シナリオではなく、ディープラーニング(深層学習)によって自律的に話す。そんな夢のようなロボットがこの4月に誕生した。開発したのは、日本でSNS文化を広めたミクシィ。創業者で会長の笠原健治氏が陣頭指揮を執り、4年にわたって開発を続けてきた。5年ほど前にブームが起こったものの普及に至らなかったコミュニケーションロボットに今なぜ挑むのか。笠原氏に直撃した。
2015年前後、ソフトバンクグループの「Pepper(ペッパー)」やシャープの「ロボホン」が登場し、人との対話や会話を売りにする「コミュニケーションロボット」が話題を集めた。産業界でロボットが広がった第1次、ソニーの初代「AIBO」(現在発売中の新モデルは小文字表記でaibo)などが誕生した第2次に続き、当時は“第3次ロボットブーム”と呼ばれ、大手だけでなく様々なベンチャー企業がAI(人工知能)を活用した対話型ロボットを市場に投入。だが、裾野は広がらず、撤退をする企業もあり、ブームは沈静化した。
近年では、ロボットのトレンドが反転。会話、すなわち言語(バーバル)に頼らない、動きを中心とした非言語(ノンバーバル)のロボットが主流になりつつある。
GROOVE X(東京・中央)の「LOVOT(らぼっと)」やソニーの復活した「aibo」はまさにその代表格。ユカイ工学(東京・新宿)のしっぽのみが動くクッション型ロボット「Qoobo(クーボ)」や、Vanguard Industries(東京・港)のモフモフしたペットロボット「MOFLIN(もふりん)」といった、斬新なノンバーバルロボットも市場をにぎわしている。もはや会話による対話ロボットは主流ではないといっても過言ではない。
人が仕込んだシナリオで動くロボットでは限界がある
そんな中、あえて言語による対話に“全集中”したロボットを開発する企業がある。日本におけるSNSの草分けである「mixi」を生み出したミクシィだ。
同社は21年4月21日、ディープラーニング(深層学習)ベースで自由に会話ができるとうたうロボット「Romi(ロミィ)」の一般発売をスタートした。20年6月に200台限定で先行販売したところ、約1カ月で完売。満を持しての本格展開だ。
機能やサービスは4月26日公開の記事「ミクシィが自律型会話ロボット「Romi」でサブスクを開始」で詳報しているが、最大の特徴は前述したようにディープラーニングをベースに、ロボットが自ら考えて会話をする点だ。
従来のコミュニケーションロボットのほとんどは、人間が構築したシナリオを基に対話をする「ルールベース」で動いていた。AI搭載とうたってはいても、ほとんどのものはAI技術を音声解析などに使ったり、ごく一部の返答に利用したりするだけで、どのような会話をするかといった対話の根幹部分は、実はあらかじめ開発者が用意したものなのだ。
ルールベースの場合、会話のバリエーションが少なかったり、返答が定型の繰り返しになったり、飽きられやすいという課題があった。その結果、消費者のコミュニケーションロボットへの期待はしぼみ、対話ロボットの普及は後退することになった。
対して、ミクシィは、Romi開発に当たり、ディープラーニングを駆使した独自の会話エンジンを構築。実に会話の9割以上を、ロボット自身が思考して話すという。「ディープラーニングベースの対話エンジンを主体としたコミュニケーションロボットは、おそらく世界初」(ミクシィ創業者兼会長の笠原健治氏)。大きなチャレンジに打って出た。
なぜ、ミクシィがAIロボット開発に挑むのか
ミクシィといえばSNSや「モンスターストライク(モンスト)」に代表されるゲームなどに強みを持つソフトウエア企業。ではなぜ、畑違いともいえるAIロボットに挑むことになったのか。きっかけは、今から4年ほど前、17年にさかのぼる。
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