事前に商品券を購入することで、来店前から店舗を応援できる「先払い」サービスの利用が徐々に広がっている。モバイル決済サービスのSquare(東京・港)は従来の電子ギフトカードを「みらい優待券」として打ち出し、利用する加盟店が増加した。サントリーホールディングスがITベンチャーのGigi(ジジ、福岡市)が運営する「さきめし」に1億円の基金を拠出するなど、大手企業が支援に乗り出すケースも表れている。

サントリーホールディングスはITベンチャーのGigi(ジジ、福岡市)が運営する「さきめし」を支援するために1億円の基金を拠出
サントリーホールディングスはITベンチャーのGigi(ジジ、福岡市)が運営する「さきめし」を支援するために1億円の基金を拠出

 「新型コロナウイルス感染症拡大の影響では売り上げがほぼゼロになる中、わずか3日間で約100万円を集められた。おかげで20年4月から5月は経営がかなり楽になった」

 こう振り返るのは、長野県茅野市の日本料理店「和食 から木」店主の唐木正文氏だ。同店は20年4月から5月にかけて店舗の営業を停止。3月から徐々に顧客は減っていたが、営業停止期間は売り上げは完全にゼロになった。既存顧客に支えられてきた地方の高級飲食店ゆえに、弁当のテークアウトを始めたものの大きく売り上げを伸ばすことは難しかった。こうした状況下で活用したのが、Squareのみらい優待券機能だ。

 みらい優待券はもともと電子ギフトカードとして提供していた機能。利用者がお薦めの店舗で使えるギフトカードを購入し、メールやSNSのメッセージ機能などを介して、友人・知人など第三者にプレゼントする。受け取った人はギフトカードの額面分を来店時の支払いに利用できるものだった。その名称から第三者へのギフトの側面が強かったが、これを自分向けに購入できる電子商品券として、リブランディングしたのがみらい優待券だ。来店前に購入したみらい優待券は、来店時の支払いに利用できる。

 「新型コロナウイルス感染症の拡大で加盟店の多くは売り上げが大きく減少した。資金繰りに悩む店舗が増える中、ギフトカード機能を活用するアイデアが生まれた」と、Squareアクイジション・マーケティング・マネージャーの大塚拓海氏は刷新の背景を語る。将来的に来店する際に使える電子商品券を先払いで購入するだけで、店舗を支援できる。未来に使う優待券という意味を込めた名称へと変え、飲食店と消費者への案内を始めた。

 みらい優待券は一種のクラウドファンディングだ。日ごろから利用している飲食店が売り上げ減少で経営難に陥っていれば、顧客なら応援したくなるはず。その支援金を募る場として、クラウドファンディングの利用が拡大した。ただ、企画を実施するまでの準備に手間と時間がかかるのがクラウドファンディングの難点だ。みらい優待券ならSquareの管理画面で金額を設定するだけで、すぐにメールやSNSで顧客に案内して販売を開始できる。顧客は将来的に来店する際に使えるギフトカードを先払いで購入するだけで、店舗を支援できる。

思い立ったらすぐ始められる利点

 和食から木の唐木氏はSquareからの案内を受け、すぐに5000円、1万円、2万円、5万円、5000円以上の任意(カスタム)のみらい優待券を設定。「いただいた資金を使って危機を乗り切るので、ぜひ来店してください」というメッセージと共に、Facebookの店舗ページなどを通じて既存顧客に案内した。「中には10万円の優待券を購入してくれる人もいた」と唐木氏は言う。自身での利用はもちろん、従来と同様にギフトカードとしての利用もできるため、第三者へのプレゼントにも使われたのだろう。

長野県茅野市の日本料理店「和食 から木」はSquare(東京・港)の「みらい優待券」を使い、3日間で約100万円の運転資金を集めた
長野県茅野市の日本料理店「和食 から木」はSquare(東京・港)の「みらい優待券」を使い、3日間で約100万円の運転資金を集めた

 唐木氏が避けたかったのは、クーポンをばらまいて高級料理店というブランドを毀損することだ。店のブランドを守りつつ、応援してくれる人から先払いで対価を得られる仕組みとしてみらい優待券は有効的に活用できた。

 みらい優待券は飲食店以外の業態でも広く利用されているという。「小売店や美容系の店舗でも利用が進んでいる。業種を問わず使えるのがみらい優待券の特徴」とSquareの大塚氏は言う。例えば、那覇市の撮影スタジオ「ナチュラルライトスタジオ」はスタジオ再開後の来店希望者に対し、20%割引のみらい優待券を販売。記念日の撮影に向けて、事前の購入を促した。店舗の営業再開後も閑散期の売り上げを底上げする施策として期待できるという。コロナ禍でみらい優待券を利用し始めた加盟店のうち約2割が継続的に利用しており、コロナショック前と比較して利用店舗数は5倍になった。店舗と顧客をつなぐ新しい手段として定着しつつあるという。