ドリームインキュベータがアウトドアなど趣味の雑誌を多数出していた老舗出版社、枻(えい)出版社の24媒体を譲り受け、子会社「ピークス」(東京・千代田)を設立した。デジタルメディアが伸長する中、わざわざ紙媒体を買収した意図は何か。2021年2月5日の会社始動から2カ月。2人の代表取締役に話を聞いた。

ピークス代表取締役社長の白土学氏(左)とドリームインキュベータ執行役員でピークス代表取締役の半田勝彦氏(右)(左写真/小野さやか)
ピークス代表取締役社長の白土学氏(左)とドリームインキュベータ執行役員でピークス代表取締役の半田勝彦氏(右)(左写真/小野さやか)

 2021年2月9日に民事再生法の適用を申請した枻出版社。同社の24媒体(24誌)と、枻出版社の子会社で趣味領域のコンテンツ配信やマーケティングソリューションを手がけてきたピークスが“新生”ピークス(東京・千代田)として、再始動した。

 再始動をバックアップしたのは、ベンチャー投資やビジネスプロデュースを手がけるドリームインキュベータだ。枻出版社の24媒体および、子会社の事業を買収した意図は何か。

 「メディアビジネスではなく、ファンビジネスととらえ、その拡大を目的にアプローチした」とドリームインキュベータ執行役員でピークスの代表取締役、半田勝彦氏は語る。

「フック」と「回収エンジン」でもうける

 今回の買収には、前段がある。ドリームインキュベータの事業の1つ、「ファンマーケティング事業」で成功したビジネスモデルだ。

 10年に設立された電子チケットサービスのボードウォーク(東京・千代田)は、チケット販売手数料の利幅が薄く、事業が赤字化していた。これに対し15年、ドリームインキュベータは投資を決め、コンサルティングを開始した。電子チケットの独占販売で獲得したファン基盤を使い、コンサートグッズやツアーDVDなどの物販を手がけたのだ。

 「人気アーティストの場合、チケットが抽選販売になることがある。そこで当選した人だけでなく、落選したファンにツアーDVDを販売したところ、大手レコード店よりも販売数が伸びた」(半田氏)

 店舗を持たない、広告も打たない。ツアー終了後、ファンにメールマガジンを配信しただけで、グッズやDVDが飛ぶように売れた。

 会社は半年後に黒字化した。ボードウォークは現在、会員数900万人を抱える。この会員を相手に、数々の人気アーティストのライブチケットや関連グッズの販売、ファンクラブの運営などを一手に引き受けるなど、ファンデータを活用したビジネスで実績を上げている。

 ドリームインキュベータでは、ボードウォークでの成功体験を踏まえ、ファンデータを活用するビジネスに「フック」と「回収エンジン」といった考え方を用いる。「フック」は顧客などをひきつける機能、グーグルでいう検索機能だ。「回収エンジン」はもうける仕掛け、グーグルでは広告モデルだ。

 ピークスでいえば、趣味をテーマにしたオウンドメディア上で展開する「コンテンツ=知的財産(IP)」をフックにファンを集める。そして集まったファンデータをベースにファンクラブなどのサブスクリプション、物販、体験イベントなどのBtoC事業、あるいは企業の広告・事業開発などのBtoB事業でマネタイズするのだ。

強いコンテンツ(フック)でエンゲージメントの高いファンを獲得し、ファンデータを生かしたBtoC、BtoB事業(回収エンジン)でマネタイズする(画像提供/ピークス)
強いコンテンツ(フック)でエンゲージメントの高いファンを獲得し、ファンデータを生かしたBtoC、BtoB事業(回収エンジン)でマネタイズする(画像提供/ピークス)

 ゴルフ、ランニング、自転車、釣りといった、ピークスの主力である趣味雑誌の定期購読者には、コアなファンが多い。エンゲージメントの高いファンは、興味のある領域での消費をためらわない傾向が強い。ドリームインキュベータから見れば、買収した媒体に付いているファンこそが売り上げ増をもたらす大きな資産だ。

 「顧客はいったい誰なのか。それをしっかりつかむため、現在ファン一人ひとりのデータ(ID)獲得と分析に注力している」と、ピークス代表取締役社長の白土学氏は語る。そうした意味で、親会社のドリームインキュベータに在籍するデータサイエンティストの力を借りられることは大きなメリットだ。

 旧ピークス時代に運営を開始したWebサイト「FUNQ(ファンク)」がある。ここでは、枻出版社の雑誌コンテンツを掲載すると同時に各誌の読者データを管理していた。サイト上の読者の動きをデータ化して追えるようにしたものの、活用できずに「ただ寝かせていた」という。2月以降、ユーザー(ファン)のサイト遷移を詳しく分析すると「サーフィンを趣味にしている人が何かのきっかけでゴルフを始めて、ゴルフ仲間とキャンプに行く」といった流れが見えてきた。

コミュニティーサイト「FUNQ」には、雑誌のコンテンツに加え、趣味領域の最新情報やイベント案内などが並ぶ
コミュニティーサイト「FUNQ」には、雑誌のコンテンツに加え、趣味領域の最新情報やイベント案内などが並ぶ
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・「FUNQ

 データからは、読者の傾向も浮き彫りになった。ある趣味を深掘りした男性は、次の趣味にも深くはまっていく傾向が強い。半面、女性はライトに趣味にはまるため、数カ月ごとに興味が移る傾向が高いという。

 こうしたデータを基に、現在ピークスが事業拡大を狙っているのはBtoCの分野だ。

 21年3月20日、ピークスは再始動後初の大型オンラインイベント「FUNQフェス」を開催した。