特別な人しかリーダーになれない。そう思っている人は少なくないだろう。だが答えは「否」だ。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させたマーケター・戦略家の森岡毅氏は、「リーダーシップは誰にでも身につけられる後天的なスキル」と断言する。2020年12月14日に発売される森岡氏の最新刊『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP)から「はじめに」の前半部分を公開する。

 “リーダーシップ”の身につけ方をこのタイミングで発信しようと思ったきっかけ、それは、この時代が見通しのきかない未曾有の“コロナ災厄”になったことです。

 多くの人が「この先どうなるのだろう?」と今まで以上に不安に駆られていると思います。しかし本当の未来は、定まった“運命”のようなものではなく、先を見通して受け身で我慢するようなものでもありません。「自分が何を欲するのか?」という主役感で創っていくものです。自分の意志と選択次第で未来はいかようにも変わります。だから私は、皆さんに今こそ必要な“武器”を配りたい。その“武器”はコロナに関係なく、皆さんの充実した未来を切り拓くはずです。

 最初に考えていただきたいことがあります。「特別な人しかリーダーになれない」という子供の頃から刷り込まれた思い込みは、大人になっても多くの人の中にあるのではないでしょうか? 本書は、その思い込みから目を覚まして、自分の中で“主役感あふれる毎日”を手に入れる方法を私なりに考えてまとめたものです。

森岡 毅 氏
株式会社刀 代表取締役CEO

戦略家・マーケター。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、僅か数年で劇的に経営再建した。

1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、1996年P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、2004年P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍、北米パンテーンのブランドマネージャー、ヘアケアカテゴリー アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表を経て、2010年にUSJ入社。2012年、同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員、マーケティング本部長。USJ再建の使命完了後、2017年、マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立。「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進。刀の精鋭チームを率いて、USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。また、破綻した旧グリーンピア三木(現ネスタリゾート神戸)を僅か1年でV字回復させるなど、早くも抜群の実績を上げている。

 私は、10代の頃からいわゆるRPG(「ドラゴンクエスト」のようなロールプレイングゲーム)をずいぶんとやってきました。多くのRPGのテンプレになっているのは、勇者、戦士、僧侶、そして魔法使いの4人構成です。それぞれに役割があって、戦士は物理攻撃と防御に突出したパーティーの盾、僧侶は仲間を死なせないための回復魔法の専門職、魔法使いは虚弱ですが攻撃呪文で派手に敵を殲滅(せんめつ)します。で、問題は“勇者”なのですが、特異な運命を背負って生まれた物語の主人公で、万能型の能力を持ち、そしていつもリーダーです。

 でも、私自身は得意と不得意にメリハリ!? のついた凸凹タイプなので、何でもできる“万能型”は羨ましいというか、ちょっとムカつくというか、自身のアバターとしてはあまり共感できませんでした。どこかに尖った専門職の方が感情移入できるので、「なんで僧侶が主人公やリーダーじゃいけないの…?」といつも疑問に思っていたのです。今ならそれが商業的に正しいと理解できます(笑)。でも、この疑問は、今この本を書いている動機に底辺で繋がっている気がするのです。

 何か特殊な運命や能力、“特別な人”だけが「リーダー」になっていくのだという刷り込み…。私自身もそのように子供時代から何度となく刷り込まれてきました。読者の皆さんも、知らず知らずのうちに何となくそういうものだと思ってしまっているのではないでしょうか? だって、伝記などで目にしたり聞いたりする「リーダー」は、どう考えても身近な人間に思えないですからね。我々は自分とはあまりに違う特殊な人ばかりをリーダーとして“学習”してきたのです。

 物語でも、ハリー・ポッターは生き残った“運命の子”ですし、アーサー王しかエクスカリバー(剣)は抜けないわけです。歴史的人物を見ても、例えば織田信長のような人物は、その出自も性格も能力も異常としか思えない。近現代の立志伝中の人物も、例えば松下幸之助の伝承は素晴らしすぎて、本当だろうかと疑うほど、自分が真似できそうとはとても思えないのです。

 でも、現実をよく考えると、そんな雲の上の話だけではなく、実に身近なところにリーダーシップが必要なシーンがゴロゴロ溢(あふ)れていることに気がつきます。人間は、群れをつくって生活することを好む社会性動物です。人が何人か集まってグループで行動すると、その中に自然な流れとして“みんなをまとめて指示を出す人”が現れます。職場にはもちろんいますし、家族で集まっても、他愛のない仲間の集まりであっても、選挙やジャンケンで決めたわけでなくとも、そうなっていきます。なぜなら、そうやって誰かが総意をまとめないとグループ全員で不幸になるから。リーダーシップが求められるのは、グループのより良い存続のためにその“機能”がどうしても必要だからです。

 リーダーシップの機能を端的に言うと、共同体のために「人を動かすこと」です。グループ全体としてベストに近づくように人々を動かす力。相手に影響力を行使して、その人を動かして共同体の目的を達成する確率を高める力。そしてその能力は、特別な運命や能力を背負った“勇者”でなくても、僧侶でも魔法使いでも、魔法が使えない戦士でも「言葉」さえ使えれば発揮できるはずです。

 実は、リーダーシップは、専門性に限定されず、本来は誰もが発揮することができる「職能横断型」のスキルです。だから、リーダーシップを強くしていくことで、あらゆる職業の人が、それぞれの組織の中でもっと輝くようになります。そして、誰もが主体性を持って充実した毎日を送るために、自分のやりたいことを実現していくために、周囲の人をまとめて動かす能力、つまりリーダーシップを必要としているのです。

 では、どうすればもっと人を動かせるようになるのでしょうか? どうすれば我々はより強いリーダーシップを身につけられるのか? 本書はそれらについて私の考えをまとめたものです。

“ある経験”を積むことによって、誰もがリーダーシップ能力を意識的に伸ばすことができる

 リーダーシップを執れるかどうかは、要するに自分が一歩前に出る勇気を持てるかどうか、つまり“荒馬に乗れるか?”ということです。落馬して大怪我(けが)するかもしれない馬を目の前にして「それでも乗りたいか? 乗れるのか!?」と自問自答をしているようなものです。荒馬に一度乗ってしまうと、振り落とされそうになりながらも、その状況を必死にコントロールして自分の目的地に何とか辿(たど)り着かねばなりません。瞬時の決断力と行動力が必要で、その判断を支えるブレない信念が大切です。そして信念がブレないのは、どうしても成し遂げたいことへの強い欲求があるからです。

 実は、リーダーシップの強弱は、“才能”よりも、その土台となっている“欲の強さ”で決まっています。その人が、どうしても成し遂げたいことがあるかどうかが、すべての始まりであり、何よりも大切なのです。何が何でも成し遂げたいならば、考えるし、工夫するし、行動します。リーダーシップが身につけられるかどうかの分岐点は、成し遂げたいことを見つけられるか?に、ほとんど懸かっているのです。

 いやいや、やはり才能だと思われる人もいるでしょう。欲の強さでさえも才能の一つだと…。

 しかし、どんな才能も、その強弱で人々を並べると正規分布しています。才能のバラつきには個人差があるといっても、社会全体としてはなだらかな山型の分散になっていて、一人一人の差異は“連続”しているはず。人間である以上は、ほとんどの人が1標準偏差以内の差、つまり一定の幅に収まっているはずです。馬やチーターとあなたの足の速さを比較するのとは違います。同じ人間同士を比べるのに、差があるといっても、そんな2標準偏差や3標準偏差を飛び越えるような圧倒的な差なんて滅多(めった)になくて、ほとんどの人の才能は、実は“だいたい同じ”ということです。

 そして、私が何よりも確信を持って言いたいのは、他人と比べて才能があるかないかを考えるなんて、自分自身にとっては時間の無駄というか、そんなことを考えて何の意味があるの!? という、実にくだらない、全く意味がないということです。天才のように見える人がいたとして、あるいは自分よりも才能がなさそうに見える人がいたとして、その人と比べて自分の才能の有無を推し量るなんて、その結果から一体どんな前向きな行動が取れるのでしょうか? 相手が上? 自分が上? で!? だからどうするのでしょうか!? まさに愚問中の愚問でしょう。

 その愚問の構図は、ダイエットで例えればわかりやすいかもしれません。敢(あ)えて比較してみると、確かに、太りやすい体質、痩せやすい体質、生活習慣、個人差は色々あるでしょう。しかし、他人と比べて自分がどのくらい痩せやすいかをどれだけ考えても1gも痩せませんよね? それよりも、“自分が”どれだけ本気でダイエットを成し遂げたいのか、それをどれだけ自分が強く欲するか?です。その覚悟を固める自分自身の中の精神的な戦いに集中すべきでしょう。だって、どんな個人差があろうとも、シンプルな1つの法則(ダイエットの場合は、摂取カロリーを消費カロリーが上回れば誰でも痩せる)を満たせばよいだけなのです。他人は全く関係ありません。人と比べている暇があったらさっさと運動の一つでもやりましょうという話。それと同じです。

 リーダーシップを身につけるのにもシンプルな法則があります。それはある“特定の経験を積むこと”です。そのためには、リーダーシップを獲得するための原点である「欲」を強く持たねばならない。まずは本人が痩せたいと強く願わない限り全く成功しないダイエットと、その点でも同じなのです。要するに、自分にとって「やりたいこと」を、どうすれば周囲を巻き込んで、自分が望むカタチへ自分の景色を変えていけるか?ということ。そこにどれだけ執着できるのか?ということです。

 もしもそんな「やりたいこと」がなくても「自分の人生はそれでいいねん」と言う人がいれば、それはそれで全く問題はないと思います。それはその人自身が決める問題です。しかし、欲のない人はどうすればよいのか?という問いかけにも本書は全力で応えます。本編で詳述しますが、端的に言うと、欲のない人はいません。しかし、それを意識できている明瞭さには個人差があるという話です。

 強いリーダーシップ能力の獲得は、目的ではなくてあくまで手段にすぎないはずです。その能力を身につけてあなたは何を達成したいのか? まずは、その目的(≒欲)を明瞭にすることが大事です。そして、この本を手に取っている以上、あなたにも何らかの欲が必ずあるということ。それは、間違いありません。そんなあなたには、じっくりと自分自身を内省することで「何を欲するか」を明瞭にしていく作業が必要でしょう。身近なこと、自分にとっては大事なこと、そんな中からどんな小さなことでもよいので「やりたいこと」を探すことから始まります。

 大丈夫です。その答えは、あなたの中にあります。その最初の一歩を踏み出せるかどうか、すべてはそこから変わります。

 私は今まで、国籍や人種の多様性を含めて、実に多くの人々をビジネスの最前線で見てきました。そして私自身も含めて、多くのビジネスパーソンが苦労し、大きく成長・変容しながら、リーダーシップを獲得していく様子をまざまざと見てきました。それらの観察から言えることは、現在は強力なリーダーシップを発揮しているビジネスパーソンでも、その多くが社会人になった当初は、今からは程遠い低レベルであったという事実です。したがって、私は、リーダーシップは育つものだと確信しています。生まれ持った「特徴」に、必要な「経験」と、適した「環境」が合わさると、誰であってもその能力は劇的に成長します。

 本書を執筆している目的は、私がこれまでに知り得た、リーダーシップを意図的に伸ばしていくための王道をお伝えすることです。

 リーダーシップとは何か?について定義づけた書籍はごまんとありますが、自分がどうやってリーダーシップを身につけていけばよいのか? その道筋を明瞭に示した書籍は非常に少ないです。また、学者や批評家の皆さんがリーダーシップを客観的に論評した書籍もごまんとありますが、壮絶な火中で実際に苦心を積み上げてきた実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)です。さらにその両方の掛け算に耐えられるものとなると、私には見つけることができませんでした。本書の着眼点はそこにあります。

 リーダーシップが求められる実際の現場では、理論書に書いてあるような理想的なリーダーシップ行動を頭では正しく“わかっている”としても、それに沿った“正しい”行動を取ることは、別次元に大きなチャレンジになります。さまざまな制約条件としがらみの中で、不確かな情報しかなくて判断自体を迷う自分自身の精神状態の中で、常に暴れる感情と戦いながら目的のために正しい決断と行動を連続していくことは、“奇跡”です。その実践者しかわからない成長過程における苦しみと葛藤の“手触り”を追体験していただくことも本書の狙いです。

森岡毅氏が断言「リーダーシップは誰もが身につけられるスキル」(画像)

USJをV字回復させた日本を代表するマーケター、森岡毅氏の新刊書籍『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP)が、2020年12月14日に発売になります。コロナ禍の今こそ必要なのは、人を活かし、自分の意志で未来を変えるための「リーダーシップ」。この「最強スキル」を獲得するためのノウハウを詰め込みました。著者自身は、どうやって苦しみながらリーダーシップを身につけたのか。エピソードを交えて語り尽くします。

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森岡毅氏が断言「リーダーシップは誰もが身につけられるスキル」(画像)

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