急速に人気が広がる米国発の音声SNSが「Clubhouse(クラブハウス)」だ。ビジネスパーソンから芸能人までもが熱狂し、一大ムーブメントになっている。何が魅力なのか、そして企業はどう活用すればよいのか――。noteの徳力基彦氏と「食べチョク」を運営するビビッドガーデン代表の秋元里奈氏、2人のClubhouseヘビーユーザーに聞いた。
2021年1月下旬から、日本にもブームが到来した「Clubhouse」。ルームと呼ばれる会話の部屋を誰もがモデレーターとなって立ち上げられ、参加者は好きなルームに入ってラジオ感覚で聞くことができる。また、手を挙げて話し手(スピーカー)に加わることも可能で、双方向のおしゃべりができるのが魅力だ。
芸能人がファンと交流をしたりするのに加え、既に企業活用も目立ち始めた。企業の“中の人”として同業他社と一緒に業界トークを繰り広げたり、広報チームが日常的なミーティングを公開したり、採用に関する説明会を開催したり、D2Cブランドの経営者が思いをファンに伝えたりと、模索が続いている。
そこで今回は、Clubhouseのヘビーユーザーである2人に直撃し、Clubhouseの魅力と企業活用の課題やコツを聞いた。1人は、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏。同氏は「Clubhouseに住んでいる」と公言するように、日々Clubhouseに入り、さまざまなルームでスピーカーやモデレーターを行う。もう1人は、生産者が個人や飲食店に“直接”商品を販売できるプラットフォーム「食べチョク」を運営するビビッドガーデン(東京・港)社長の秋元里奈氏。生産者と共に現場の実情や各地域の特性、旬の食材やおいしい食べ方などを語り合うルーム「農家漁師の井戸端会議 #食べチョクハウス」を毎日配信するなど、Clubhouseを活用したファンづくりを加速させている。
なぜClubhouseにハマったのでしょうか。面白さは?
徳力 基彦氏(以下、徳力氏) これは僕のためにあるサービスだと思いました。今はClubhouseに住んでいると言っても過言ではない。「おしゃべりSNS」と勝手に定義していますが、インターネット上で双方向に、不特定多数の人とおしゃべりできることが魅力的です。
秋元 里奈氏(以下、秋元氏) サービスに登録してからほぼ毎日利用しています。カフェで隣の人の会話が聞こえてくる感覚がいいなと思っています。目的意識があって対話に参加するというより、ふらっと立ち聞きするように楽しめるのが面白いですね。
私はClubhouseのルームを立ち上げて、⾷ベチョクの利用有無に関わらず全国の様々な生産者さんとおしゃべりしています。より多くの生産者の方とお話しできるよう、21年1月31日には、Clubhouseでの取り組みに関してプレスリリースを出しました。以前、生産者さんとお話しするリアルイベントを催したことがありますが、会場には農業に興味のある人しか来ないのが現状でした。ルームが開いているから聞いてみようといったハードルの低さで、生産者さん自身がふらっと参加できるだけでなく、さらに幅広い方に聞いてもらえるのは今までになかったですし、画期的だと思っています。
徳力氏 “おしゃべり”だったから、一気に皆が熱狂しているというのが僕の結論です。今までのネットでのコミュニケーションは、Twitterなどをはじめとしたテキストベースのサービスが主流だったので、文字を書くことが得意な人が強かった。その一方で、動画サービスも近年盛り上がっていますが、こちらは顔出しに抵抗がない人、芸能人など顔を出すことが仕事である人が得意とするプラットフォーム。両者は属するコミュニティーが全く違います。両方を視聴する人はいますが、どちらも発信している人はごく一部。それに対して、おしゃべりは多くの人にとって、なじみがあるものです。コロナ禍でおしゃべりに飢えている人が多かったということも、後押しになったのだと思います。
偶然の出会いを生むSNS
徳力氏 Clubhouseに住んでいるからこそ、仕事に役立つことは強調しておきたいですね。仕事というと、机に向かって資料をつくったり、作業したりをイメージしますが、実は何かに詳しい人に会ったり、共に仕事すべき人と対話して新しいアイデアが浮かんだりすることも、仕事の重要な要素だと個人的には思っています。
20年はコロナ禍でイベントも少なくなってしまったので、そういった出会いや雑談の“量”が大幅に減りました。今は、「#クラブハウス座談会」というランチ会を主催し、初めて会う人とも積極的に交流をしています。先日10人をスピーカーにしましたが、全員キャラがかぶらないですし、僕はどなたも存じ上げなかった。しゃべっていると向こうから来てくれるので、新しい出会いが生まれます。
ウェブサイトで検索するのではなく、ちょっと人だかりができているから寄ってみよう、知り合いが聞いているから面白いのかもといった、人間らしいセレンディピティーが生まれているのが、仕事にも生きそうだなという手応えを感じています。
秋元氏 セレンディピティーといった文脈でいうと、既にClubhouseをきっかけに新たに出品してくれた生産者さんもいます。始めて1週間くらいですが、10件ほどになります。
おしゃべりをすることで私や社内の人間の人柄を理解してもらえ、信用につながるのではないかと思っています。ある生産者さんから、Clubhouseの配信を聞いた後に、私のツイートを見ると私の声で脳内再生されると言われました。声に触れることで、親近感を持っていただけるのだと思います。
この記事は会員限定(無料)です。