最新の第6巻で累計発行部数が800万部に到達した『SPY×FAMILY』(遠藤達哉著)。Web発の漫画として異例のヒットとなったのは連載先である集英社の漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」の成長によるところも大きい。前編に続くこの記事では、少年ジャンプ+のビジネスモデルに迫る。
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集英社では1968年創刊、翌69年に週刊化した「少年ジャンプ」を核に、「週刊ヤングジャンプ」「Vジャンプ」「ジャンプSQ.」など、対象読者層や作品内容を変えながら「ジャンプ」ブランドを展開してきた。2014年に配信を開始した「少年ジャンプ+」もその1つだ。
「ジャンプブランドの中で少年ジャンプ+の位置付けは“紙に対するデジタル”。デジタルの世界から大ヒットするオリジナル作品を出すのが目標」と細野修平編集長は話す。
出版業界の中でも、集英社のデジタルへの取り組みは早い。2012年に直営の電子書籍販売サービス「ジャンプBOOKストア!」を開始。米アマゾンが日本版のKindleストアをオープンしたよりも早い。
同サービスの経験で「デジタルにも数多くの顧客がいるということが分かった」と細野編集長。そこから、漫画を中心に動画やゲームなどデジタルコンテンツを幅広く扱うアプリ「ジャンプLIVE」をスタート。これが少年ジャンプ+の前身となった。
2016年以降、オリジナル作品が人気に
少年ジャンプ+の現在のダウンロード数は1700万超。収益の柱は、電子版「週刊少年ジャンプ」、電子版コミックス、1話単位で販売する「話配信」という3種のコンテンツの売り上げだ。「これ以外に広告収益もあるが、現状はさほど重視していない」(細野編集長)。
少年ジャンプ+創刊当初、売り上げをけん引したのは電子版の週刊少年ジャンプだ。これが読めるのは少年ジャンプ+だけ。同誌の掲載作が話題になると、少年ジャンプ+へのアクセスも増えた。
「最初のインパクトは『NARUTO-ナルト-』の最終回。掲載号の電子版購入を目的に訪れた新規読者が多かった」(細野編集長)。
細野編集長によると、紙・デジタルを問わず、「人気作の場合、最終回が掲載されている号だけを買う読者がとても多い」。連載を毎号読んでいなくても、SNSなどで話題になっているのを見て読んでみようと思う人、記念に買っておこうと思う人が多いからだという。このため、出版社も人気作の最終回が掲載される号は発行部数を増やして対応することもある。
ただ、「重版するにしても、紙の場合は市場に出るまで時間がかかる。その点、電子書籍なら店頭から姿を消した号もすぐに買える。『鬼滅の刃』の最終回を掲載した号も電子版は非常によく売れた」(細野編集長)。
このように電子版週刊少年ジャンプをエンジンに読者数を増やしてきた少年ジャンプ+だが、16年ごろからその状況に変化が見え始める。電子版コミックスや話配信の売り上げが伸びてきたのだ。
「少年ジャンプ+の読者を増やすためにテレビCMを打ったり、いくつもの細かな施策を行ったりした。でも、結果的に一番効果が高かったのは面白い作品が掲載されること」(細野編集長)。16年は「新連載春の陣」として4~5月の短期間に6本のオリジナル作品の連載を始めた。このうち、『ファイアパンチ』(藤本タツキ著)、『終末のハーレム』(LINK著/宵野コタロー著)、『彼方のアストラ』(篠原健太著)が人気作に成長。アクティブユーザーが一気に増えたという。
この流れは、前編で紹介した『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』(松本直也著)にもつながっていく。少年ジャンプ+の集客ポイントは「魅力的なオリジナル作品」へとシフトし、オリジナルの人気作が起爆剤となり、読者の増加が続くというパターンが定着した。
「とにかく読ませる」が離脱率を抑えるカギ
こうした作品の人気に火がつく瞬間、効果を発揮するのはやはりSNSなどの口コミだ。少年ジャンプ+の場合、アプリからだけでなく、Webブラウザーでも作品が読めること、アプリで読んでもWebで読んでも、面白ければすぐにシェアできることが、口コミが拡散しやすい要因だと細野編集長は分析する。
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