東急ハンズがアバターを通じてリモート接客を行う新システムの実証実験を実施した。AI(人工知能)などは使わず、スタッフがバックヤードから接客するのは、豊富な商品知識や提案力が問われる同店ならでは。将来的には限られたスタッフで全国にある複数店舗の接客をしたり実演販売をしたりすることも検討する。
東急ハンズ新宿店の一角。商品と並んで店頭にはディスプレーをはめ込んだ特設ブースが設置されていた。ディスプレーの上にはウェブカメラとマイク、両サイドにはスピーカーが組み込まれている。これが東急ハンズが行った「アバター遠隔接客システム」実証実験の店頭風景だ。
取材当日、同システムで案内していたのは東急ハンズのPB(プライベートブランド)スキンケア商品「muqna(ムクナ)」だった。商品に興味を示した来店客が商品に近づくと、バックヤードにいるスタッフはウェブカメラの映像でそれを確認。ディスプレーに映るアバターの姿を通じて、来店客に商品をアピールする。客からの質問に答えたり、客の要望やニーズをくみ取って最適な商品を薦めたり、ノウハウについてのレクチャーも行う。
システムを開発したのはNTTデータ。アバターを活用して遠隔地から接客を行うシステムと聞くと、つい新型コロナウイルス感染症拡大の影響がきっかけかと考えがちだが、同システムは2018年から東急ハンズとNTTデータで進めていたプロジェクトなのだという。
「人口減少が進む社会状況で、働き手の数を確保すること、豊富で深い商品知識を持つスタッフによる高い接客レベルを維持することの厳しさが増している。限られた人数で複数の店舗に高いレベルのサービスを提供し続けるにはどうすればいいか。それをデジタルで解決できないかというのが導入の狙い」。そう語るのは、東急ハンズデジタル戦略部部長の本田浩一氏だ。
「将来的には無人販売を実現したいとも考えている。だが、一足飛びに店舗を作るのは難しい。そこで省人化と効率化を果たしながら、接客のクオリティーを維持できるアバター接客の可能性に目が向いた」(本田氏)
両社では20年6月から3回に分けて、アバター遠隔接客システムの実証実験を行ってきた。
まずは、東急ハンズ渋谷スクランブルスクエア店において20年6月1~15日まで第1弾の実験を実施。特設ブースを設置し、夏に向けたUV(紫外線)対策商品の案内をした。
続く第2弾は、10月16~11月15日の前半と11月16~12月15日の後半に分け、渋谷店、新宿店、池袋店、梅田店、博多店の3都市5店舗で行った。前半は前述のPBスキンケア商品の紹介。後半は実演販売専任スタッフによる加湿器の実演販売を行った。
NTTデータのITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部課長代理の星田愛氏によると、重視したのは顧客体験だ。第1弾の準備期間は2月半ばから4月までの1カ月半ほどだったが、「それ以前に、来店されたお客様にとってどんな体験がいちばん響くかという議論に時間をかけた。東急ハンズが取り扱う商品は膨大で、それらに関する深い商品知識を持つスタッフも数多くいる。その強みを生かすシステムを目指した」。
このため、NTTデータはアバター遠隔接客システムの仕組みだけを提供するのではなく、東急ハンズとともにシナリオ作りからディスプレー周りのしつらえ、運用まで共に開発を進めてきたのだという。
第1弾では本社インストラクターがアバターを操作
3期に分けた実証実験では、課題や取扱商品を変えながら検証を重ねた。
第1弾は顧客の反応やスタッフの負荷を検証することが主題。東新宿にある東急ハンズ本社と渋谷スクランブルスクエア店を1対1で結ぶ形で行った。
アバターは専用のアプリケーションをインストールしたパソコンから操作。店頭業務に負担をかけない配慮から、本社に勤務するスタッフがアバターの“中の人”を務めた。このスタッフは、店頭の美容専門スタッフに商品知識を教えるインストラクターだという。
このときはアバターという仕組みに対する来店客の反応や、店頭のスタッフが直接接客した事例との比較、そしてアバターが来店客とどれくらいの接点を持てるのかを検証したという。本田氏は「(アバターによる接客に)お客様は想像以上に違和感がないようだった。アバターのほうが気軽でいいというお客様もいるかもしれない」とその可能性を語る。
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