「焼肉きんぐ」など複数の業態を展開し、店舗運営のDX化を推進する物語コーポレーション。コロナ禍で飲食業界が打撃を受ける中、2020年6月には売上高が前年比プラスになるなど復調著しい。アプリや会員メールを駆使し、紙のチラシに頼っていた販促策からの脱却を目指す同社のDX戦略に迫る。

物語コーポレーションは、「焼肉きんぐ」をはじめ多数の業態を全国で展開。グループ売上高は約900億円(2020年6月期)で、20年11月30日現在、国内545店舗(うち直営322店舗、FC223店舗)、海外11店舗を出店している
物語コーポレーションは、「焼肉きんぐ」をはじめ多数の業態を全国で展開。グループ売上高は約900億円(2020年6月期)で、20年11月30日現在、国内545店舗(うち直営322店舗、FC223店舗)、海外11店舗を出店している

 2020年4月、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、政府が緊急事態宣言を発出。主要都府県で休業要請が行われる中、「焼肉きんぐ」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵(以下、ゆず庵)」「丸源ラーメン」「お好み焼本舗」などを展開する物語コーポレーションは、同4月7日から5月10日まで、直営店舗の一時休業に踏み切った。

 4月の売上高は全業態合計で前年比29.6%と大きく沈んだ。だが、営業再開後は売り上げが急速に回復し、6月には前年比102.3%と早くもプラスに転じた。「再開後も影響は大きく残ると思っていたが、想定以上に顧客や売り上げの戻りが早かった」と、物語コーポレーション開発企画・デジタルマーケティング部 部長の古堅博文氏は話す。その後、7月は同109.1%、8月は新型コロナウイルス感染症拡大の第2波の影響もあり同97.8%と微減となったが、9月は再び同104.5%と好調に推移する。

 こうした急回復を遂げている同社が近年力を入れ、特に20年4月から本格的に取り組んでいるのが販促のDX(デジタルトランスフォーメーション)化だ。従来、販促施策といえば、新聞の折り込みチラシを店舗周辺に配布したり、来店客に再来店を促すために紙のクーポンを渡したりするのが飲食店の定石。同社もこのアナログな手法による集客を得意としていた。しかし、「新聞を取る世帯が減りつつあり、折り込みといった紙のチラシに頼る販促だけでは先細りが明らか。そこで、軸足をデジタル施策にシフトする戦略を進めてきた」(古堅氏)。

 まず、全業態共通で強化しているのが、SNSや情報発信を通じたPR戦略だ。SNS上では、各業態の公式アカウントの他、YouTuberを中心とするインフルエンサーを活用した情報の拡散にも力を注ぐ。「フォロワー数が多いYouTuberに当社から依頼することもあれば、逆に取材を申し込まれるケースもある。いずれも当社のSNS担当が店での撮影を含めて全面的に協力している」(古堅氏)という。20年11月だけでもYouTuberによる動画配信は約20本に及び、認知効果は絶大だ。

焼肉きんぐは、タッチパネルを使って注文すると、すべてテーブルまで運んでくるテーブルオーダーバイキング形式の食べ放題店。店員が肉の焼き方を指導する「焼肉ポリス」として各テーブルを回る独自サービスも人気(写真は新型コロナウイルス感染症の拡大前のもの。現在、スタッフはマスクを着用して接客している)
焼肉きんぐは、タッチパネルを使って注文すると、すべてテーブルまで運んでくるテーブルオーダーバイキング形式の食べ放題店。店員が肉の焼き方を指導する「焼肉ポリス」として各テーブルを回る独自サービスも人気(写真は新型コロナウイルス感染症の拡大前のもの。現在、スタッフはマスクを着用して接客している)

 また、同社のPR戦略でもう1つの意外な特徴は、プレスリリースを積極的に打つこと。

 プレスリリースはメディア関係者が情報収集のために閲覧するものと捉えられがちだが、実はネットメディアを中心に内容がそのまま転載されることも多く、それを見た個人がSNSに投稿するといった循環もある。特に最近は情報拡散につながるケースが多く見られ、同社の全業態合計のプレスリリース数は、9月13本、10月14本と、ほぼ同じであるのに、メディアへの転載数は9月の709件に対し、10月は2086件と激増している。「今後、頻度、内容も含めて検証を重ね、さらにプレスリリースの発信を活発化させていく」(古堅氏)。