性被害が多発した問題もあり、2019年末にサービスを終了したSNS「ひま部」。その運営企業であるナナメウエ(東京・港)が、新たなSNSサービス「Yay!(イェイ)」を立ち上げた。Z世代がユーザーの85%を占め、ユーザー数も急増。辛酸をなめたひま部閉鎖から1年半。改善策とYay!の今後について、同社CEO(最高経営責任者)の石濵嵩博氏に話を聞いた。

ナナメウエ代表取締役CEOの石濵嵩博氏
ナナメウエ代表取締役CEOの石濵嵩博氏
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ユーザー300万人、その8割が24歳未満

 「ひま部」という名前をご存じだろうか。アプリ・Webサービス開発のナナメウエが2015年5月に開設し、中学生以上の登録ユーザー約800万人がチャットや通話を楽しんでいた学生限定のSNSだ。1日の投稿数は600万と盛況だったが、19年12月31日にサービスを終了した。

 ひま部がサービスを閉じた1つの理由は、未成年児童の性被害だ。若者を狙う多くの大人がひま部に登録し、知り合った学生に対して性犯罪を行う事例が頻発した。警察庁がまとめた「SNSを起因とする被害児童数が多いサイト」には、16年以来、毎年上位にひま部がランクイン。「性犯罪の温床」というイメージがつきまとい、サービスを閉じざるを得なくなった。

 ところがナナメウエは、ひま部を終了した翌日の20年1月1日、早々に新たなSNSサービスを立ち上げた。通話コミュニティーアプリ「Yay!」だ。同社はYay!を学生限定ではなく、全世代を対象としたサービスにシフトした。いざ蓋を開けてみればユーザーの85%がZ世代で、24歳未満の若者が8割を占めている。21年4月現在、Yay!の累計登録ユーザー数は300万人。その数は急速に増えており、1日の投稿数も500万に達している。

 ひま部での手痛い経験に遭いながら、ひま部と同様のチャットやグループ通話を楽しむSNSをリリースした狙いは何か。安全対策はどのように行っているのか。

通話コミュニティーアプリ「Yay!(イェイ)」のユーザー数推移
通話コミュニティーアプリ「Yay!(イェイ)」のユーザー数推移
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Z世代に人気の理由は?

 Yay!は同世代の友達とネットでコミュニケーションできるアプリだ。サービスには、ユーザーの投稿を時系列で見られる「タイムライン」、1対1もしくはグループで通話ができる「グループ通話」、文字や画像を送信できる「チャット」、趣味の仲間で集まる「サークル」、メッセージ機能「レター」がある。

 勢いを増している人気の理由について、ナナメウエ代表取締役CEOの石濵嵩博氏は「コロナ禍で人との交流が難しくなったため、オフラインに近い体験を得られる通話系やリアルタイムコミュニケーション系サービスの需要が一気に増えた。特にYay!は、誰でも反応をもらえるアーキテクチャーに魅力を感じてもらえている」と分析する。

 タイムラインで「誰か通話しよう」と募ってグループ通話をしたり、サークルの仲間でチャットしたりと、基本的な機能はひま部と同じだ。しかし、ひま部で起きたトラブルが発生しないよう、安全対策に力を入れている。

 まずYay!ではAI(人工知能)により24時間365日コンテンツの監視を、加えて人間によるチェックや通報への対応を行っている。また、全ユーザーに対して運転免許証や学生証などで年齢確認を行い、世代の離れたユーザー同士のやり取りを禁止している。

Yay!のメイン機能は「誰でも通話」
Yay!のメイン機能は「誰でも通話」
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 交流相手を同世代に限定した理由について、石濵氏は「16歳が30歳と話したいという欲求はあまりないと分析している。さらに16歳と17歳で起きるトラブルと、16歳と30歳との間で起きるトラブルは、全く性質が違う」と答える。

 「ユーザー同士の年齢が離れている場合、トラブルが深刻な事態になりがちだ。その点についてはサービスで防ぎたいと考えている。タイムラインはアルゴリズムで年齢が離れた人同士がつながらないようにしている。個人間のチャットも3~4歳離れた年齢同士に制限している」(石濵氏)

年齢が離れたユーザーにはメッセージを送ることができない
年齢が離れたユーザーにはメッセージを送ることができない
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 その他、複数アカウントを作成する際には携帯電話番号による認証を必須とする、外部SNSのID交換を防ぐためにQRコードの投稿は自動検知して禁止するなどの措置も行っている。ひま部を入り口として他のSNSで親密になり、誘い出しや性被害へと結び付くことが多かったため、その反省を生かした対策だ。

 性犯罪には、児童に対して裸の画像を要求する「自画撮り」被害も多い。自画撮り被害ではお互いに持ち物や部屋の一部などを送り合っているうちに、大人が裸の画像を送るように脅迫するケースが多い。また、児童に対して自分の裸画像を送りつける大人もいる。そこでYay!では、個人間チャットの中で送信者の許諾を得て送信画像をチェックし、不適切な画像を検知した場合はアカウントを凍結するようにした。

本当の問題は「収益性」だった

 こうした安全対策には非常にコストがかかる。冒頭でひま部のサービスを閉じた理由として性被害を挙げたが、実はもう1つ理由があった。それが、収益性の低さだ。

 石濵氏は大学在学中に米シリコンバレーに留学、帰国後の13年5月、ナナメウエを設立した。15年5月にひま部をリリースしたところ、1週間でDAU(1日のアクティブユーザー数)が1000を超えたため、学生や趣味嗜好でセグメントを区切ったSNSに収益化のチャンスを感じた。

 「コミュニティーサービスには絶対チャンスがあると思った。しかし、ひま部を運営していくうちに、学生限定では安全対策にコストがかかるため、収益とのバランスが取れないことが分かった。さらに学生限定というブランディングで続けても、年齢層の広がりを狙えないためグロースが難しかった。そこで、リブランディングのような形で新サービスYay!を始めることにした」(石濵氏)

 石濵氏は「トラブルによってサービスを閉じたと伝わってしまったことは、広報のミスだった」と反省している。実際には「ビジネスモデルの転換」という理由のほうが大きかった。

 ではなぜ、若者が集まるSNSをもう一度立ち上げたのかを尋ねた。すると石濵氏は、「若者向けという意識はない。自然と新しいものに若者が集まっていると考えている」と話す。

 「例えば若者に人気といわれるTikTokやInstagramは、現在は10代より40代のユーザーが多い。SNSはユーザーの年齢層が自然にじわじわと上がってグロースするものだと考えている。Yay!に関しても同様に成長するとみていて、実際に30代や40代が増えてきている」(石濵氏)

 Yay!は現在、広告の他、広告を非表示にしたり自分がつけた足あと(他のユーザーのプロフィルを閲覧した履歴)を削除できたりする「VIPメンバーシップ」という課金サービスによって収益を上げている。

Yay!は絶対に「メディア化しない」SNS

 21年に入り、各SNSの動きは活発化している。石濵氏はSNS全体がメディア化する流れにあるという。

 「今、SNSはメディア化する方向に動いている。メディア化とは、YouTubeやTikTokのように配信者と視聴者がくっきりと分かれること。TwitterやInstagramも、知り合いの投稿よりもバズった投稿が強調される。すると配信者は権威を持つことになるので、視聴者は配信者の言うことを信じやすくなる。また配信者はコンテンツの充実化を図らなければならなくなる」(石濵氏)

SNSには配信者と視聴者が分かれる流れがあると語る石濵氏
SNSには配信者と視聴者が分かれる流れがあると語る石濵氏
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 この流れに対して、Yay!は「絶対にメディア化しない」ことをコンセプトにしている。クオリティーが高いコンテンツを投稿する必要はない。ちょっとしたつぶやきでも「いいね」がたくさん付くように設計されている。グループ通話ではクリエイティブな話をしなくても、誰かが話を聞いてくれる。

 Yay!に寄せられたユーザーの声からは、「リアルで友達がいないので、Yay!が人生の支えになっている」「アプリで知り合った友達とリア友になれて感謝している」「電話をしながら勉強しよう会というサークルに参加し、勉強のモチベーションにつながっている」など、ネットでの交流に支えられている若者の姿が垣間見える。

 石濵氏は「Yay!をオンラインからオフラインまで、すべて面倒見られるようなプラットフォームにしていきたい」と意気込む。

 「人との出会いがすべて運任せになっていることは社会問題だと考えている。私たちの会社は、そこをアルゴリズムによって最適化し、一番良いつながりを生み出せるサービスづくりにチャレンジしたい。それは社会的意義があることだと考えている」(石濵氏)

(画像提供/ナナメウエ)