縮小するジュエリー市場にD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のビジネスモデルを取り入れ、これまでとは異なる“体験”を提供するのがHELICAL CHORD(ヘリカルコード、東京・渋谷)だ。予算やデザインで選ぶのではなく、ストーリーでものを選ぶことを提案し、高額ジュエリーの近寄り難いイメージを払拭するブランドを目指す。

ヘリカルコードCOO(最高執行責任者)/CMO(最高マーケティング責任者)の石津大介氏
ヘリカルコードCOO(最高執行責任者)/CMO(最高マーケティング責任者)の石津大介氏

 ヘリカルコードは、デザイナーのKang氏が2005年に創業したジュエリーブランド「Art of Inspiration」をリブランディングして、20年12月に誕生したブランドだ。同社はD2Cのビジネスモデルを採用し、店舗は顧客がブランドや商品に触れる場所、オンラインは購入する場所と切り分けている。仕掛け人はヘアケアブランド「ボタニスト」を展開するI-ne(アイエヌイー)で、当時マーケティング部門の統括部長を務めていた石津大介氏だ。石津氏は、大手企業が市場の大部分を占めていたシャンプー業界において、ボタニストを業界2位まで浮上させた経歴を持つ。リブランディングする前と比較して、すでに売り上げは9倍になっているという。

 同ブランドは「思い」と「ストーリー」を形にしたジュエリーを展開している。例えば「ADEVE(アデヴェ)」というシリーズでは、1つのダイヤモンドの原石を分け合って、それぞれのジュエリーを作成する。恋人同士で分け合うもよし、仲間や家族とシェアすることも可能だ。離れているときでも同じ思いをまとえるようにという思いが込められている。

 こうした商品個々のストーリーを顧客にしっかり伝えるため、同社が選択したのがD2Cのモデルだ。というのも、日用品など価格帯の低い消費財であれば、長くても数十分程度で購入までたどり着く。だが、一生に数回しか購入機会のない高額ジュエリーでは、「購入の意思決定までが長い分、購入前からじっくり時間をかけて顧客との関係をつくる必要がある」(石津氏)。そのため、体験型店舗、ECサイト、ブランドストーリーを伝えるコンシェルジュが三位一体になる仕組みを構築した。また、オンライン販売に絞ることで、顧客情報や顧客の声をテキスト化、データ化し、知見としてためることも可能になる。これが、リブランディング後の快進撃を生み出している。

本物を好きなだけ試せる体験型店舗

 新しいジュエリー体験の中核となるのが、東京・恵比寿にある店舗だ。ここでは、全22デザイン100アイテム、総額約1億円という本物のジュエリーの数々を手に取り、好きなだけ試すことができる。一般的なジュエリーショップと違い、商品は透明な鍵付きのケースに入っていない。まるで雑貨店のような気軽さで、顧客は店員に声をかけずともジュエリーを試せる異色の店舗といえる。

 「思いやストーリーを大事にしたブランドで、ジュエリー一つひとつにストーリーがある。デザインや予算だけでなく、ストーリーで選んでほしい」(石津氏)。そのため購買を促すような接客もしない。そればかりか、実は店舗には接客のスタッフを配置していない。オープン当初は、ブランドの説明のためコンシェルジュが店内にいたが、「店舗前を通りかかったお客様は、接客される、買わされると心理的に思ってしまうのか、なかなか店内に入ってもらえなかった」(石津氏)という。そこで現在は、併設のカフェスタッフしか店舗におらず、問い合わせがあったときのみコンシェルジュが対応するようにしている。

店内にあるジュエリーは、どれも試すことができる。透明ケースに入っていないので、店舗スタッフと話す必要がなく、自分のペースでジュエリーに触れることができる
店内にあるジュエリーは、どれも試すことができる。透明ケースに入っていないので、店舗スタッフと話す必要がなく、自分のペースでジュエリーに触れることができる

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