日経クロストレンドは、技術、マーケティング、消費3分野の最新潮流を把握すべく、「将来性」と「現時点での経済インパクト」の2軸でマッピングした「トレンドマップ 2021上半期」を作成した。新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、急浮上した最新キーワードとは?

トレンドマップ調査は2018年夏から半年に1回実施しており、今回で6回目(写真/Shutterstock)
トレンドマップ調査は2018年夏から半年に1回実施しており、今回で6回目(写真/Shutterstock)

 「トレンドマップ2021上半期」は、日経クロストレンドのメディア活動で協力を得る約50人のアドバイザリーボードのメンバーに加えて、日経クロストレンド、日経トレンディ編集部員へのアンケートを2021年2月後半から3月上旬に実施して作成した。

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 編集部が選定した技術28キーワード、マーケティング29キーワード、消費28キーワードそれぞれを認知する人に、そのキーワードの現時点での「経済インパクト」と「将来性」を5段階で尋ね、1~5点でスコアリングしたものだ(選択肢名など、詳細は記事最後に掲載)。トレンドマップは右にいくほど経済インパクトが大きく、上にいくほど将来性が高いことを示す。

 前回調査(トレンドマップ2020夏)は、20年8月に行った。その後、年末にかけて新型コロナの感染者は再拡大し、首都圏を中心として2度目の緊急事態宣言が発令されるに至った。今回の調査はその最中に行った。

 では、調査結果を見ていこう。今回、将来性スコアが最も伸びたのは、技術では「量子コンピューター」「電気自動車(EV)」、マーケティングでは「SDGs(持続可能な開発目標)」「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」「クラウドファンディング」、消費では「マルチハビテーション(複数拠点に住まいを持つ)」「サステナブル消費」となった。

 また、同じく経済インパクトでは、技術は「コンタクトレス・テクノロジー」「電気自動車(EV)」、マーケティングは「動画マーケティング」「ダイナミックプライシング」、消費は「クラウドゲーム」「ワーケーション(ワーク×バケーション)」が、スコアを伸ばした。

各分野でスコアを伸ばしたキーワード(2020夏調査との比較)
各分野でスコアを伸ばしたキーワード(2020夏調査との比較)
各分野でスコアを落としたキーワード(2020夏調査との比較)
各分野でスコアを落としたキーワード(2020夏調査との比較)

 今回の調査から新たに追加したのは、下記の5つのキーワードだ。これらの中で、将来性スコアが比較的高かったのは、技術の「カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)」「エドテック(教育×テクノロジー)」、マーケティングの「クッキー代替技術」、消費の「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」となった。

新たに追加したキーワードの将来性スコア
新たに追加したキーワードの将来性スコア

スマートシティの鍵となる「量子コンピューター」

2021上半期トレンドマップ【技術キーワード編】
2021上半期トレンドマップ【技術キーワード編】

 それでは、技術分野の注目キーワードを見ていく。今回、将来性スコアを大きく上げ、かつ4.00以上の高スコアを獲得したのは、「量子コンピューター」(スコア4.06)、「電気自動車(EV)」(スコア4.31)だ。EVについては、経済インパクトのスコアも前回調査比で0.53ポイント増と大きく伸ばした(スコア3.11)。

 量子コンピューターは、米グーグルやIBM、中国のアリババ集団など、世界の有力企業で開発競争が進む。「重ね合わせ」や「量子もつれ」といった量子力学特有の状態を計算過程で用いて、現在のスーパーコンピューターなどより圧倒的に少ない回数の計算で瞬時に答えを導き出せる。画期的な新薬の開発やAI(人工知能)の高度な利用、膨大な交通データの分析による渋滞解消、金融市場のリスク評価など、あらゆる分野に大きなインパクトをもたらすと期待される技術だ。

 日本では政府が20年1月に「量子技術イノベーション戦略」を策定。AIなどの技術革新を社会の課題解決に生かす「Society 5.0」や「データ駆動型社会」といったスマートシティやスーパーシティの実現に向け、研究開発体制の強化を急いでいる。そして21年3月には、住友商事が量子技術を活用した事業高度化、新事業創出を目指す「QX(クオンタム・トランスフォーメーション)プロジェクト」を発足し、関連技術を持つイスラエルのClassiq(クラシック)に出資した。こうした実業分野での取り組みも本格化しつつあることが、将来性スコアを押し上げた要因とみられる。

EVとカーボンニュートラルも高スコア

 EVについては、菅義偉首相が21年1月に行った施政方針演説で、「35年までに新車販売で電動車100%を実現」することを明言したことが大きく影響しているだろう。ドイツのフォルクスワーゲンや米ゼネラル・モーターズ(GM)、スウェーデンのボルボ・カーなど、欧米勢はこぞって「EV全面シフト」を戦略の柱に掲げている。20年には、EVシェアトップの米テスラの時価総額が自動車メーカーとして初めて世界首位になったことや、米アップルが投入を検討しているとされるEV「アップルカー」も話題を呼んだ。

 ボストン コンサルティング グループの市場予測では、プラグインハイブリッド車やハイブリッド車を含む電動車は、2025年には世界新車販売台数の約30%を占めるという。また、30年にはガソリン車とディーゼル車の合計を超えて51%のシェアを獲得すると予想されている。生産過程での温暖化ガス排出量などを勘案すると、必ずしもピュアEVだけが正解ではないが、電動化の流れ自体は「不可逆」なものだ。

 国内では、トヨタ自動車が20年6月にSUV(多目的スポーツ車)タイプの新型プラグインハイブリッド車「RAV4 PHV」を投入。これが発売から約3週間で受注停止になるほどの人気を集め、21年3月に入ってようやく受注を再開した。20年10月にはホンダ初の量産EVである「Honda e」が、21年1月にはマツダ初の量産EV「マツダ MX-30 EV MODEL」が発売されるなど、国内メーカーも電動化への対応を急ぐ。ハイブリッド車以外はまだ一部の支持を集めている段階だが、確かな需要を伴って今後従来のガソリン車から置き換えが進むことは間違いないだろう。

トヨタ自動車の「RAV4 PHV」
トヨタ自動車の「RAV4 PHV」

 こうしたEVへの関心の高まりの背景には、新キーワードとして追加した「カーボンニュートラル」も影響している。今回の調査で将来性スコアは4.22と高い水準になった。カーボンニュートラルとは温暖化ガスの排出量を実質ゼロとすること。日本政府は20年10月に「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」ことを表明し、グリーン成長戦略を打ち出した。

 非常に意欲的な目標だが、これを実現するには再生可能エネルギーの拡大、新たな発電燃料として期待されるアンモニアの活用などに加え、クルマの電動化が重要になる。その他の産業でも、リサイクル材の活用といった身近な取り組みも含め、大企業を中心にロードマップを定めて推進されている。

コロナ禍で教育分野のDXに期待

 もう1つの新キーワード「エドテック」も、将来性スコア4.19と高い水準をマークした。コロナ禍で授業のオンライン化が進んだだけではなく、AIを活用した教材開発や、個々の学習速度に合わせたパーソナライズ、20年度から小学校で必修化されたプログラミング教育など、大きく進化を遂げようとしている分野だ。

 小中学校に1人1台のパソコン、タブレットなどを配布し、校内の通信ネットワークを整える文部科学省の「GIGAスクール構想」も前倒しで始まった。インフラ(箱)が整うことで、次の焦点はコンテンツ(中身)に移る。ゲーム産業など人を引きつけるノウハウを持つ異業種プレーヤーの参入を含め、教育分野のDXが急速に進みそうだ。

 最後に、今回の調査で経済インパクトのスコアが突出して伸びたのが、店舗の無人化や自動接客レジなどの「コンタクトレス・テクノロジー」(スコア3.10、前回比0.56ポイント増)だ。このキーワードはコロナ禍を受けて前回行った20年8月調査で追加したものだが、さらに重要性を増している。

 20年3月に開業したJR山手線の新駅、高輪ゲートウェイの構内にある無人コンビニ「TOUCH TO GO」は、その好例だ。天井から下げた複数のカメラが来店客の姿を捉え、どの商品を手に取ったかをAIで分析。セルフレジの前に立つと、購入金額が表示され、交通系ICカードで決済する仕組みだ。

 このシステムの導入で一般的なコンビニで働く3人の店員を1人に減らすと考えたとき、アルバイトの時給を1100円として、月に1人分の人件費50万~80万円のコスト削減効果が期待できるという。20年10月には、JR山手線の目白駅に高級スーパー紀ノ国屋の無人店「KINOKUNIYA Sutto(キノクニヤ スット)」も開店した。

高輪ゲートウェイの「TOUCH TO GO」
高輪ゲートウェイの「TOUCH TO GO」

 また、同じく20年10月には、売り場面積わずか1坪、「世界最小」をうたう靴販売店が、羽田空港第1ターミナル5階の商業施設「THE HANEDA HOUSE」の一角に登場した。AR(拡張現実)を使った試着体験と3Dスキャナーによる計測結果を組み合わせ、来店客一人ひとりにぴったりの1足を提案するものだ。靴選びから試着、購入までの一連の流れを完全非接触で体験できる。こうしたニューノーマル時代の店づくりは、単なるテクノロジー活用だけではなく、体験価値を向上させる“合わせ技”で発展していきそうだ。

日経クロストレンド「アドバイザリーボード」から
日高洋祐氏

MaaS Tech Japan 代表取締役
日高 洋祐 氏

 インターネットがデジタルコンテンツの発達でGAFAやメガベンチャーを生んだように、これからはよりフィジカルな都市やインフラのDXと、それに適応するモビリティや家電、ハードウエアが台頭してくる。その市場規模は、スマートフォンやコンテンツビジネスより大きいものと考えます。


木崎大佑氏

蔦屋家電エンタープライズ 商品部 商品企画Unit 新規事業Team Leader
木崎 大佑 氏

 昨今のキャンプブームやビジネス書の売れ筋から、テクノロジーの進化と離反した消費者行動が見受けられるようになりました。今後の技術進化と人間力の追求が接点を持つのか、それとも相反するものとして、おのおのが別の形で成長を続けるのかに注目しています。


※「トレンドマップ 2021上半期」のマーケティングキーワード編に続く

【調査手法】
 技術、マーケティング、経営の専門家ら約50人が参加するアドバイザリーボードのメンバーと、日経クロストレンド、日経トレンディ編集部員を対象にアンケートを2021年2月後半から3月上旬に実施。編集部が選定した技術28キーワード、マーケティング29キーワード、消費28キーワードのそれぞれを認知する人に、そのキーワードの現時点での「経済インパクト」と「将来性」を5段階で尋ね、1~5点でスコアリングした。質問の選択肢は下記の通り。

[経済インパクト]
1.どの企業も収益を得られていない/2.一握りの企業(1~2割程度)の収益に影響している/3.一部の企業(3~5割程度)の収益に影響している/4.大半の企業(6~8割程度)の収益に影響している/5.社会全体になくてはならない存在

[将来性(=企業の収益貢献や社会変革へのインパクト)]
1.将来性は低い/2.将来性はやや低い/3.どちらとも言えない/4.将来性はやや高い/5.将来性は高い