追いかけてくる「ゴースト」をかわしながらクッキーに見立てたドットをパクパク。黄色いキャラクターでおなじみのゲーム「パックマン」が2020年で誕生40周年を迎えた。日本はもちろん、欧米を中心に世界でも知名度が高く、有名ブランドとのコラボなども活発だ。21年は「Be PAC-TIVE!!」をテーマに、引き続きさまざまな企画を展開する。「欧米の認知度は9割超」というパックマンのIP戦略を、バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ライセンスプロダクション パックマンルームの布施優マネージャーに取材した。

バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ライセンスプロダクション パックマンルームの布施優マネージャー
バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ライセンスプロダクション パックマンルームの布施優マネージャー
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 バンダイナムコエンターテインメントは2020年12月18日、北米男子プロバスケットボールリーグ「NBA(National Basketball Association)」とのパートナーシップ締結を発表した。スマートフォン向けに配信するゲーム『PAC-MAN』でNBA仕様の「メイズ」(ゲームの舞台となる迷路)を配信するほか、ゲームやライセンス商品を共同で開発する。

NBAとパートナーシップを締結。今後、パックマン×NBAのコラボグッズが販売される予定
NBAとパートナーシップを締結。今後、パックマン×NBAのコラボグッズが販売される予定
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 この例に限らず、パックマンは近年、そのIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)を活用したライセンス事業が好調だ。バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ライセンスプロダクション パックマンルームの布施優マネージャーによると「この数年、パックマン関連の事業は緩やかな右肩上がり。急速な伸びもないが落ち込みもなく、成長し続けている」。1980年のゲーム誕生から40年、ゲームに次ぐビジネスの柱になったと言っていい。

 その代表例がアパレルとのコラボだ。2020年夏には、GUがパックマンのキャラクターやゲーム画面をモチーフにしたTシャツ、トートバッグ、スマホケースなどを商品化。日本はもちろん、韓国、台湾といったアジア地域でも展開し、好評だった。過去には、アダストリア(東京・渋谷)が運営する「niko and ... (ニコアンド)」や米国ブランド「コーチ」などともコラボ商品を発売している。

 20年10月には、米国、欧州に続き、日本でも始まった米アマゾンのオンデマンド・プリント・サービス「Merch by Amazon」(マーチ バイ アマゾン)に参入した。これはあらかじめ用意されたデザインをユーザーが選んで注文すると、アマゾンで商品にプリントして発送するというもの。バンダイナムコエンターテインメントは、パックマンをモチーフにした200以上のデザインを用意し、パーカーやTシャツなどを販売している。事業としてはまだ始まったばかりだが、布施氏は「ライセンスビジネスとして大きな一歩」とその意味を語る。

「Merch by Amazon」で販売しているパックマンのアパレル商品
「Merch by Amazon」で販売しているパックマンのアパレル商品
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ゲームを知らない層に受けるデザイン

 ただ、これだけを説明しても「今さら」と感じる人もいるかもしれない。パックマンのライセンスビジネス自体は特に新しいものではない。その原点は1980年代に遡る。アミューズメント施設向けのアーケードゲームとして誕生したパックマンは、世界中でヒット。米国では「パックマンフィーバー」と呼ばれるブームを起こし、その人気はグッズにも飛び火した。

 ただ今が当時と違うのは、パックマングッズを購入する人が必ずしもゲームのファンではないということだ。「ゲームを一度もプレーしたことがない世代が、デザインがかわいいからと買い求めるケースが多いと聞いている」(布施氏)。ゲームのファングッズを脱し、キャラクタービジネスとして独り立ちした形だ。

 冒頭に挙げたNBAのように、パックマンが他の企業・団体の広告やプロモーション施策に起用されるケースが増えているのもその証左だろう。例えば、ドイツBMWの日本法人ビー・エム・ダブリュー(東京・千代田)は「ニューBMW 2シリーズ グラン クーペ」の広告にパックマンを採用した。「GAME CHANGER ジョウシキなんて、ひっくり返せ。」をキャッチコピーに、20年3月からテレビCMの放映などをしている。

 米国の重機メーカーであるキャタピラーも同社のコンセプト動画でパックマンとコラボ。土塀で再現したメイズをパックマンやゴーストに見立てた重機に走らせ、その性能や技術をアピールした。

パックマンとコラボした「ニューBMW 2シリーズ グラン クーペ」の広告
パックマンとコラボした「ニューBMW 2シリーズ グラン クーペ」の広告

認知度9割超を維持するIP戦略

 こうしたビジネスを支えるのが、パックマンの高い知名度だ。「当社独自の調査ではパックマンの認知度は北米や欧州で9割以上、米国では98%に至る」(布施氏)。

 誕生から40年がたち、ともすれば古くなりがちなIPを同社はどのように維持してきたのか。布施氏は「時代とともにある場所を変えながらユーザーと接点を持ち続けてきた」とパックマンの歩みを振り返る。

 核にあるのはやはりゲームだ。前述のように、パックマンは1980年にアーケードゲームとしてスタートした。アミューズメント施設が「ゲームセンター」と呼ばれていた時代。「来店客のほとんどが男性という中で、もっと女性やカップルにも気軽に来てほしいという思いを込めてナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)が開発した」(布施氏)。シューティングゲームやレースゲームが多い中、「食べる」がコンセプトのゲームはユニークな存在だった。

1980年に誕生した「パックマン」。2005年には「最も成功した業務用ゲーム機」としてギネス記録に認定された
1980年に誕生した「パックマン」。2005年には「最も成功した業務用ゲーム機」としてギネス記録に認定された
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 その後、家庭用ゲーム機にも進出。任天堂のファミリーコンピュータを皮切りに、スーパーファミコン、PlayStation、Wii、Nintendo Switchなど、技術の進化やゲームプラットフォームの移り変わりに合わせてタイトルを断続的に投入している。近年は、スマホ向けのモバイルゲームやPCゲーム、米グーグルの「Stadia」などクラウドゲーム向けのタイトルにも積極的だ。

Nintendo Switch向けのタイトル『PAC-MAN CHAMPIONSHIP EDITION 2 PLUS』
Nintendo Switch向けのタイトル『PAC-MAN CHAMPIONSHIP EDITION 2 PLUS』
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 例えば、スマホ向けには世界で2.2億ダウンロードを記録している定番の『PAC-MAN』、4人対戦ができる『PAC-MAN Party Royale』など4タイトルを配信している。「モバイルは常に(新規ユーザーに向けた)パックマンへの入り口」(布施氏)との位置づけだ。

 20年10月にはGoogleマップのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使った地理情報ゲーム『PAC-MAN GEO』の配信も開始した。世界各地の実在の街並みをパックマンの「メイズ」にしてプレーできるというもの。パリの凱旋門やニューヨークのタイムズスクエアといった世界的観光地から自宅近くのエリアまで、好きな場所をメイズに選んでプレーしたりそれを他のユーザーにシェアしたりできる。あらかじめ設定されたメイズをプレーして他のプレーヤーと点数を競うことも可能だ。「これはパックマンの新しいチャレンジ。オリジナルのゲームになじんだ人は『これがパックマン?』と不思議に思うかもしれないが、新しい遊び方として提案したい」(布施氏)。

人気を支えるIP戦略、3つの軸

 ライセンスビジネスも含めたIP展開では、「レトロ」「クール」「ファミリー」の3つのセグメントに分けたマーケティング戦略を展開する。

 レトロは、スタンダードなパックマンの流れをくむもの。アーケードゲームからパックマンを知った層が主なターゲットとなる。例えば、米Tastemakersが20年5月以降、北米を皮切りに世界各国で順次発売する「Arcade 1 Up」特別バージョンがその1つ。Arcade 1 Upはアーケードゲームの筐体(きょうたい)を4分の3サイズで再現したゲーム機で、18年に発売されヒットした。今回発売するのは、それのパックマン40周年記念モデルだ。

「Arcade 1 Up」のパックマン40周年記念特別バージョン
「Arcade 1 Up」のパックマン40周年記念特別バージョン
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 一方のクールは、オリジナルのパックマンを知らない10代後半や20代、30代を主なターゲットとしている。ゲームをプレーしたことがなくてもキャラクターとして「かわいい」「かっこいい」と関心を持つ層を取り込む考えだ。

 そのためには「パックマンのもともとのデザインを多少崩してもいい」と布施氏。前述のアパレルコラボやNBA、BMWとのコラボレーションはその好例だ。実際、ニューBMW 2シリーズ グラン クーペの広告では、パックマンのボディーカラーを本来の黄色から同車のイメージに合わせたブルーに変更した。

 最後のファミリーは文字通り家族向け。実は、任天堂の人気ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(スマブラ)に登場することもあって、パックマンは小学生以下にも浸透している。「僕も子供から、算数の授業で角度の勉強をしたときにパックマンの話が出たという話を聞いた」と布施氏。こうした層に向けて、親子で楽しめるパックマン関連商品を出していくのが命題だ。

「パックマンが日常に溶け込んでいる世界をつくりたい」という布施氏
「パックマンが日常に溶け込んでいる世界をつくりたい」という布施氏
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 この戦略に基づいて社内外のプロジェクトを活性化するため、20年にパックマン40周年のスタイルガイドを作成し、グループ会社や関係企業に配る取り組みもした。

 スタイルガイドとは、パックマンがモチーフのデザインをまとめた絵素材集。その狙いについて、「パックマンはシンプルなキャラクターのため、どうしてもデザインが似てしまう。そこで、IPホルダーである当社から『こういうのもありですよ』と大胆にアレンジした絵素材集を提案することで、デザインの幅を広げたかった」と布施氏。スタイルガイドのデザインをきっかけに、ライセンシーなどからより斬新な提案が生まれることを期待しているという。

 さらに、このスタイルガイドは同社が持つ米国、欧州、中国の販売会社にも展開する。「パックマンのライセンスビジネスは、8~9割が海外の売り上げ。海外のライセンスチームとの連携はビジネスを拡大する上で欠かせないからだ」(布施氏)。

 ただし、各国の販売会社には日本の感性を押しつけるつもりはないと布施氏は強調する。「重要なのは現地のカルチャーに根差したデザインであること。例えば、中国の春節向けなら赤い提灯(ちょうちん)をモチーフにしたパックマンがあってもいい。アイデアをどんどん広げてほしいと伝えている」と言う。

スタイルガイドに含まれた絵素材の例。思い切ったアレンジも採用している
スタイルガイドに含まれた絵素材の例。思い切ったアレンジも採用している
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 パックマンが目指す未来について、布施氏は「パックマンが日常に溶け込んでいる世界」と表現した。手元にあるのがどんなゲームプラットフォームだろうと、必ずパックマンが遊べる環境にあること。街を歩けばパックマンの商品をどこかしらで見かけること。テレビやネットではパックマンが登場する映像やCMが目に入ること。それらが実現した世界だという。「そのためには、テクノロジーの進化に合わせたゲーム開発はもちろん、ライセンスビジネスや広告許諾もますます拡大していきたい。40周年を超えたこの先、まだまだチャンスはあると思っている」と結びの言葉に力を込めた。

(写真/志田彩香、写真提供/バンダイナムコエンターテインメント)