次世代交通サービスといえば、自動運転タクシーや空飛ぶクルマが思い浮かぶ。だが実は、「都市型ロープウエー」という新たな選択肢も急浮上している。2018年設立のスタートアップ、Zip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー、東京・荒川)は、世界初となる自走式の都市型ロープウエーの実装を目指す。都市交通の近未来をどう変えようとしているのか。

Zip Infrastructureが開発している自走式ロープウエー「Zippar(ジッパー)」のイメージ。都市部の道路の渋滞解消に役立つ新たな交通機関として実装を目指す
Zip Infrastructureが開発している自走式ロープウエー「Zippar(ジッパー)」のイメージ。都市部の道路の渋滞解消に役立つ新たな交通機関として実装を目指す

 深刻な渋滞や、それに起因する環境問題など、人口集中が進む都市が抱える課題の解決策として、電動垂直離着陸機(eVTOL)のような「空飛ぶクルマ」が脚光を浴びている。しかし、空飛ぶクルマが技術的な問題をクリアして実用化されたとしても、すぐさま人口密集エリアの上空で縦横無尽に飛び交う姿は想像しにくい。海上を通るルートで離島や対岸を結ぶといった活用が現実的で、しばらくは都市交通に与えるインパクトはそう大きくないだろう。

 その一方で、実は世界で注目されている意外なローテク技術が、「都市型ロープウエー」だ。以前からある観光用ではなく、地下鉄などの代わりに街中の交通機関として整備されるもの。例えば2014年ごろから導入を始めた南米ボリビアでは、現在9路線、総延長距離で30キロメートルも整備されているという。

 従来のモノレールやLRT(次世代型路面電車システム)、地下鉄などを新規で開業するより圧倒的に建設費が安く、空間活用により道路の渋滞解消にも役立つ。そのため、コロンビアなど他の国でも導入が進んでおり、都市型ロープウエーの総延長距離は14年から19年の間で230%も増加。空飛ぶクルマのような“飛び道具”ではなく、都市交通の「現実解」として注目を集めているのだ。

ボリビアの事実上の首都、ラパスで国営企業が運営する都市型ロープウエー「Mi Teleferico(ミ・テレフェリコ)」(写真/Shutterstock)
ボリビアの事実上の首都、ラパスで国営企業が運営する都市型ロープウエー「Mi Teleferico(ミ・テレフェリコ)」(写真/Shutterstock)

 そんな都市型ロープウエーに新機軸のアイデアで切り込むのが、18年設立のスタートアップ、Zip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー、東京・荒川)だ。同社は世界初となる都市交通をターゲットとした自走式ロープウエー「Zippar(ジッパー)」を開発中で、20年10月から神奈川県⼩⽥原市に設けた約80メートルの実験線で1⼈乗りモデルの走行テストを開始。25年には国内で第1号の営業路線をローンチし、27年には国内5路線での実用化を目指している。

Zip Infrastructure社⻑の須知⾼匡氏。2021年4月12日、神奈川県小田原市の実験線を報道陣に公開した。須知氏は、慶応義塾⼤学に在学中の18年に同社を設立
Zip Infrastructure社⻑の須知⾼匡氏。2021年4月12日、神奈川県小田原市の実験線を報道陣に公開した。須知氏は、慶応義塾⼤学に在学中の18年に同社を設立

世界でもまれな「曲がれるロープウエー」

 Zipparの最大の特徴は、従来のロープウエーと違ってゴンドラが自走する形態で、カーブや分岐を伴う路線も自在に組めることだ。既存のロープウエーはロープを動かしてゴンドラを運ぶ仕組みで、直線ルートを結ぶのが一般的。ボリビアなどで実装されている都市型ロープウエーもこのタイプだ。

 それに対してZipparは、ロープは固定で電動モーターやバッテリーを搭載した個々のゴンドラが自走する。加えて、特許出願中の独自技術「ロープ・レール同時走行技術」も有する。これは、カーブや分岐部分をモノレールの軌道桁のような構造物で作り、そこにつながって直線ルートを結ぶロープとの間で自走式のゴンドラがスムーズに乗り移りできるようにするもの。レール形状の他、ゴンドラの受動輪の位置を可変する機構によって実現する。

ロープとレール部分のイメージ模型
ロープとレール部分のイメージ模型

 つまり、Zipparは世界的にまれな「曲がれるロープウエー」だ。これは、都市交通として実装していく上で極めて大きな意味を持つ。直線ルートしか設計できないと、特に日本のような“完成された都市”においては路線上の用地買収が必要になり、建設コストがかさむ。それがZipparなら、既存の道路上の空間を活用して自由にルートを組めるのだ。

 道路に中央分離帯がある場合はT字型の1本支柱を50~100メートル間隔で配置すれば左右2路線確保でき、中央分離帯がない場合も道路の左右から2本の支柱をつなげる形で対応可能という。後者は、高速道路のルート案内表示版を支えるフレームと同じようなイメージだ。

 ちなみに、多くの道路には既に電柱が設置されているが、Zipparのルート上にあるものについては、「Zipparの支柱に統合するか、電柱より高い位置にロープを張るといった対応が可能」(Zip Infrastructure社長の須知⾼匡氏)。

Zipparのゴンドラと、軌道の設置イメージ
Zipparのゴンドラと、軌道の設置イメージ

 また、ロープウエーというと気になるのは、風の影響だろう。通常のロープウエーは運行可能な風速が毎秒20メートルで設定されているが、Zipparの場合は毎秒30メートルまで運行できる。2本のロープ上をゴンドラが走る「ロープ複式」を採用するからだ。これは、自走式ではないものの、箱根ロープウェイでも実績がある風に強い方式だ。

 Zipparのゴンドラは4人乗り、8人乗り、12人乗りをエリアの需要に合わせて投入する計画。最高速度は時速36キロメートル、単線の場合に必要となる道路幅は3メートル、最大勾配は10%としている。「道路構造令により、道路の勾配(縦断勾配)は全国一律で最大12%と規定されているので、10%の登坂能力があればほとんどのエリアで実装できる」(須知氏)という。