コロナ禍によって大きな変化を迫られている日本の交通サービス。その中で、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)はどんな役割を果たすのか。MaaSの日本での普及促進を目指す一般社団法人「JCoMaaS(ジェイコマース)」の代表理事で、横浜国立大学で25年以上、都市と交通について研究を行ってきた中村文彦教授に話を聞いた。
MaaSに必要なのは情報の「公平性」と「信頼性」
—— 2018年12月のJCoMaaS設立から1年半以上が過ぎました。日本のMaaSの現状と課題について、どう見ていますか。
中村文彦氏(以下、中村氏) この期間で、MaaSという言葉がある程度浸透し、全国でMaaSのトライアルがいくつも出てきました。これ自体はいいことだと思っています。
一方で、MaaSについて、いろいろな解釈をする人が出てきたとも感じています。昔からあるツールやサービスをちょっとお色直しして、MaaSとうたっているケースもありますよね(笑)。現在は過渡期であると考えればその通りですが、あまりにMaaSという言葉が乱用されると、その本質がぼやけてしまいます。MaaS普及の中心的な役割を果たしたいと思っているJCoMaaSとしては、ちょっと気を引き締めないといけないと思っています。
MaaSの原点を振り返ってみると、フィンランドにおいて自家用車を少しでも減らすため、バラバラだった交通機関をつなげてユーザーの利便性を向上していこうという考え方でスタートしたものです。MaaSを手掛けるからには、その思想をきちんと知った上でサービスを考えてほしい。
私はよく「MaaSの中立性」について話します。私がMaaSの方向性として一番心配しているのが、各社が顧客を囲い込む方向にいってしまいがちだからです。例えば、Aという鉄道会社が、ある駅で複数の交通を一元化するサービスを作ったとします。そのとき、自社系列のバス会社やタクシー会社の情報しか出さず、ライバル会社のバスは表示されない状態だと、これはやはりMaaSの理念からは離れています。
ただし、そうなったとしても、短期的な事業性の観点から誰もA鉄道会社を責めることはできません。ですから、いずれ情報の公平性、信頼性という課題が出てくるのではないかと見ています。
また、近年日本では、大規模災害が多く発生しています。そうした非常時こそ情報が必要になる。毎日の通勤通学で経路検索を使うことはあまりないと思いますが、例えばいつも使っている電車が止まっていたり、避難所の親戚に会いに行きたいと考えたり、緊急事態のときこそ情報が必要です。本当に必要なときに情報を提供するには、どうすればいいのか。MaaSをやるときは、本来はそこまで考えるべきだと思っています。
もちろん何事もステップがありますから、現時点でそこまで求めるのは難しいかもしれません。ただ、「ちょっと便利なMaaSができたからOK」ではなく、「本当に社会に受け入れられ、持続するものを作るためにはまだやるべきことがある」ことを理解してほしい。
ですから、日本のMaaSの現状についてまとめると、「出だしはOK。でもゴールははるか先にある」と思っています。
「ピーク中心」のビジネスモデルは過去のものに
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