家電メーカーのツインバード工業は2021年2月、厚生労働省に新型コロナウイルスワクチンの運搬庫5000台を納品した。同社によると、温度管理をしながらワクチンを運ぶ製品は他にないという。20年来の研究開発が役立つこととなった。野水重明社長に、ワクチン運搬庫製造の経緯とヒット商品について聞いた。

ツインバード工業の野水重明社長(写真提供/ツインバード工業)
ツインバード工業の野水重明社長(写真提供/ツインバード工業)

 「毎日が緊張の連続」と語るツインバード工業の野水重明社長。21年2月に厚生労働省にワクチン運搬庫の納品を終えたばかりだが、新潟県燕市の工場では急ピッチで製造が続く。武田薬品工業への5000台の納品は3~4月だ。

 同社がワクチン運搬庫を受注できた理由について、野水社長は「超低温まで冷却できるだけでなく、極めて精緻な温度制御が可能。それから、軽量、コンパクトでポータビリティーに優れている点が他社製品にはない。これらの点で、独自の性能を評価いただいた」と説明する。

倒産寸前でも開発あきらめず

 開発が始まったのは2002年。ワクチン運搬庫に使用されたのは、スターリング冷凍機と呼ばれるヘリウムガスを使用した環境にやさしい冷却システムだ。従来のコンプレッサー方式にはない画期的技術で、極低温までの冷却が可能。精密な温度制御に加え、軽量、コンパクトで振動にも強い特徴を持つ。野水社長の父であり、工学系の研究者だった野水重勝前社長が「他にはない技術を世の中の役に立てる」と開発投資を開始した。過去には大手企業が量産化を断念している。

 ツインバード工業でも実用化に時間を要した。途中、会社が5期連続で赤字を出し倒産寸前だったこともある。しかし「独自の技術」にこだわり、開発の手は止めなかった。父と同じく研究畑で育った野水社長も11年の就任以来、スターリング冷凍機の開発である「FPSC(フリーピストン・スターリングクーラー)」事業を社業の軸の1つに据えた。事業自体が黒字化したのは13年だ。

 これまでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国企業への納品実績がある。「こうした実績によるものかは分からないが、厚生労働省から新型コロナウイルスワクチン用の運搬庫製造についての打診があった」(野水社長)。

 当初その内容を聞いた野水社長は、「到底できるわけがないと思った」。極めて短期間に、経験したことのない数を納品するだけでなく、新規開発も伴う。ツインバード工業にとってはリスクだらけだ。

工場での製造の様子と米モデルナ製新型コロナウイルスワクチンの運搬庫(写真提供/ツインバード工業)
工場での製造の様子と米モデルナ製新型コロナウイルスワクチンの運搬庫(写真提供/ツインバード工業)

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