ADKグループのクリエイティブ専門カンパニーであるADKクリエイティブ・ワン(東京・港)は2021年3月、専門性によって広告クリエイターを選べる「ADK CREATIVE MALL」をスタート。“専門店街”化の狙いはクライアントとクリエイターの間で起こりがちなミスマッチの解消だった。
「ADK CREATIVE MALL」(以下、CREATIVE MALL)は戦略構築やPR、デジタルテクノロジーなど専門領域に特化した11のチームから最適なクリエイターを選べ、事業経営レベルの課題解決からコンテンツ開発まで、ビジネスの川上から川下までをフルカバーしているという。
このCREATIVE MALL設立の狙いは何か。今広告クリエイティブ業界に何が起きているのか。クライアント(広告主)側のマーケターとしてさまざまな広告代理店と長年仕事をしてきた富永朋信氏(Preferred Networks執行役員最高マーケティング責任者)が、ADKクリエイティブ・ワン クリエイティブ本部長の辻毅氏と第2クリエイティブ局局長の若木信氏に聞いた。
クライアントとクリエイターの「合わない」を防ぐ
Preferred Networks執行役員最高マーケティング責任者の富永 朋信氏(以下、富永) CREATIVE MALL設立の狙いは。
ADKクリエイティブ・ワン クリエイティブ本部長の辻 毅氏(以下、辻) 各クリエイターの得意領域を明確化し、それに合わせてチームを編成したのがCREATIVE MALLだ。
広告代理店がクライアントから依頼を受けてクリエイターをアサインする場合、営業がなじみのクリエイターをパートナーのように連れていくケースが多い。そこで、ユーモアが好きなクリエイターがまじめな企業メッセージを担当したりすると、クライアントから「うちの仕事に合わない」と言われたり、クリエイターからも「自分の得意領域と合わない」と言われたりなど、ミスマッチが起こることがある。また、代理店のクリエイティブチームはCD(クリエイティブディレクター)を中心に編成されているのが一般的で、ソリューションがどういったものになるかはやってみるまで分からないという面もあった。
そこで、クリエイターの専門性を可視化し、クライアントが自分たちの抱えられている課題にマッチするクリエイターを選べるようにしたいと。これによって、代理店の営業も「このクリエイターの得意領域はこういうところです」と分かりやすく説明できるようになり、よりフィットする関係をつくれればと考えて始めた。
富永 私は長年クライアントの立場でほぼすべての大手広告代理店と仕事をしているが、初めてのチームだと「合わないな」と思うことはある。ただ、いきなりネガティブなことを言うのは気が引ける。そこでジェントルに正攻法でフィードバックするわけだが、あまりに伝わらなくてイライラしてきて、旧知のクリエイターに代えてしまうといったことがあった。そういうミスマッチがなくなるのはいい。それぞれのチームは具体的にどう分かれているのか。
ADKクリエイティブ・ワン 第2クリエイティブ局局長の若木 信氏(以下、若木) 例えば、「バイラルエンターテインメント」はCMの枠組みから外れたところにどれだけ飛び出せるかを考えていて、人の口の端に上るキャンペーンを仕掛け、短期的に効果を出すことができるのが強み。「ライフデザイン」は日常的な暮らしの中の本音や気分を丁寧に汲み取り、一人ひとりに刺さるクリエイティブを目指すチームだ。
「クリエイティブ・イノベーション」はテクノロジーを活用したキャンペーンに強いチームで、トヨタ自動車の「TOYOTA BARISTA(トヨタバリスタ)」というキャンペーンでは、ハイブリッド技術が生み出すパワーでコーヒーをどれだけ沸かすことができるかに挑戦した。実証実験的な試みを誰でも実感しやすいサプライズイベントにし、それをリアルなドキュメンタリー動画にしてバイラル(拡散)させるやり方だ。
富永 テレビCMにおけるメタファーの使い方と、このクリエイティブ・イノベーションにおけるメタファーの使い方が違うと。テレビにおけるメタファーの役割はたいていの場合、ブランドや商品、サービスと顧客の関係を何かに見立てて表現していく。それに対し、このクリエイティブ・イノベーションは一段解像度を上げてブランドの属性伝達に印象的なメタファーを用いて、顧客自身がストーリーの中に飛び込んでいくような表現の手法ということか。
辻 3年くらい前にJAXA(宇宙航空研究開発機構)と一緒に取り組んだ、人工衛星のPRがテーマだった「未来レストランいぶき」という、温暖化が進んだ未来の料理が食べられるカフェもそう。単に視聴者として見るのではなく、その中に入ってその世界を体験できる試みをテクノロジーとうまく組み合わせて実施しているのが、このチームの強みになっている。
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