車いすに乗っていても、高齢でも、公共交通をスムーズに乗り継いで、行きたい場所にいつでも行ける。「誰もが移動を諦めない世界」の構築を目指すUniversal MaaS(以下、ユニバーサルMaaS)の輪が広がっている。コロナ禍の中、このプロジェクトに賛同するパートナー企業は前年の3倍以上に増え、道しるべとなるアプリの使い勝手も向上した。

「足踏みしているわけにはいかない」
新型コロナウイルスの感染拡大により、人の往来は激減した。しかし、移動せずに暮らすことは困難を伴う。
「物理的な治療やリハビリなど、どうしても移動を自粛できない方は、たくさんいる。そんな方々のためにも、私たちは、足踏みしているわけにはいかなかった」。コロナ禍に見舞われた2020年を、全日本空輸(ANA)MaaS推進部の大澤信陽(のぶあき)氏はこう振り返った。
ANAと京浜急行電鉄(京急電鉄)、神奈川県横須賀市、横浜国立大学が取り組む「ユニバーサルMaaS」は、ユニバーサルデザインとMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を掛け合わせた言葉。複数の交通手段を組み合わせ、スマホ1つで検索、予約、決済できるMaaSを、誰もが気軽に体験できるようにするのが目標だ。
そのために2種類のアプリを開発した。車いす利用者向けの「ユニバーサルお出かけアプリ」と、事業者向けの「ユニバーサルサポートアプリ」である。
「なんちゃってプロトタイプ」から脱皮
お出かけアプリでは、バリアフリー対応の乗り継ぎルートや、交通機関の運行情報などを映し出す。全国の車いす利用者の投稿を基にしたバリアフリーマップ「WheeLog!(ウィーログ)」と連携し、ウィーログを介して収集した車いすの走行ログや、バリアフリースポットの情報がリアルタイムで反映される仕組みだ。
一方のサポートアプリは、車いす利用者が今どこにいるのか、どんな介助が必要なのか、どんなルートで移動するのかといった情報を本人の許諾を得た上で、事業者間で共有する。車いす利用者が接近すれば通知が届く機能があるため、行く先々で切れ目なく介助の手を差し伸べられる。この2つのアプリを組み合わせることで、体が不自由であってもドアツードアで目的地までたどり着ける社会を切り開く。
実は同様のアプリは、19年度にも開発していた(関連記事「ANA×京急「ユニバーサルMaaS」とは? もう移動を諦めない」)。しかし、大澤氏いわく当時は「なんちゃってプロトタイプ」だったという。
「とにかくスピード感を重視して、あったらいいよねという機能を盛り込んでいったので、張りぼてのようなところがあった」
例えば、車いす利用者向けアプリで案内できたのは京急線内で3駅、空港は羽田のみだった。それが最新版では泉岳寺駅を含む京急線の全73駅、ANAが就航する全国各地の空港に対応。特に大きく進化したのは、自分に合ったルートを選べるようになった点にある。
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