新型コロナウイルス感染症拡大以降、店舗の在り方は大きく変わった。それを痛感している1社が三井住友銀行だ。2019年4~9月期は約10%程度だったネット経由の新規口座開設が、20年4~9月期には30%超に拡大するなどデジタルへの移行が進む。20年10月7日にはデジタル化推進に向け、新たな手数料を発表。月間400万人利用のアプリを最大の顧客接点と位置付け、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する。

三井住友銀行は2020年にアプリを刷新。アプリを最大の顧客接点と位置付け、マーケティングに活用する(写真/Shutterstock)
三井住友銀行は2020年にアプリを刷新。アプリを最大の顧客接点と位置付け、マーケティングに活用する(写真/Shutterstock)

 三井住友銀行は20年10月7日、新規口座開設者向けの新たな手数料を発表した。21年4月以降に普通預金口座を新規開設する顧客について、ネットバンキングなどデジタルチャネルの利用設定をせず、2年以上入出金がなく残高が1万円未満の場合は年額1100円(税込み)の手数料が引き落とされる(18歳未満、75歳以上の顧客は対象外)。残高が手数料に満たない場合は、口座を自動的に解約する。この発表は、DXを強力に推進する宣言ともいえる。

 同社はネットバンキングの提供にとどまらず、キャッシュカードの再発行や住所変更などこれまで店舗でしかできなかった銀行業務をネット経由でも可能にするなど、徐々にDXを進めてきた。最も重要な顧客接点となっているのが、スマートフォン向けアプリだ。アプリのダウンロード件数は20年10月時点で約700万件、うち月間利用者数(MAU)は400万人と高水準となっている。

 「新型コロナウイルス感染症拡大によって、顧客のデジタルシフトが加速した。19年4~9月には約10%だったネット経由の新規口座開設の比率が20年同期には30%超に拡大し、顧客との接点が店舗からアプリに変わってきた実感がある」

 三井住友銀行リテールIT戦略部プロジェクト推進第一グループの小西裕二グループ長はこう明かす。

 緊急事態宣言下では、ネット経由の新規口座開設の比率が50%近くまで高まったという。アプリのログイン頻度は月に9~10回に上り、店舗やATMの利用回数と比べても多い。従来、店舗の補完にすぎなかったアプリが、顧客から銀行業務を請け負う最大の窓口になりつつあると同社は認識する。この接点を生かし、アプリを中心としたマーケティングの強化を進める。

接点は最大でもマーケティング活用は不十分

 三井住友銀行は20年8月末にアプリを刷新した。取り組むのはデータを活用し、顧客のニーズに適した外貨預金、投資信託、住宅ローンといった個人向け金融商品やサービスの提案だ。従来なら来店時に窓口で銀行員が接客を通じて商品やサービスを提案できた。一方、アプリは利用頻度が高くても、その大半が残高確認をするとすぐに離脱してしまう。接客の機会損失とも言える状況だったわけだ。「データを分析して顧客に合った銀行のサービスを提案し、より便利に使ってもらいたい」。小西氏はそう考え、刷新版のアプリでは最も閲覧頻度の高い口座の残高表示の直下に、顧客ごとにパーソナライズしたコンテンツを表示できる枠を新たに設けた。

三井住友銀行は2020年8月にアプリを刷新し、残高照会の直下にコンテンツを配信する枠(青、橙、緑の枠でそれぞれ囲った部分)を設けた。青枠で囲った部分には顧客データに基づいて、パーソナライズしたコンテンツを配信する
三井住友銀行は2020年8月にアプリを刷新し、残高照会の直下にコンテンツを配信する枠(青、橙、緑の枠でそれぞれ囲った部分)を設けた。青枠で囲った部分には顧客データに基づいて、パーソナライズしたコンテンツを配信する

 新たに設けた枠には顧客のデータに基づき、関心を持つ可能性が高い商品やサービスに関するコンテンツを配信する。顧客のニーズを把握するために「当行で持っている1stパーティーデータ(事業主が自社で取得するデータ)を横断的に分析する」(リテールIT戦略部デジタル戦略企画グループの鈴木満久部長代理)。

 三井住友銀行の保有する1stパーティーデータは契約者情報に基づく性年代といったデモグラフィックデータ、アプリの利用データ、自社サイトのアクセスデータなどが挙げられる。銀行のサイトの他、オウンドメディア「Money VIVA(マネービバ)」のデータも利用する。Money VIVAは資産運用やライフプランなど、お金にまつわるさまざまな記事を掲載し、知識を身に付けてもらうためのサイトだ。商品やサービス紹介が中心の銀行サイトに比べ、閲覧した記事の履歴から顧客がお金に対してどのような悩みを抱いているかが推測しやすい。

三井住友銀行のオウンドメディア「Money VIVA(マネービバ)」にはお金にまつわるコンテンツが多数掲載されている。同サイトのアクセスデータやコンテンツを、アプリマーケティングに活用する
三井住友銀行のオウンドメディア「Money VIVA(マネービバ)」にはお金にまつわるコンテンツが多数掲載されている。同サイトのアクセスデータやコンテンツを、アプリマーケティングに活用する

 また、銀行ならではのデータが口座の入出金データだ。「人生にまつわる大きなイベントがあったときに、金融ニーズは生まれやすい」(鈴木氏)。例えば、出産だ。初めて児童手当が入金されれば、その顧客は子供ができたと推測できる。教育費の積み立てなどのニーズが高まる可能性が高い。サイトの閲覧履歴以上に高い確度で顧客のニーズを予測できる。