「文具女子博2020」で大賞を受賞したコクヨの「Bobbin(ボビン)」シリーズ。お気に入りのマスキングテープを小さな「ボビン芯」に巻き替えられるアイテムだが、横ばい状態のマステ市場を再び盛り上げるヒット商品となった。誕生のきっかけとなったのは多くのユーザーが密かに抱えていた「後ろめたさ」だった。

 現在の文房具市場を盛り上げているのが“女子文房具”の代表格とも言えるマスキングテープ(以下、マステ)だ。購入層の中心は20~40代の女性。コクヨの調査によると、女性のマステユーザーの約60%が3個以上所有しているという。かわいらしい柄やイラスト、限定デザインについつい手を伸ばし、気付けば自宅のマステが増えているという“マステ沼”にハマる女性ユーザーも多い。

 マステやスタンプなど数多くの文房具が出品された「文具女子博2020」で、来場者の投票によって賞が決定する「文具女子アワード大賞」を受賞したのがコクヨの「ボビン」シリーズだ。ミシンで使う糸巻きのボビンをイメージしたマステ関連グッズで、お気に入りのマステを小さな「ボビン芯」に巻き替えられる。マステをコンパクトに持ち運べるほか、友人との交換やコレクションにも向くとあって、一時は品薄に。「落ち着いていたマステの売り上げがボビンの登場で一気に前年超えに盛り返したほど」(ロフト)のヒットとなった。シリーズのうち、ハンドルを回してテープを巻き替える「コマキキ」(税込み660円)は初月目標の180%を達成した。

ハンドルを回してマステを小さいボビンに巻き替える
ハンドルを回してマステを小さいボビンに巻き替える

 ボビンシリーズ誕生のきっかけとなったのは多くのマステユーザーがひそかに抱えていた「後ろめたさ」だったという。ボビンの商品企画に携わった同社のステーショナリー事業本部商品戦略部の得津まどか氏は「マステを持っている人へのヒアリングを繰り返しているうちに、たくさんのマステが“タンスのこやし”になっていることに後ろめたさを感じている人が多いことに気付いた」と語る。自分が持っている数多くのマステに対して「買い過ぎてしまった」「全く使い切れない」という思いを抱えているマステユーザーが実は多かったのだ。「そこで文房具の力でマステを使うシーンをなんとか増やすことはできないかと考えるようになった」(得津氏)

すでにマステが小巻きにされたボビンテープも発売している。ボビンは側面がカバーされており、汚れが付きにくい。ボビン同士は連結もできる
すでにマステが小巻きにされたボビンテープも発売している。ボビンは側面がカバーされており、汚れが付きにくい。ボビン同士は連結もできる

小さく巻き替えることで利用シーンが拡大

 ボビンシリーズはハンドル付きのコマキキの存在感が大きいが、実は開発の原点となったのはボビンテープを入れて使うフルカバータイプの「カッター付きケース」だ。

 同社は中国市場向けに両面テープを丸くすっぽりと覆うディスペンサーを販売しているが、その構造を応用したテープ関連商品を他にも展開できないかと研究開発を行っていた。「当初は独自に企画した10ミリ幅マステを入れて使うものを試作していたが、『これ以上マステを増やしたくない』『手持ちのマステを使いたい』という意見を受け、スタンダードな15ミリ幅テープが入るコンパクトなカッター付きケースを作り上げた」(コクヨ ステーショナリー事業本部文具開発部 山本尚氏)

ボビンに巻いたテープをフルカバーできるカッター付きケース。ステンレス刃でテープを真っすぐに切れる
ボビンに巻いたテープをフルカバーできるカッター付きケース。ステンレス刃でテープを真っすぐに切れる

 小さなカッター付きケースに入れるためにはテープを巻き替える必要があるが、それが発想の転換になった。マステを小さく巻き替えれば利用シーンを拡大でき、ユーザーが抱えている後ろめたさを払拭できるのではという考えに行き着いたのだ。

 また、マステユーザーの間で知られているのが「マステ巻き巻き」と呼ばれる、まるで呪文のようなアイテム。マステをフラワータグやストローに巻き付けたもので、お気に入りのマステを持ち歩いたり、友人と交換したりするものだが、ボビンに小さく巻いたテープはそうしたニーズにも合致する。

フラワータグに巻いた「マステ巻き巻き」(写真左側)とボビン(写真右側)。お気に入りのマステをコンパクトに持ち運ぶことができる
フラワータグに巻いた「マステ巻き巻き」(写真左側)とボビン(写真右側)。お気に入りのマステをコンパクトに持ち運ぶことができる

 中国向けの両面テープ用ディスペンサーは3パーツで構成されたシンプルなものだったが、柔らかいマステを使うボビンのカッター付きケースではテープをカバーするシャッターを取り付けるなど使い勝手を追求。サイズを小さくしたにもかかわらず、計16ものパーツで構成する精密な設計となった。

一番左側が中国市場向けの両面テープ用ディスペンサー。そこからテープ幅や全体サイズを試行錯誤しながら、一番右のカッター付きケースの最終デザインに行き着いた
一番左側が中国市場向けの両面テープ用ディスペンサー。そこからテープ幅や全体サイズを試行錯誤しながら、一番右のカッター付きケースの最終デザインに行き着いた

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
10
この記事をいいね!する