1805年創業の老舗くず餅店、船橋屋(東京・江東)は、採用倍率1000倍以上の人気企業だ。2015年、5人の新卒採用枠に1万7000人が殺到し、以降も毎年、数千人の学生が入社を希望する。渡辺雅司社長は、どんな組織づくりや人材育成を手がけているのか。
前編で紹介したように、船橋屋には「どうすれば課題を解決できるか」に力を注ぐ社員が多い。緊急事態宣言下では「どうすれば商品を安全に届けられるか」「どうすれば顧客が家で和菓子を楽しめるか」を素早く考えた。ここから生まれたのが近隣へのデリバリーであり、Webでの取り置き注文であり、Twitterでのプレゼントキャンペーンだった。
現在、船橋屋の従業員は250人(うち社員90人)。社内にトップダウンの風土はない。渡辺社長が目指してきたのは、人気漫画「ONE PIECE」に出てくる「麦わらの一味」だ。「麦わらの一味」はルフィが率いる海賊の組織だが、ほぼリーダーシップを発揮することはない。ルフィが掲げる目標に合意した個性豊かな仲間たちが、力を合わせて困難を乗り越えていく。
ルフィさながらの渡辺社長は、会社の方向性を示すだけだ。目下の目標は19年3月の中期経営計画で掲げた「くず餅 Re Birth宣言~発酵の力で日本を元気に~」。船橋屋は22年3月までに和菓子製造業から健康提案企業へと生まれ変わるという。人々を健康にする企業と捉えればやることは無限だ。
450日間、グルテンを取り除いて乳酸発酵させた船橋屋のくず餅は、和菓子で唯一の発酵食品とされる。健康効果に着目し、乳酸菌の研究所を設立すると、科学的データをベースに「くず餅乳酸菌」のサプリメントやくず餅乳酸菌入りの飲料を発売するなど、業界にイノベーションを起こしている。
「自分たちは何者かを認識することで、社員一人ひとりの意識と行動が大きく変わる。うちは土産物屋だから、では船橋屋は続かない。くず餅という多機能を持った商品をいろいろなところに展開しながら、お客様の健康と幸せに寄与するんだと皆が真剣に思っているからこそ、打つ手が変わってくる」(渡辺社長)。
自分たちの存在意義やビジョンを日ごろから伝えていたことが、コロナ禍という非常事態下でも社員の自発性につながった。
正しいかではなく「面白いか」
さらに船橋屋には、社員たちが行動しやすい価値基準がある。「面白いかどうか」だ。会議の議論も、何が正しいか正しくないかではなく、「どっちが面白いか」で進む。渡辺社長が質問するのは「それ面白い?」、社員にアドバイスするのも「こうしたら面白くない?」だ。
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