「BanG Dream!(バンドリ!)」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「カードファイト!! ヴァンガード」などの人気IP(知的財産)を持つブシロードにとっても、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う各種イベントの中止は痛手となった。ただ、同社代表取締役会長の木谷高明氏は、「新型コロナの影響をいち早く想定し、2020年1月末から対策に動いていた」という。その言葉通り、20年2月には同社主催の全イベントの中止を決定。その内容を聞いた前回記事に続き、本記事ではここからビジネスをどう立て直すのか、今後のリアルイベントはどうなるのかに話を進める。
<前回はこちら>
イベントではオリジナルマスクを配布、販売
――前編に続き、コロナ後のイベント運営について伺っていきたいと思います。すでに実施が決まっているイベントはありますか。
木谷高明氏(以下、木谷氏) 2020年7月4日から8月9日まで、東京・水道橋の東京ドームシティにある「Gallery AaMo」で「バンドリ!&スタァライト展 in Gallery AaMo」という展示イベントを実施します。
――そのイベントではどのような感染対策を?
木谷氏 午前と午後に分けてチケットを販売し、入場人数を制限します。場内にいる来場者をコントロールすれば、会場はかなり広いので、ゆったり見られると思います。
加えて、入場特典として洗えるウレタンマスクを配布します。このマスクはもともと19年のイベントでお世話になったデザイナーさんが送ってくれたものなのですが、使ってみたら装着感がとてもいい。社員にもとても好評でした。使ってもらえば、きっとすぐに良さが分かると思います。
そこで、まずは入場特典として配布し、グッズとしても販売します。気に入ってくれた人からは絶対に注文が入ると思いますよ。
――「BanG Dream!(バンドリ!)」のオリジナルグッズとしても布製マスクを作っていらっしゃいますね。
木谷氏 20年4月末から受注生産で数回販売しました。布製で、ゲームのファンでなくとも使えるデザインにしています。この夏は暑さを感じにくいない素材で、洗って何度でも使える布製マスクが主流になると見ています。
withコロナ時代のライブビジネスの姿とは
――マスクプレイミュージカル(ぬいぐるみ人形劇)の老舗である劇団飛行船(川崎市)と資本業務提携をしたときや、傘下のブシロードファイトが女子プロレス団体スターダムの事業を引き継いだときなど、折に触れライブコンテンツの魅力を強調されてきました。withコロナ時代のライブイベントはどう展開していきますか。
木谷氏 まずは無観客(での配信)から始めることになるでしょう。次に座席の間隔を空けてのリアル公演を実施する。こうしてコロナ禍でのノウハウを積むうちに、世間の感覚が“日常”に戻っていくと僕は考えています。
先日、あるWebサイトで読んだ記事によると、新型コロナの収束には社会的な収束と医学的な収束の2通りがあるというんですね。社会的な収束とは、新型コロナがある状態に慣れてその妥協点が見えてくること。僕はそのパターンが有力だと思っています。
すでに人々の感覚は少しずつ戻り始めました。飲食店では人々が隣り合って座り、食事中にはマスクを外します。それなのに、なぜ劇場は前後左右の席を空けなければならないのか。劇場、特に新しい施設は空間自体が広く、換気設備もいいのに。矛盾を感じますよね。
だからこの間隔は徐々に狭まっていくのではないでしょうか。2席おきが1席おきに、2メートルおきが1メートルおきに、さらには70センチおきにというように。
それに必ずしも等間隔で空ける必要はないとも思います。例えば、親子や同行者の席は隣同士に座ってもらっても構わないでしょう。その分、他のお客さんとの間隔が広くなるなら、むしろメリットは大きいですから。
――プロレスはどうでしょう?
木谷氏 新日本プロレスは6月にまずは無観客試合をやります。その後は、その反応を見て考えるつもりです。需要はあると思うので、何か施策を打てばすぐに反応があるでしょう。
当面は座席を間引くことになるでしょうね。観客が声援を上げることについては「仕方ない」と思いますよ。これから1年、いろいろな工夫を続けて、来春ごろにはプロレスも日常に戻っていくと見ています。
もう1つ、野外のイベントもあります。20年8月21日から3日間、山梨県・富士急ハイランドのコニファーフォレストで「『BanG Dream! 8th☆LIVE』夏の野外3DAYS」というイベントを開催します。最大で1万6000人ほど入る会場ですが、どこまで観客数を減らせば許されるのかが考えどころ。6月末までチケットの抽選や販売を伸ばして様子を見ることにしました。
見せるべきは作り手の熱意
――withコロナ時代には、ライブ配信が主体のオンラインイベントも活発になるのではといわれています。
木谷氏 ブシロードも20年5月3~5日に配信イベントを行いました。もともと5月3日に埼玉・メットライフドームで開催予定だったライブ「BanG Dream! Special☆LIVE Girls Band Party! 2020」が中止になり、その代替策として企画したものです。3日間に分け、20年2月に発売したライブBlu-ray(19年2月に日本武道館で開催したライブイベント「TOKYO MX presents BanG Dream! 7th☆LIVE」の様子を収録)の映像を配信しました。
配信では映像ソースをそのまま流すこともできますが、このイベントでは声優5人がiPadとビデオ会議サービス「Zoom」を使い、リモートでコメントしまくるという工夫をしました。
そのせいでライブ音声が聞きづらくなったところもあって、ユーザーからは「コメントの声を小さくしてほしい」といった意見も出ましたが、それもライブ配信の面白さでいいかと。
――視聴者数はどれくらい集まったのでしょうか?
木谷氏 2日目が一番多く、同時接続者数が約5万5000人。ユニーク視聴者数は約15万人でした。3日間で1回でも見た人の数は25万~30万人になると思います。
配信した映像を収めたBlu-rayは発売から3カ月ほどたっています。ファンの方たちには一通りお買い上げいただいていると思っていたのに、この配信イベントの後にかなり売れて驚きました。
もう1つ驚いたのは、中止になった「BanG Dream! Special☆LIVE Girls Band Party! 2020」のグッズもかなり売れたことです。ライブが中止になり、グッズだけを通販で販売したんですが、その売り上げは、開催した場合に予想していた金額の70%ほどに達しました。
――それは配信イベントの効果ですね。
木谷氏 まさにそうです。オンラインもオフラインも、結局は盛り上げ方次第だと思います。今回は、Blu-rayの映像をただ流すのでなく、声優がリモートでコメントを付けるなどイベント化したことが大きかった。主催者がきちんと知恵を絞っているかどうか、努力しているかどうかをお客さんはきちんと見ていると思いますよ。オンラインイベントでも見せなければならないのは熱意、パッションです。
――御社が手掛けるプロレスもそうですが、スポーツの無観客試合はどうしても寂しく感じる部分もあります。そこへの工夫は?
木谷氏 やはり演出が大事です。例えば、客席で僕や関係者が見ているのをカメラが抜くだけで、印象は大きく変わるでしょう。技術的には、リモートで見ている人の音声をマイクで拾い、それを配信にミックスするなども可能ではないかと思います。
――ライブ配信における「投げ銭」システムへのお考えは?
木谷氏 当社のビジネスにおいては、収益性やコンテンツを盛り上げる効果は薄いと見ています。投げ銭はあくまでも出演者個人に対しての“お布施”であって、コンテンツそのものにお金を払っているわけではない。チケット代を払ったうえでの投げ銭となればまた話は違うでしょうが、個人ではなく主催者にお金が行くと思ったら、ファンは投げ銭をしないと思いますね。
木谷氏が予想するエンタメ&スポーツ業界の大再編
――新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、今後のエンターテインメント業界はどう変化していくでしょうか?
木谷氏 例えば、外出自粛によってテレビの視聴率が上がったといわれますが、アニメはあまり影響がないんです。これは、配信で見ればいいという層が多いということだと思います。
そう考えると、すでに配信が盛んなエンターテインメント分野は、今後ますます配信中心になっていくでしょう。アニメはその例。テレビの“深夜アニメ”は配信に取って代わられるかもしれません。YouTubeなどの配信サービスがそのまま見られるスマートテレビの利便性も広く知られるきっかけになるように思います。
ゲームへの嗜好も変わるでしょう。今までは通勤などの移動時間があったからモバイルゲームが支持されてきた。でも家で遊ぶなら、大きい画面のほうが快適です。『あつまれ どうぶつの森』など家庭用ゲーム機のゲームが見直された面がありますね。
もう1つ、IP(知的財産)の力がより強くなった気もしています。
――どういうことでしょう?
木谷氏 外出や人との接触を控える生活の中ではプロモーションやマーケティング施策においても大きな仕掛けがしにくく、新規に始めるのも難しくなります。そういう状況ではすでにあるもの、みんなに好かれているものがより有利になるんです。ブランド価値が高いというか、安心感があるIPがより受け入れられやすくなる。シリーズものはどんどん強くなる。つまり、強いIPが徹底的に勝つ一方で、弱いIPは全然強くなれないという話なんですよ。
消費者の行動を見ても、電子書籍で気に入った作品を紙の書籍で買い直したり、関連グッズを買ったり。音楽もサブスクリプションで聴けるのにわざわざCDを買い直したりね。
これはメーカーに関しても同じです。メディアとエンタメ、スポーツ団体などが融合し、コングロマリット化が一気に進む可能性がありますね。
――スポーツ団体もですか?
木谷氏 近年はスポーツの放映権料がある種のバブルのように高騰していましたが、今回の騒動でそれがはじけたかな?という気がするんです。支えていたメディアの力が弱まっていますから、放映権ビジネスが小さくなってくるんじゃないですかね?
ハリウッドに無数にあった映画会社が大恐慌を経て数社しか生き残れなかったように、エンターテインメントの会社もどんどん統合されていくのではないでしょうか?
ブシロードが上場した背景も実はそこにあります。食い合いの時代を生き残るには大きくなるしかないと思ったんですよ。
――プロスポーツのスポンサーとして航空会社はかなりの影響力を持っていますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響は甚大です。
木谷氏 当然、プロスポーツチームの運営への影響も大きいでしょう。当社が抱える新日本プロレスで言えば、選手へのギャラは原価に当たります。今は興行ができず、売り上げがないので原価だけが発生している状態です。経費は削れますが、原価はなかなか削れません。そんな中、前編で触れたようにグッズや配信の売り上げがあったことには本当に感謝しています。
それでもプロレスはまだ規模が小さい。メジャースポーツの影響はもっと大規模でしょう。現に米大リーグなどで選手の年俸を削減する動きも出てきましたが、スポンサーが耐えられず、再編が起こるスポーツもあるのではと感じています。
グッズ購入などで支援してくれるファンもいますが、そう長くは続きません。長引けば他の楽しみにファンを奪われかねない。エンタメならばコンテンツを作り続けること、スポーツならば無観客でも試合を開催することでしか解決にはならないと考えています。
(写真/酒井 康治、写真提供/ブシロード)