凸版印刷と京都大学は、アーティストの思考法を新規事業創出に結び付ける独自の「アートイノベーションフレームワーク」を発表した。凸版印刷の人材開発プログラムとして同フレームワークを既に活用しており、今後は人材開発サービスの一つとして外販していく。
両社は2019年5月から3年間の予定で「凸版印刷アートイノベーション産学共同講座」を推進している。アーティストの京都大学総合生存学館の土佐尚子特定教授と共同で、アートと最先端テクノロジーを組み合わせた新しい社会価値の創造について研究していた。この一環で、アーティストの思考法がビジネスの発想にも生かせると判断し、フレームワーク化した。今後は外販していく方針で、発売時期は未定だが、問い合わせには応じている。
凸版印刷は現在、顧客のニーズに応じる「受注型ビジネスモデル」から、課題の解決だけにとどまらずに期待を超えた製品やサービスを提供しようとする「創注型ビジネスモデル」と呼ぶスタイルを目指して社内を改革中。自社の人材開発プログラムに同フレームワークを取り入れ、新たな価値創造に挑戦している。
5つのステップで考える
同フレームワークには5つのステップがある。ステップ1は「発見」で、自分の主観と好奇心で価値あるもの、面白いと思うものを発見していく。ステップ2は「調査」で、自分が発見したものの認識を深め、徹底的に調査する。他に似たようなものがないかを探索する。
ステップ3は「開発」で、自分が発見した面白いものに向けて、オリジナルな表現手法の適用を検討していく。ステップ4は「創出」になり、具体的なアウトプットのイメージを膨らませる。「ここが挫折しやすい部分。別の手法でアプローチすると予想もしなかったものが生まれる可能性がある」(土佐氏)。ステップ5は「意味付け」で、アウトプットしたものが何かを他人にも理解できるように、言葉によって意味付けする。
こうした流れに沿って凸版印刷は独自の「人財育成プログラム」を実施。選抜した課長クラスを対象に、「京都フィールドワーク」として京都で1泊2日の研修を19年度から計4回実施し、合計で約100人が参加した。狙いは「現在は必ずしも価値として認識されていないものに対して、自分の内面から考え出した新たな意味を与えて、新しい価値を創造する」ことにある。
例えば、ある日の研修スケジュールを見ると、1日目に土佐氏によるアートやカルチャー、テクノロジーをテーマにした講義の他、京都市内の人間国宝の工房を見学したり庭園や寺社、美術館などを訪問したりして専門家に話を聞く。その後に日本美とAI(人工知能)をテーマに講義があり、参加者全員でグループディスカッションを実施する。2日目は寺社での座禅体験や、京都の伝統的な産業技術を研究する専門家に話を聞く。最後に2日間で得た学びや気づきを生かし、個人の主観に基づくアウトプットを作る。土佐氏のコーディネーターにより、通常では訪問できない場所で貴重な話を聞くことができるし、何百年と受け継がれる伝統技術を現代にどのように適合させているかを知ることもできるという。
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