見えない突起が泡を生む

 泡の秘密は、缶の内面に塗った塗料だ。ふたを開けたときの気圧差による自然発泡が、この塗料によってできたクレーター構造の凹凸によって増大し自然に泡が出る仕組みだ(下図)。通常の缶では発泡はほとんど起こらない。開発は塗料製造メーカーのトーヨーケム(東京・中央)と進めてきた。

缶の中は一見、つるんとして、アルミの色しか分からないが、塗料によってできた微細なクレーター状の突起により泡が発生する
缶の中は一見、つるんとして、アルミの色しか分からないが、塗料によってできた微細なクレーター状の突起により泡が発生する

一口が1.5倍量

 「通常のプルトップ缶に比べ、生ジョッキ缶は飲み口が広い。そのため、一口で口に入る流量が1.5倍と、飲みごたえや香りのインパクトが違う」と中島氏は付け加える。

 飲み口で気になるのは、安全面。生ジョッキ缶は全開する缶のふたの縁、缶の飲み口の両方に丸みをもたせて手や口が切れないダブルセーフティー構造をうたう(下図)。これはアルミの端を二重三重に丸めて接着することで実現した。

 従来の缶ビールには塗料を塗って焼き付ける工程はない。製缶のコストがかかるが、同じ価格で発売する予定だ。工場でビールを充填する際に泡が出るため、容量は通常の商品より10ミリリットル少ない340ミリリットルとなっている。

缶のふたや口の端を丸めて切れないように工夫したダブルセーフティー構造。取ったふたは缶の中に入れて廃棄するよう、缶に印刷して促し、環境面にも配慮
缶のふたや口の端を丸めて切れないように工夫したダブルセーフティー構造。取ったふたは缶の中に入れて廃棄するよう、缶に印刷して促し、環境面にも配慮

メインターゲットは20~30代

 「お酒文化をもっと広げていきたいという思いから、メインターゲットは今あまりビールを飲んでいない20~30代に据えている」と中島氏。

 同社が20年9月に実施した調査では、飲食店で飲むような生ビールを家で飲めない不満が大きいことも分かった。生ジョッキ缶は、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要や家飲み派を攻略する戦略商品でもある。「独自ブランドをつくることも考えたが、王道のスーパードライで出すことにした。ビールって面白い、ビールを飲むとコミュニケーションが生まれる、というビールが生む『ワクワク感』を生ジョッキ缶で知ってほしいし、スーパードライのもともとのコンセプトが“挑戦”だから」(中島氏)。

 中のビールはスーパードライと同じ。生ジョッキ缶は中身というよりも“体験”で勝負する商品であり、その体験価値を伝えるコミュニケーションが重要になる。そのため、広告宣伝は、デジタルを活用した情報発信にかなり投資する。21年4月の発売時に流すタレント起用のテレビCMに先駆け、3月からインスタグラムやツイッター、YouTubeで動画をアップする予定だ。

 動画では一般のユーザーに「ふたが全開すると泡が出て、広口でごくごく飲める」という生ジョッキ缶を実体験してもらい、商品の理解と共感を促す。

 「これまで味やパッケージで差異化する商品を手がけてきたが、ビールそのものの見た目が違う商品は、なかなかできなかった」。中島氏自身も初の“体験”型商品に期待を込めている。