1980年代から90年代にかけて、名だたるアーティストが出演したライブハウス「NISSIN POWER STATION(日清パワーステーション)」が「日清食品 POWER STATION[REBOOT]」として22年ぶりに復活した。なぜ今、“パワステ”復活なのか。「音楽特化・配信特化・無観客」をコンセプトに掲げた狙いとは何かを担当者に聞いた。背景にあるのは同社と音楽の深い結びつき、そしてコロナ禍で変わる企業と消費者のコミュニケーションのあり方だった。

「日清食品POWER STATION[REBOOT]」として復活。ステージにLEDフロアパネルと透過型LEDバックパネルを組み込み、ライブ中にさまざまな映像を映し出せるようにした
「日清食品POWER STATION[REBOOT]」として復活。ステージにLEDフロアパネルと透過型LEDバックパネルを組み込み、ライブ中にさまざまな映像を映し出せるようにした

 「日清食品 POWER STATION[REBOOT]」は日清食品東京本社地下2階にある異色のライブハウスだ。「音楽特化・配信特化・無観客」をコンセプトに掲げ、「日本初の配信型ライブハウス」と銘打った(関連記事「あの“日清パワステ”が22年ぶりに復活 音楽・配信・無観客で」)。

 その特徴はステージの設計にも明確に表れている。客席を必要としない分、ステージは広め。LEDフロアパネルと透過型LEDバックパネルを組み込み、ライブ中にさまざまな映像を映し出せるようにした。楽曲の歌詞や視聴者からのコメントなども投影できる。

オープン初日に出演した西川貴教氏。写真は本番前にメディア向けに公開されたリハーサルでの1枚
オープン初日に出演した西川貴教氏。写真は本番前にメディア向けに公開されたリハーサルでの1枚

 「REBOOT」とあるように、このライブハウスは1988~98年まで同地にあった「日清パワーステーション」(通称パワステ)を踏まえている。パワステは食事を楽しみながらライブを観覧できる「世界初のロッキンレストラン」を掲げてオープンした。

 本社の一角にライブハウスと聞くと奇異に思えるが、歴史をさかのぼればその認識は少し変わってくる。日清食品によると、パワステはもともと「『おいしい文化情報館』をコンセプトにした『FOODEUM(フーディアム)』という施設の一部だった」という。FOODEUMは、同社が1988年に竣工した東京本社ビルの愛称で、キッチン設備を備えた多目的ホールや食にまつわる文献を集めた図書館、中華やイタリアンなどのレストランも含まれていた。

 その中にライブハウスが入ったのは、「FOODEUM開業以前から経営層も含めて音楽との関わりや思い入れが深い会社だった」(日清食品ホールディングス広報部の松尾知直氏)からだ。確かに「カップヌードル」のテレビCMを例に取っても、「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸)、「翼の折れたエンジェル」(中村あゆみ)、「ff(フォルティシモ)」(ハウンドドッグ)など印象的な曲使いで話題を集めていた。そしてその流れは今現在も続いている。

 つまり、同社が食を語るうえで音楽は欠かせないものであり、その姿勢を具現化したのがパワステだったというわけだ。

withコロナの新事業として音楽配信に着目

 有名アーティストがライブを行い、人気を博したパワステだが、1998年6月に惜しまれながらもその幕を閉じた。以来22年、“パワステ跡地”は朝礼や社員研修などをするイベントホールとして社内行事を中心に利用されてきた。

 同社によると、その間にも何度か再オープンの話は出たことがあるという。そのたびに検討はしたものの、明治通りの拡幅で本社前の歩道が当時より狭くなり、来場者の待機する場所がないなど課題も多く、見送られてきたとのこと。

日清食品 POWER STATION[REBOOT]は、日清食品東京本社地下2階にある。2フロアの吹き抜け構造で天井が高い。ステージの昇降システムなどはなくしたが、基本的なフロア構造は1988年にオープンしたときと変わらない。床面には普段はスクリーンを保護するためのシートが敷かれている
日清食品 POWER STATION[REBOOT]は、日清食品東京本社地下2階にある。2フロアの吹き抜け構造で天井が高い。ステージの昇降システムなどはなくしたが、基本的なフロア構造は1988年にオープンしたときと変わらない。床面には普段はスクリーンを保護するためのシートが敷かれている

 それが今回、実現に至った背景には、コロナ禍に伴ういくつかの変化がある。

 大きいのは、withコロナ時代に合わせ、消費者とのコミュニケーションの再構築が必要になったことだ。日清食品グループは、全国の学校に一斉休校が要請された2020年2月ごろから在宅勤務に移行した。それと同時に、経営層からは「もはや社会はコロナ前の状態には戻らない。新しい時代を見据えて、ブランディングやマーケティング、消費者とのコミュニケーションなどを再構築せよ」という指示が出たのだという。

 日清食品ホールディングス宣伝部部長の米山慎一郎氏は、「スーパーでの買い物ひとつ取っても、店内に家族全員が入れないことも予想された。在宅時間が増えれば、テレビの視聴率にも影響があるだろう。そんな中で消費者とどうコミュニケーションを取るのか。今までの方法ではいかんともしがたいと認識していた」と話す。

 そんな中ヒントになったのが、ライブ動画配信の拡大と“投げ銭”システムの一般化に関するニュースだった。「音楽コンテンツの配信ならば、当社の企業文化とも親和性が高く、新しいコミュニケーションの形を生み出せるのではないか。投げ銭のような要素をうまく取り込めれば、事業化ができるかもしれない」(米山氏)。

 アイデアのバックボーンとなったのは昨今のネットコンテンツの隆盛だ。同社では近年、マーケティングの一環としてゲームやアニメ、VTuber(バーチャルYouTuber)などとコラボレーションしてきたが、どれも反応が非常によかったという。例えば、コラボ商品を同社ECサイトで販売すれば1万セットが即完売。イベントを開催すれば数万人を集客し、ネットでは事前からその話題が盛り上がる。「すごい時代になったなと思っていた」(米山氏)。

 音楽コンテンツの配信を模索する中で、パワステ跡地のホールを活用することも決まった。「在宅勤務が増えて、朝礼や社員研修もビデオ会議に置き換わっている。場所も空く」と米山氏。こうして配信拠点としての日清パワーステーション再開計画が動き出した。

日清食品ホールディングス宣伝部部長の米山慎一郎氏。「日清食品 POWER STATION[REBOOT]の計画が決まったのは6月。11月のオープンまで半年弱で設計や機材の搬入、配信システムも構築せねばならず、大変だった」と振り返る
日清食品ホールディングス宣伝部部長の米山慎一郎氏。「日清食品 POWER STATION[REBOOT]の計画が決まったのは6月。11月のオープンまで半年弱で設計や機材の搬入、配信システムも構築せねばならず、大変だった」と振り返る
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