※日経トレンディ 2020年8月号の記事を再構成

新型コロナウイルスが社会に大きな影響をもたらす中、日本を代表するマーケターである森岡毅氏が、独占インタビューで緊急提言。マーケティングマインドを持つビジネスパーソンたちが今、日本のため、消費者のために何を為すべきかを、熱を込めて、教示する。

東京・品川駅の写真:読売新聞/アフロ
東京・品川駅の写真:読売新聞/アフロ
森岡 毅氏
戦略家・マーケター
マーケティング会社「刀」の代表CEO
P&Gを経て2010年USJに移籍。僅か数年で同社の経営再建を果たす剛腕を見せる。使命完了後の17年にマーケティング精鋭集団「刀」設立。以来、エンターテインメント、飲食、金融など、幅広い業界の多くの企業と協業し、実績を積み上げている

森岡さんは、マーケティング会社「刀」の代表として多くの企業と協業を進める一方、沖縄に数年後に開業予定の新テーマパークの計画にも取り組んでいる。それらの事業に新型コロナウイルスの影響はありましたか?

森岡 毅氏(以下、森岡氏) 協業という形で取り組んでいるプロジェクトで影響を受けたものはいくつかあります。しかし、どれもピンチをバネにする戦略を組んで克服する覚悟です。例えば2021年に予定している西武園ゆうえんち(埼玉県所沢市)のリニューアルについては、計画通りに進めています。沖縄の新テーマパークも同様です。このような社会状況のため困難はあると思いますが、実現に向けてまい進しています。こんなときこそ、エンターテインメントの力が必要になると確信しています。

 阪神・淡路、東日本と大震災を経験してきましたが、疫病は、これまでにない苦境を私たちにもたらしました。経済活動に携わる人間として、コロナ環境下で何をすべきか。その答えを見いだすために、目の前で刻一刻と起きている現象に惑わされることなく、問題の本質を見極めようと心がけていました。

新型コロナウイルスがもたらした問題の本質とは、何だったのでしょう?

森岡氏 一言で言うと、「恐怖」です。恐怖には2種類あります。もしかして自分や大切な人の生命が失われるかもという恐怖と、世の中が大混乱に陥って経済的にダメになるかもしれないという恐怖です。つまり、生命に関わる恐怖と経済的な恐怖、この2つが今、人間のすべての行動に多大な影響を与えています。コロナがもたらした災厄は、この恐怖が無くならない限り終息しないでしょう。

 恐怖が完全に無くなるには、ワクチンや治療薬など、誰もが有効と信じられる対策が普及しなくてはいけません。これまでのパンデミック、例えばスペイン風邪、SARSなどの例を確認したところ、有効な対策が確立するまでに約2年かかっています。新型コロナウイルスは、世界各国が同時に研究に取り組んでいますから、その期間はもう半年くらいは短くなるかもしれない。いずれにせよ、18カ月から24カ月の間は、コロナは人間に恐怖を与え続けるわけです。ワクチンが開発されたからといって、恐怖がすぐに払拭されるとは限りませんから、経済的な影響はもう少し長く続く可能性もあります。

その間、経済的には我慢の状態を強いられるのでしょうか。

森岡氏 事態がこのまま良くなるのか、また再び悪化するのかは、予想しがたいです。確かなのは、感染が再び拡大すれば、政府が緊急事態宣言を発して、人々に自粛を要請するかもしれないという恐怖を、我々が抱いていることです。その不安があるから、新たな投資がしにくくなるし、人々の消費活動もなかなか活発になりません。これから1~2年は、おそらくコロナ以前の6~7割の規模で、経済活動は推移するのではないでしょうか。7割という数字は、人々の動向を追っている各種データから推測したものです。これはとんでもなく厳しい数字です。特に外出ビジネスが大きな打撃を受けるのは、説明するまでもないでしょう。外食産業、観光業、そして各種イベントや映画館などのエンターテインメント業は、恐怖の煽(あお)りをもろに受けます。

苦境をチャンスに変える「解」を導く

恐怖に打ち勝ち、経済的なダメージを少なくするためには何をすべきでしょう?

森岡氏 大切なのは「100かゼロかではなく、プロならばその間で考え抜け」ということです。

 会社や店を経営していて、クラスターを発生させてしまうのは恐怖です。それを避けるための最もシンプルな方法は、たとえ利益が出なくても、会社を閉めてしまうことです。安全のためにそうしたと言えば、株主にも言い訳が立ちます。しかし、それは経営者としては「自己保存」にすぎない。経済を活性化させるには、ある程度のリスクも取らなければいけない。その決断ができる人材が求められています。

 これはリーダーに限った話ではありません。要はビジネスパーソンの一人一人が、それぞれの持ち場でプロになれ、という話です。プロとは何か。安全を取るか、経済を取るか、2つの使命が相矛盾する中で、どちらか一方に偏らず、目的に応じた最適解を導き出せるということです。100%の安全を求めて、みんなで家に閉じこもるだけなら、プロじゃなくてもできるのです。100とゼロの間で決断できることが重要です。

100でもゼロでもない判断を下す際には、何を基準にすれば良いでしょう?

森岡氏 企業やブランドとして「何を守るべきか」を決めることが大切です。それは、会社の都合ではなく、消費者目線でないといけない。つまり、お客様との究極の約束を守るということです。もちろんコロナによって消費者の意識が変わる中、ブランドの再定義を迫られることはあるでしょう。その場合も、消費者のプレファレンス(ブランドへの好意度)獲得につながる核心を外してはいけません。それこそが守るべきポイントだからです。

 消費者との信頼関係を保つために、コロナ環境下の文脈で、従来のやり方を修正していくことが、私は正しいと思う。企業が生き残れるかどうかの分かれ目は、今後1年以内に来ると見ています。それまでに何を守ればよみがえるのかを見極めなければいけません。逆に言えば、世の中の人々の本意に沿えれば、経済的に苦しい時代にあっても、中長期的にブランドのプレファレンスを上げることもできる。苦境をチャンスに変えられるのです。

「消費者との『約束』を守れ」

■ プレファレンス(消費者からの好意度)を中長期的に上げる好機を逃がすな
プレファレンスを左右するのは
  1. ブランドエクイティ(消費者がブランドに持つイメージ)
  2. 価格
  3. 製品やサービスのクオリティ

 プレファレンスを上げる 
  
 消費者に選ばれる確率が上がる 
  
 市場シェアが上がる 
■ 苦しいときでも「強いアイデア」を生み出す4つの要素
  1. フレームワーク:
    アイデアを生むために何を必死に考えるべきか、その必要条件を明確にする
  2. リアプライ:
    過去から現在までの参考になる事例に目を向ける
  3. ストック:
    日頃から情報を質的・量的に蓄積して得意分野をつくり出す
  4. コミットメント:
    淡白な人に「アイデアの神」はほほえまない。考え付くまで、考え抜く!

後編(7月7日公開予定)に続く

(写真/水野浩志、高山 透)