタート)」は、店舗スタッフが着用したコーディネート写真などをブランドのECサイトやSNSへ簡単に投稿できるアプリサービス。加えて、投稿したコーディネート写真経由でEC上の商品が売れた場合、店舗スタッフ個人の売り上げ評価として可視化できることが最大のポイントだ(関連記事「コロナ禍でもアパレル販売2倍 ECに強いカリスマ店員が貢献」)。
これまでECサイトでの売り上げが店舗スタッフに還元される仕組みは整っていなかった。本来、販売の主軸である店舗スタッフを味方に付けられないから、多くの企業がオムニチャネル戦略を掲げても、ECとリアル店舗の融合は遅々として進まなかった。そこを劇的に変えているのが、スタッフスタートの仕組みだ。
「オンライン接客などのDX(デジタルトランスフォーメーション)は『手段』であり、本質は店舗スタッフ(従業員)のやる気を正当に評価し、還元する『EX(Employee Experience、従業員の成功体験)』にある」と、バニッシュ・スタンダード社長の小野里寧晃氏は話す。
この土台があったうえで、店舗スタッフと顧客の良い関係性をオンライン上でもリアル店舗でも構築していくのが、オムニチャネルのあるべき姿だという。小野里氏はこれを、企業と顧客が直接つながるD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)を発展させて、個々の従業員を起点に顧客満足度を最大化する「E2C(エンプロイー・トゥ・コンシューマー)」モデルと表現する。
三越伊勢丹はECサイトのCVRが約1.8倍に
現在スタッフスタートは、アパレルを中心に1200以上のブランドが導入済み。それ以外でも、コスメ分野ではコーセーの自社ECサイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」などが、食品分野ではワインの「エノテカ・オンライン」が採用している。それぞれスタッフのお薦め商品やメーク写真、ワインの個人レビューなどが投稿できる仕組みだ。「スタッフの専門知識に頼らずとも買える低単価な商品・サービス分野以外、すべてのリアルビジネスのオムニチャネル化に貢献できる」(小野里氏)という。
実際、2016年から提供を始めたスタッフスタートがたたき出す実績は驚異的だ。20年はコロナ禍で多くのリアル店舗が不振を極めた中、同年のスタッフスタートで作成されたコンテンツを経由したEC流通金額は、19年比で約2.75倍の約1104億円に達した。リアル店舗のスタッフがEC上の“カリスマ店員”と化す例も珍しいものではなく、最高で月間9000万円以上もの売り上げを達成しているという。これは個人の店舗売り上げの100倍近い実績だ。
そんなスタッフスタートを21年4月末に百貨店で初めて本格導入したのが、三越伊勢丹ホールディングスだ。
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