三井不動産が農業に参入した。農業法人のワールドファーム(茨城県つくば市)と合弁で新会社「三井不動産ワールドファーム」(東京・中央)を設立し、2020年8月1日から栃木県と茨城県で圃場(ほじょう)運営に乗り出した。三井不動産は、なぜ未経験の農業に挑むのか。

三井不動産が農業に参入した。北関東でキャベツなどを栽培、加工し、業務用として出荷する
三井不動産が農業に参入した。北関東でキャベツなどを栽培、加工し、業務用として出荷する

 高齢化に伴う担い手の減少、耕作放棄地の拡大、収益性の低下。日本の農業が抱える諸課題に、デベロッパーの雄、三井不動産が挑む。舞台は、栃木県芳賀町と茨城県筑西市周辺。約6ヘクタールから圃場運営を始め、2025年には約100ヘクタールに拡大する。21年夏までにキャベツをカットする加工用の冷蔵工場を、23 年夏までにホウレンソウやブロッコリーの冷凍加工工場をそれぞれ稼働し、将来的には首都圏近郊を中心に3000ヘクタールまで圃場を広げる予定だ。

 キャベツ、ホウレンソウ、ブロッコリーという3つの野菜を中心に生産し、業務用の冷蔵・冷凍加工野菜として飲食店や食品メーカー向けに出荷する。加工野菜に絞るのは、販売単価が比較的安定しており、保存も利くため、安定収益につながるからだ。多少いたんでいても、その部分を取り除いて加工すれば流通に乗せられる。生産量に対する商品化率を示す歩留まりの向上、フードロス対策にも有効とにらんだ。

 とはいえ、三井不動産に農業の経験は一切ない。そこでワールドファームから農業を学び、技術革新で生産性をさらに高める。「野菜を安定的に生産し、利益を出し続けられるノウハウをまずは確立したい。生産した野菜を加工し、安全安心な品質を担保して販売力をつけていく。これを最初の5年間でやる」。三井不動産ワールドファーム代表で、同社ベンチャー共創事業部の岩崎宏文氏は、そう展望を語る。

 それにしても、なぜ農業なのか。「地域の雇用創出と都心の人々の暮らし方の多様性の両方に応える、新しい都市をつくりたいという思いから始まった。新型コロナウイルスの感染拡大がかなり背中を押してくれた」と岩崎氏は振り返る。

 新型コロナを機に、これまでの働き方や暮らし方を再考した人は少なくない。「都心の居住者やオフィスワーカーの声を拾うと、何らかの形で地域に貢献したいというニーズがあった。農業という地域に根付いたビジネスを収益化し雇用を生み出すことで、育った場所で働くという選択肢が生まれる」(岩崎氏)。

 圃場周辺にリモートワーク環境を整えれば、都心のオフィスワーカーも、空き時間を利用して気軽に農業に参画できる。逆に農業で生計を立てながら、リモートワークを通じて都心の企業で働くという選択も可能だ。「都心とその近郊地域に住む人々が農業を通じて相互交流できる新しい都市をつくることは、都心や地方で様々な街づくりを行ってきた三井不動産だからこそできるアプローチだと思った」(岩崎氏)。

三井不動産ワールドファームが目指す都市モデル。都心からその近郊へ、近郊から都心へという相互交流の流れを生み出す
三井不動産ワールドファームが目指す都市モデル。都心からその近郊へ、近郊から都心へという相互交流の流れを生み出す

半年で事業化勝ち取る

 新型コロナが猛威を振るう前から構想の検討に着手し、約半年というスピードで社内承認を取り付けた。支援したのは「BASE Q」というビジネス創造拠点である。

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