サントリーの緑茶飲料「伊右衛門」は2020年4月、大規模なリニューアルを行い、売り上げを伸ばしている。20年9月に日本パッケージデザイン協会が主催する「日本パッケージデザイン大賞2021」の最高賞となる「大賞」も受賞。伊右衛門のパッケージデザインのアートディレクションを担当したサントリーコミュニケーションズの西川圭氏に、デザイン開発の経緯について聞いた。

西川 圭(にしかわ けい)氏
サントリーコミュニケーションズ
デザイン部 デザインディレクター

多摩美術大学造形表現学部デザイン学科卒業後、中垣信夫氏のデザイン事務所にてエディトリアルデザイン、ミームデザイン学校の運営に従事。2009年サントリーホールディングス入社。「伊右衛門」ブランドや「GREEN DA・KA・RA」ブランド、ウイスキー「響」の展開品など、清涼飲料から酒類まで様々な商品デザインに携わっている

数量限定でコンビニなどで販売したラベルレスの伊右衛門が注目を集めました。今回のリニューアルは、ラベルレスにすることを前提に始まったのですか。

ラベルレスでの販売は、リニューアルの開発途中で決まりました。リニューアルで目指したのは、当初から「淹れ立てのお茶」の価値を改めて伝えること。その方法として、緑茶の色に着眼していました。

 ただ、伊右衛門らしい味わいを美しい緑茶の色で仕立てるのが難しい。以前から研究は行われていて、それがようやく実現できたんです。そこで、緑茶の色をリニューアル商品の一番の「売り」にすることが決定し、ラベルを剥がして緑茶の色も楽しんでもらうという飲み方の提案や、キャンペーンとしてラベルレスで販売する企画などが生まれました。

ペットボトルの形状を、伊右衛門ブランドの象徴でもあった竹筒型から四角形に変更しましたね。

形状を変えた一番の理由は、「伊右衛門が新しくなった」ことを明快に伝えるためです。実は17年のリニューアルのとき、竹筒型のペットボトルの形状を見直し、無駄をそぎ落とした形状に変更しました。しかし、売れ行きは芳しくなかった。その理由は、リニューアルしたことに気づいてもらえなかったからです。ブランドの進化とは、核となる部分をシャープにしていくことだと思っていたのですが、それはブランドやデザイナー本位なんだと痛感しました。そこで今回は、現代にふさわしいペットボトル入りの緑茶とは何か、改めて考えることから始めました。

 丸みを帯びた四角い形状は、茶室の「空虚さ」から着想しました。開発期間中、何度も読んだ芸術思想家の岡倉天心の著書『茶の本』に、「茶室は空虚な空間である」という一節があり「主人の美意識や客人へのもてなしの心で、その場限りの時間を満たすことができる」と解釈し、そのことにとても共鳴しました。

 緑茶にはカテキンやカフェインといった成分が含まれているので、気分転換になったり、ホッとできたりしますよね。また、オフィシャルな場にも持参しやすく、飲むシーンを限定しない。ペットボトル入りの緑茶は、いろいろな用途に対応できる便利さが価値の一つです。そんなペットボトル入りの緑茶も空虚な存在になれたら面白いし、なれる可能性があると思いました。

 それと並行して、用途を限定しないプロダクトや空間とは何か考えてみました。そのとき思い浮かんだのが、スマートフォンです。人それぞれの使い方があり、丸みのある優しい四角形でストレスも感じにくい。それをヒントに、ペットボトルの形状を角丸の四角形にする検討を始めました。

 丸みを帯びた形で参考にしたのが、棗(なつめ)という抹茶を入れる容器です。曲線が美しく、おいしそうなシズル感もある。滑らかなアールのある容器に入れた緑茶は、きっと美しいはず。そんなことをイメージしながらボトルをデザインしました。